北の村にて久方ぶりの静けさ得たりしこと
朝日、雪原を照らしけり。
数日前まで響き渡りし轟音も無く。
空を覆ひし黒き翼も無く。
地を揺らせし巨大なる影も無し。
ただ白き大地広がり、遠き山々より冷たき風流れ来たりけり。
北の村。
そこには久方ぶりなる平穏戻りたり。
されど、村の者たちにとりて、あの戦いは夢などでは無し。
壊れし柵。
雪原に残りし跡。
そして村外れに置かれし巨大なる鉄の鳥。
全てが、確かに起こりし出来事を示しておりたり。
一行は村長の厚意により、しばらく村の空き家を借りて過ごすこととなりけり。
旅続きに加へ、洞窟での戦い。
疲れを癒やす時間も必要なればなり。
朝。
暖炉の火が小さく燃ゆる家の中。
佐藤。
目を覚ましたり。
「……」
天井を見る。
静か。
何も起こらぬ。
虫も来ぬ。
魔物も来ぬ。
神から変な物も落ちて来ぬ。
「平和だ……」
佐藤、心より呟きたり。
されど。
その直後。
「佐藤様」
声聞こえたり。
横を見る。
そこには。
ポテ彦。
そしてポテ子。
二つの馬鈴薯並びておりたり。
「……」
「朝起きて最初に見る景色がジャガイモ二個ってどうなんだろうな」
「失礼ですね」
ポテ彦答へたり。
「王都国立大学卒業の馬鈴薯です」
「肩書き付いても馬鈴薯なんだよ」
いつもの朝なり。
外へ出れば。
黒牛、村人の用意せし小屋にて草食みたり。
寒き土地。
されど黒牛。
気にする様子無し。
ただ。
草。
食みたり。
「相変わらず強いなあいつ」
佐藤呟きたり。
その横。
貴光。
頷きたり。
「立派なる牛なり」
「いや普通の牛は巨大虫との戦争後に何事も無かったみたいな顔で草食わないけどな」
黒牛。
聞いておらず。
草。
食みたり。
平和なり。
その後。
一行は朝食を取りたり。
村人より分けてもらひし温かき料理。
魚。
野菜。
そして。
馬鈴薯料理。
「……」
佐藤。
皿を見る。
次。
ポテ彦を見る。
「気まずくない?」
「何がでしょう」
「いや、お前の同族的な」
「違います」
即答なり。
「私は馬鈴薯ですが、あれは食用馬鈴薯です」
「分類細かいな」
その横。
ポテ子。
静かに言ひたり。
「全て軽虎様の恵みです」
「絶対違う」
佐藤、即否定したり。
軽虎教。
相変はらずなり。
食事終へし後。
村の広場へ向かひたり。
そこでは。
アレクセイとヴィクトル。
村人に囲まれておりけり。
理由。
単純なり。
Il-2なり。
子供たち。
鉄の鳥を見るため集まりたり。
「本当に飛ぶの?」
「空の魔物倒したんだろ?」
質問。
止まらず。
アレクセイ。
少し困った顔をしたり。
ヴィクトル。
笑ひたり。
「人気者だな」
佐藤言ひたり。
貴光。
訳す。
アレクセイ。
首を振る。
「Самолёт популярен, не я.(人気なのは飛行機で、俺ではない)」
貴光。
そのまま訳したり。
「鉄の鳥が人気であり、自分では無しと言ひたり」
「謙虚だな」
佐藤答へたり。
だが。
村人にとりて。
彼らもまた英雄なり。
空より守りし者。
それは忘れられぬ。
一方。
ヴィクトルはDP-27の手入れをしておりたり。
弾薬は無限。
されど。
武器は大切に扱ふ。
兵士として当然なり。
「その武器も持っていくのか?」
レン問ひたり。
ヴィクトル。
頷く。
「必要になるかもしれない」
貴光訳したり。
確かに。
この旅。
何が起こるか分からぬ。
魔王。
巨大虫。
空飛ぶ魔物。
次。
何が来るかなど誰も知らず。
そして。
佐藤と貴光。
二人の腰にも。
ナガンM1895。
残りたり。
「まさか俺が銃持って旅することになるとはな」
佐藤言ひたり。
「人生とは奇妙なものなり」
貴光答へたり。
「お前が言うと説得力ありすぎるんだよ」
平安貴族。
異世界転生。
軽トラ召喚。
黒牛牽引。
そして拳銃所持。
奇妙どころでは無かりけり。
昼過ぎ。
ポテ彦。
村外れへ向かひたり。
そこには。
封鎖されし洞窟入口ありけり。
完全に塞がれてはおらず。
奥深き地下へ続く道。
残されていた。
人は地上。
虫は地下。
互いの領域。
分けられたり。
「また出てくると思うか?」
佐藤問ひたり。
ポテ彦。
少し考へたり。
「分かりません」
「ですが」
「あの王なら、同じ過ちは繰り返さないでしょう」
甲殻王。
敵であり。
味方でもあった存在。
不思議なる関係なり。
夕方。
村。
宴開かれたり。
戦勝祝いでは無し。
平和戻りし祝いなり。
歌。
料理。
笑ひ声。
久しく失われていた日常。
戻りたり。
貴光。
魚を食ひたり。
一匹。
二匹。
三匹。
いつ買ったか。
誰も知らず。
「また魚食ってる」
佐藤言ひたり。
「美味なり」
「それだけで人生楽しそうだな」
貴光。
頷く。
「楽しく生きるは大切なり」
妙に正しきこと言ひたり。
佐藤。
少し笑ひたり。
かくして。
長き戦い終へし一行。
北の村にて。
久方ぶりなる穏やかな夜を過ごしけり。
されど。
旅はまだ終はらず。
この世界。
広し。
まだ見ぬ土地。
まだ見ぬ者。
数多く待ち受けたり。
そして。
奇妙なる一行は。
再び歩み出す時を迎へんとしておりけり。




