深き洞へ向かひし者達のこと
翌朝。
北の村。
雪は止みたり。
されど。
平和が戻りしわけでは無し。
空を覆ひし黒き翼。
地を揺らせし甲殻の王。
それらは退いた。
しかし。
滅びたわけでは無きなり。
山。
古き洞窟。
その深き場所に。
王はまだ存在していた。
そして恐らく。
新たなる進化を始めている。
「放っておいたら駄目ってことだよな」
佐藤言ひたり。
ポテ彦。
頷く。
「はい」
「あの適応速度を見る限り」
「次に現れる時は、さらに危険でしょう」
沈黙。
誰も否定出来ず。
甲殻王は負けて逃げたのではない。
次勝つために退いた。
それが問題なり。
レン。
剣を確認する。
「なら先に行く」
エレノアも頷きたり。
「洞窟なら、空から攻撃される心配は少ないわね」
「その代わり」
佐藤。
外を見る。
そこには。
Il-2。
雪原に静かに置かれておりたり。
「こっちの最大火力も使えないけどな」
洞窟。
当然。
飛行機は入れぬ。
空を制した鉄の鳥も。
地下では翼を休めるしか無し。
アレクセイ。
機体を見る。
そして静かに言ひたり。
「Самолёт отдыхает.(飛行機は休みだ)」
貴光訳したり。
「鉄の鳥は休ませると言ひたり」
佐藤頷く。
「まあそうなるよな」
すると。
その時。
空。
光。
全員。
見上げたり。
「……」
佐藤。
嫌な顔。
「この感じ知ってる」
直後。
どごん。
地面へ箱落ちたり。
沈黙。
貴光。
首傾げたり。
「何なり?」
箱。
開く。
中。
鉄の塊。
円盤のようなもの付きし武器。
そして。
二つの小さき鉄筒。
紙。
入っておりたり。
佐藤。
読む。
「えー」
「洞窟用装備を買っておいた」
「代金は……」
止まる。
貴光を見る。
「何なり」
「貴光の金から」
沈黙。
「神いいいい!」
佐藤叫びたり。
神。
相変わらずなり。
貴光。
少し考へたり。
「必要な物なれば良きなり」
「優しすぎるだろ」
佐藤突っ込みたり。
その横。
ヴィクトル。
箱の中を見たり。
そして。
固まる。
「……」
ゆっくり。
手に取る。
「ДП-27…(DP-27……)」
懐かしき声。
アレクセイも見る。
「久しぶりだな」
それは。
ソ連製軽機関銃。
デグチャレフ。
円盤型弾倉を持つ歩兵火器なり。
ヴィクトル。
状態を見る。
そして。
紙を読む。
「弾薬無限」
「ただし装填必要」
佐藤。
「そこ現実的なんだ」
無限に撃てる。
されど。
撃ち続けられるわけでは無し。
弾倉交換。
装填。
それは必要。
戦い方を考えねばならぬ。
次に。
小さき鉄筒。
二つ。
ヴィクトル。
手に取る。
「Наган.(ナガン)」
ナガンM1895。
七発装填の回転式拳銃。
一つ。
佐藤へ。
「え」
「俺?」
もう一つ。
貴光へ。
「我なり?」
佐藤。
困惑。
「いや俺、戦闘担当じゃないんだけど」
ヴィクトル。
首を振る。
「前に出る必要はない」
「だが」
「自分を守る力は必要だ」
貴光が訳す。
佐藤。
黙る。
確かに。
今までも危険は何度もあった。
補給担当だから安全。
そんなことは無い。
戦場では後ろも襲われる。
「分かったよ」
受け取る。
一方。
貴光。
ナガンを見る。
回す。
眺める。
「小さき大砲なりか」
「まあ間違ってないのが腹立つ」
佐藤言ひたり。
説明を受ける。
構へ方。
撃ち方。
装填。
安全確認。
そして。
試射。
村外れ。
的。
佐藤。
構へる。
「怖っ」
発砲。
外れ。
「まあ初めてだしな」
普通なり。
次。
貴光。
構へる。
撃つ。
命中。
「……」
佐藤。
見る。
「何で?」
「弓と似たり」
「似てない」
即答なり。
平安貴族。
謎の適応力なり。
そして。
準備整ひたり。
洞窟攻略隊。
レン。
エレノア。
フィア。
佐藤。
貴光。
アレクセイ。
ヴィクトル。
ポテ彦。
ポテ子。
そしてミーシャ。
村人たちも数名。
向かう先。
深き地下。
甲殻王の巣。
入口。
暗闇。
以前より。
明らかに変化していた。
壁。
甲殻のようなものに覆はれ。
奥より。
音。
かさ。
かさ。
聞こえたり。
ヴィクトル。
DP-27を構へる。
レン。
剣を抜く。
エレノア。
魔力を込める。
佐藤。
ナガンを握る。
「本当に普通の旅じゃなくなったな」
呟きたり。
貴光。
頷く。
「魔王は居らぬなり」
「だから基準」
いつもの会話。
されど。
その先。
待つものは未知。
空の戦いは終わり。
これより。
地の底での戦い。
始まりたり。




