人と王、共に深き闇へ挑みしこと
地下空洞。
奇妙なる光景ありけり。
数刻前まで。
命を懸けて争ひし者たち。
人。
そして。
甲殻の王。
今。
同じ方向を向きたり。
相手は。
暴走個体。
急激なる進化の果て。
制御失ひしもの。
生きるための変化。
されど。
行き過ぎた変化。
それが生み出した失敗なり。
「……」
佐藤。
ナガンを構へながら呟きたり。
「今日だけで状況変わりすぎだろ」
もっともなり。
朝。
甲殻王を倒すため洞窟へ来たり。
昼。
甲殻王と戦ひたり。
そして今。
甲殻王と共に戦っている。
普通では無し。
されど。
この一行に普通など最初から少なかりけり。
「敵の敵は味方なり」
貴光言ひたり。
「まあそうだけど」
佐藤。
横を見る。
そこには。
甲殻王。
立っていた。
「味方が怖すぎるんだよ」
当然なり。
人より大きき虫。
鋭き爪。
硬き甲殻。
どう見ても味方の姿では無し。
されど。
その王の後ろ。
幼き虫たち。
守られておりたり。
それだけは。
確かなり。
その時。
奥。
暴走個体。
動く。
姿。
歪。
甲殻は不規則。
脚の数すら安定せず。
しかし。
力。
異常なり。
壁を砕き。
突進。
甲殻王。
迎へ撃つ。
衝突。
洞窟。
揺れたり。
「すご……」
フィア呟きたり。
王。
力では押され気味なり。
暴走個体。
進化の失敗。
されど。
それは弱いという意味では無し。
安全性。
安定性。
それらを捨てた代わり。
一時的な力は高し。
「まるで壊れた兵器ですね」
ポテ彦言ひたり。
「使い続ければ壊れる」
「ですが」
「壊れるまでの性能だけなら高い」
佐藤。
「例えが怖い」
その時。
暴走個体。
王を押し飛ばす。
そして。
幼き虫へ向かひたり。
「まずい!」
レン。
走る。
剣。
一撃。
止める。
エレノア。
身体強化。
横より攻撃。
暴走個体。
後退。
そこへ。
銃声。
響く。
ヴィクトル。
DP-27。
連射。
弾丸。
甲殻を削る。
しかし。
止まらぬ。
「硬い!」
佐藤叫ぶ。
暴走個体。
王と同じ進化の力。
だが。
防御配分。
無茶苦茶なり。
弱点。
見つけづらし。
ポテ彦。
じっと観察。
戦いの中。
冷静に。
研究者として。
見る。
「……」
「右側です」
「え?」
「右側の甲殻だけ異常に厚い」
「つまり」
佐藤。
気付く。
「反対は薄い?」
「はい」
不完全なる進化。
そこに弱点あり。
佐藤。
叫ぶ。
「左狙え!」
貴光。
訳す。
アレクセイ。
動く。
ヴィクトル。
位置変更。
左側へ。
撃つ。
命中。
暴走個体。
大きく揺れる。
「効いてる!」
だが。
終はらぬ。
奥。
さらに音。
かさ。
かさ。
複数。
現れたり。
暴走個体。
一体では無かった。
「嘘だろ……」
佐藤。
絶望気味に言ひたり。
だが。
その時。
甲殻王。
前へ出たり。
そして。
音。
鳴らす。
人には分からぬ音。
しかし。
幼き虫たち。
奥へ逃げ始めたり。
「避難させてる?」
エレノア言ひたり。
ポテ彦。
頷く。
「王ですね」
「群れを率いる存在」
名前通り。
王なり。
支配者では無し。
守る者なり。
その姿。
村人たちも見たり。
今まで恐怖の対象だった存在。
しかし。
少しずつ。
見方。
変はり始めたり。
戦闘。
再開。
暴走個体。
三体。
迫る。
レン。
一体。
止める。
エレノア。
一体。
受ける。
甲殻王。
一体。
抑える。
後方。
ヴィクトル。
支援。
佐藤。
ナガン。
撃つ。
七発。
使い切る。
「弾!」
装填。
焦る。
手間取る。
その横。
貴光。
ゆっくり装填。
「落ち着くなり」
「何でお前の方が慣れてんだよ!」
いつもの二人。
されど。
確かに成長しておりたり。
戦えぬ者。
そう思ひし佐藤も。
今は。
仲間を守るため撃つ。
そして。
戦いの中。
ポテ彦。
あることに気付く。
「……」
「どうした?」
佐藤問ふ。
ポテ彦。
洞窟奥を見る。
「これで終わりではありません」
沈黙。
「どういうことだ」
レン問ふ。
「暴走個体」
「これだけなら、王だけでも対処出来たはずです」
確かに。
王は強い。
ならば。
なぜ。
ここまで追ひ詰められたのか。
答へ。
奥より聞こえたり。
低き音。
今までとは違ふ。
重き足音。
甲殻王。
反応。
明らかに警戒。
奥。
暗闇。
巨大なる影。
現れたり。
失敗した進化。
その中で。
偶然。
生まれてしまひしもの。
制御出来ぬ力。
暴走個体の中心。
もう一つの王。
それが。
ゆっくり姿を現しけり。




