甲殻の王、守りしもの知りたりしこと
地下空洞。
戦い。
一度止まりたり。
否。
完全に終はりしわけでは無し。
レンは剣を構へ。
ヴィクトルはDP-27を構へ。
エレノアも魔力を込めたり。
されど。
誰も動けざりけり。
理由。
単純なり。
目の前に見えしもの。
それが、予想とは違ひたりし故なり。
小さき虫。
まだ戦う力持たぬ幼き個体。
それらが。
洞窟奥に集まりておりたり。
「……」
佐藤。
ナガンを下ろさず。
しかし。
撃てず。
「子供……なのか?」
ポテ彦。
静かに頷きたり。
「恐らく」
「まだ成長途中です」
沈黙。
甲殻王。
その前に立つ。
攻撃姿勢。
されど。
先程までとは違ふ。
攻めるためでは無し。
守るため。
そう見えたり。
「だから……」
エレノア呟きたり。
「あいつ、さっきから」
「本気で攻撃してなかったの?」
ポテ彦。
頷く。
「恐らく、我々を遠ざけることが目的だったのでしょう」
倒すためでは無し。
追ひ払ふため。
戦いの意味。
大きく変はりたり。
佐藤。
眉を寄せたり。
「でもさ」
「村を襲ったのも事実だろ」
その通りなり。
村は危険に晒された。
怪我人も出たり。
放置出来るものでは無し。
ポテ彦。
少し考へたり。
「恐らく」
「原因は生息域でしょう」
「生息域?」
「はい」
ポテ彦。
洞窟を見る。
「何かの理由で、地下の環境が変わった」
「だから群れが外へ出る必要があった」
虫。
人。
どちらかが完全なる悪では無し。
ただ。
生きる場所。
それがぶつかった。
それだけなり。
「面倒だな」
佐藤呟きたり。
「悪い奴なら倒せば終わりなのに」
その言葉。
誰も否定出来ず。
魔王とは違ふ。
侵略者でも無し。
ただ生きているだけ。
だからこそ難し。
その時。
甲殻王。
動きたり。
一瞬。
緊張。
全員構へる。
しかし。
攻撃では無し。
王。
ゆっくり。
幼き個体の前へ。
立ちたり。
盾の如く。
守る。
その姿。
王というより。
親の如し。
「……」
アレクセイ。
静かに見たり。
そして。
呟く。
「Защищает.(守っている)」
貴光。
訳したり。
「守っておる、と言ひたり」
佐藤。
ため息。
「本当にやりづらいな」
だが。
その時。
異変。
起こりたり。
洞窟。
揺れる。
地面。
震へる。
「何!?」
フィア叫びたり。
奥。
さらに深き場所。
音。
響く。
甲殻王。
振り返る。
その動き。
初めて。
焦りのように見えたり。
「……?」
レン。
眉をひそめる。
「あいつも知らないのか?」
その瞬間。
壁。
割れたり。
現れしもの。
虫。
されど。
違ふ。
甲殻王の群れでは無し。
歪な姿。
巨大な顎。
異常に発達した脚。
制御されぬ進化。
そのような存在。
ポテ彦。
驚きたり。
「まさか……」
「何だよ」
佐藤問ふ。
「失敗した個体です」
全員。
振り向く。
「失敗?」
「はい」
「急速な進化の過程で生まれた、制御出来なかった個体」
甲殻王。
進化を繰り返した。
だが。
全て成功したわけでは無し。
失敗。
暴走。
それも生まれていた。
そして。
それらは。
王の支配から外れていた。
暴走個体。
幼き虫へ向かふ。
甲殻王。
即座に動く。
防ぐ。
衝突。
激しき音。
「仲間割れ……?」
佐藤呟く。
違ふ。
これは。
群れを守る戦い。
王。
傷付きながらも。
暴走個体を止めたり。
しかし。
一匹では無し。
奥。
さらに。
音。
多数。
近付く。
「まずいぞ」
レン。
剣構へたり。
敵。
変はった。
倒すべき相手。
それは。
目の前の王ではなくなりつつありたり。
ヴィクトル。
DP-27構へる。
そして。
甲殻王の横へ向けたり。
暴走個体へ。
銃声。
響く。
王。
ヴィクトルを見る。
ヴィクトル。
静かに言ひたり。
「今は敵ではない」
貴光訳す。
甲殻王。
理解したかは分からぬ。
されど。
攻撃せず。
再び暴走個体を見る。
人。
虫。
本来争ふ者同士。
されど今。
同じ敵へ向かひたり。
「なんか」
佐藤。
ナガン構へながら言ひたり。
「すごい展開になってきたな」
当然なり。
誰も予想せざりけり。
地下深く。
最後の戦い。
それは。
甲殻王を倒す戦いではなく。
甲殻王と共に戦うものへ。
変はり始めたり。




