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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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雪道越えて新たなる街へ向かひしこと

 北の村を離れし一行。


 再び旅路へ戻りたり。


 白き雪原。


 遠く連なる山々。


 冷たき風。


 されど、そこに以前の如き不安は無し。


 黒き翼が空より襲ひ来ることもなく。


 巨大なる虫が地を揺らすことも無し。


 ただ広き世界を進む旅なりけり。


 先頭。


 黒牛。


 いつもの如く歩みたり。


 その後ろ。


 鉄の牛車。


 否。


 軽虎。


 がらがらと音を立て進みたり。


 速度。


 時速四キロ。


 変はらず。


「……」


 佐藤。


 荷台より景色を眺めたり。


「久しぶりだな」


 そう呟きたり。


 レン。


 横を見る。


「何がだ?」


「この感じ」


 佐藤答へたり。


「最近、戦争とか神界とか巨大虫とか多すぎたから忘れてたけどさ」


「俺たち旅してたんだよな」


 そう。


 本来。


 彼らは旅人なり。


 世界を見て。


 知らぬ土地へ向かひ。


 色々な者と出会ふ。


 それが目的なり。


 決して。


 魔王と戦ひ。


 巨大虫と戦争し。


 ソ連攻撃機を運用するためでは無し。


「普通、旅であんなこと起こらないからな」


 佐藤言ひたり。


 すると。


 貴光。


 魚を食ひながら答へたり。


「良き経験なり」


「軽いな」


 佐藤、即答せり。


 この男。


 平安貴族。


 屋敷を散歩していたところ軽トラに轢かれ。


 異世界へ来たり。


 その軽トラを召喚し。


 運転出来ず。


 牛に牽かせ。


 さらに宗教騒動を起こし。


 今では腰にナガンM1895を下げている。


 されど。


 本人。


 全く変はらず。


「魚美味なり」


 それだけなり。


「ある意味最強だよな」


 佐藤呟きたり。


 その後方。


 歩きながら周囲を見る二人あり。


 アレクセイ。


 ヴィクトル。


 ソ連より来たりし者たちなり。


 彼らもまた。


 この奇妙なる旅へ加はりたり。


 空を飛ぶ時以外。


 Il-2は召喚せず。


 必要な時のみ使ふこととなりけり。


 理由。


 簡単なり。


 目立ちすぎる。


 巨大なる鉄の鳥が常に近くへ置かれていれば、どこの街でも大騒ぎ間違ひ無しなればなり。


「まあ軽トラの時点で十分目立つけどな」


 佐藤言ひたり。


 黒牛。


 聞かず。


 歩く。


 その日の昼。


 一行は雪原途中にて休憩を取ることとなりたり。


 火を起こし。


 食事を作り。


 久方ぶりなる普通の旅時間なり。


 フィア。


 温かき飲み物を作りたり。


 エレノア。


 荷物整理。


 レン。


 剣の手入れ。


 ヴィクトル。


 DP-27の確認。


 佐藤。


 それを見る。


「……」


「やっぱ普通じゃないな」


 普通の旅。


 とは。


 何か。


 考へさせられる光景なり。


 剣。


 魔法。


 軽機関銃。


 喋る馬鈴薯。


 鉄の牛車。


 どこを見ても異常なり。


 しかし。


 その中で一番堂々としている者。


 貴光なり。


 雪景色を見る。


 静かに。


 そして言ひたり。


「美しき景色なり」


 珍しく。


 まともな言葉。


 佐藤。


 少し驚きたり。


 貴光。


 続ける。


「このような場所では歌を詠みたくなるなり」


「歌?」


「和歌なり」


 佐藤。


 思ひ出したり。


 そうだった。


 この男。


 忘れがちなれど。


 本来。


 貴族なり。


 戦士でも。


 冒険者でも無し。


 雅を好む者なり。


「そういやお前、貴族だったな」


「何と思ひたり?」


「牛車職人」


「違ふなり」


 当然なり。


 貴光。


 雪原を見る。


 そして。


 一句詠まんとしたり。


 静寂。


 風。


 雪。


 美しき時間。


 されど。


 その横。


 ポテ子。


 小さく言ひたり。


「軽虎様の白き祝福ですね」


「違ふ」


 佐藤。


 即答。


 雅。


 破壊されたり。


 貴光。


 少し残念そうな顔なり。


 夕方。


 一行。


 遠くに街を見る。


 北方地方でも大きき街なり。


 高き壁。


 煙突より上がる煙。


 多くの人々。


 久方ぶりなる都市なり。


「街だ!」


 佐藤。


 少し嬉しそうに言ひたり。


 理由。


 簡単なり。


 宿。


 市場。


 料理。


 文明。


 普通の生活。


 それらがある。


「今回は何も起こらないといいな」


 エレノア言ひたり。


「本当に頼む」


 佐藤答へたり。


 だが。


 一つ問題あり。


 門。


 そこに立つ兵士。


 一行を見る。


 まず。


 黒牛を見る。


 次。


 鉄の牛車を見る。


 次。


 腰に謎の鉄筒を下げた平安貴族を見る。


 次。


 ソ連兵を見る。


 最後。


 喋る馬鈴薯を見る。


「……」


 兵士。


 固まりたり。


 当然なり。


「身分確認を……」


 そこまで言ひ。


 再び見る。


 何から確認すべきか。


 分からぬ。


 佐藤。


 小さく呟きたり。


「まあこうなるよな」


 予想通りなり。


 ポテ彦。


 前へ出たり。


「安心してください」


「私は王都国立大学卒業です」


 沈黙。


 兵士。


 さらに混乱したり。


「そこじゃないんだよ」


 佐藤。


 ため息をつきたり。


 こうして。


 新たなる街。


 最初の問題。


 入る前より始まりけり。

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