雪空にて赤き星と黒き翼争ひしこと
雪空。
そこは既に、人の領域では無かりけり。
白き雲。
吹き荒ぶ風。
その中を飛ぶものあり。
一つは鉄。
一つは生命。
赤き星を背負ひし攻撃機。
Il-2M3。
そして。
甲殻王が残した新たなる飛行型魔物。
進化せし黒き翼なり。
先程までの飛行型とは違ひたり。
ただ速く飛び。
爪や牙で襲ふだけでは無し。
距離を取り。
隊列を組み。
魔力弾を撃つ。
まるで。
空を理解した兵士なり。
「Слева.(左だ)」
ヴィクトル叫びたり。
アレクセイ。
即座に操縦桿を倒す。
Il-2。
傾く。
直後。
青白き魔力弾。
横を通過。
爆発。
空気震へたり。
「当てに来ているな」
ヴィクトル言ひたり。
ただ撃っているのではない。
進行方向を予測。
逃げる場所を潰す。
完全なる連携。
アレクセイ。
敵を見る。
「賢い」
短く言ひたり。
敵を侮らぬ。
それは戦場で生き残るために必要なことなり。
地上。
村人たちは空を見上げていた。
「鉄の鳥でも苦戦するのか……」
誰かが呟く。
無理も無きこと。
あれほど圧倒的だった存在。
そのIl-2が。
今。
追われている。
佐藤も空を見る。
「そりゃそうか……」
「どういうことなり?」
貴光問ふ。
「あれ攻撃機なんだよ」
「戦闘機じゃない」
敵の地上目標を攻撃するための機体。
もちろん戦えぬわけでは無し。
されど。
高速な空中戦。
本来得意な場所では無い。
「つまり」
「魚に木登りさせてる感じだ」
「魚は木登りせぬなり」
「例えだよ!」
いつものやり取りなり。
されど状況は深刻なり。
空。
三匹の飛行型。
左右。
後方。
包囲。
魔力弾。
連続発射。
アレクセイ。
回避。
一発。
翼へ命中。
衝撃。
機体揺れる。
傷。
増える。
不壊。
されど。
痛まぬわけでは無し。
操縦性は落ちる。
視界も悪くなる。
そして。
人間は守られていない。
「しつこいな」
ヴィクトル。
UBT旋回機関銃を向ける。
照準。
しかし。
敵。
近付かぬ。
「……」
ヴィクトル眉を寄せる。
理解している。
後ろに近付けば撃たれる。
だから。
距離を取る。
魔力弾で削る。
「学習している」
アレクセイ言ひたり。
その時。
飛行型の一匹。
急加速。
正面へ回る。
口。
開く。
魔力。
集まる。
「前!」
発射。
アレクセイ。
急降下。
回避。
雪原へ近付く。
そのまま低空飛行。
木々の間。
ギリギリ。
飛行型。
追う。
だが。
巨大な翼。
細かな動き。
苦手。
木にぶつかりかける。
「今だ」
アレクセイ。
機体を少し傾ける。
ヴィクトル。
射線確保。
発射。
12.7ミリ弾。
命中。
一匹。
墜落。
地上。
歓声。
上がる。
「落とした!」
しかし。
まだ多し。
その頃。
地上にも魔力弾は降り注いでいた。
飛行型の一部。
村を狙っていたためなり。
「伏せろ!」
レン叫ぶ。
青白き弾。
落ちる。
その前。
エレノア。
立つ。
「させない!」
魔力。
展開。
障壁。
弾。
衝突。
光。
散る。
「防いだ!」
村人叫ぶ。
エレノア。
息を吐く。
身体強化だけでは無し。
魔法使い。
それが本来の彼女なり。
「忘れてたけどな」
佐藤小声。
「聞こえてるわよ」
「すみません」
即謝罪なり。
フィアも隣へ。
「私も手伝います」
二人。
障壁を維持。
村を守る。
上空。
戦い続く。
アレクセイ。
敵を見る。
数。
速度。
連携。
このままでは厳し。
だが。
敵にも弱点はある。
「ヴィクトル」
「何だ」
「あれは戦闘機ではない」
「?」
「あれも生き物だ」
そう。
魔物は強い。
速い。
賢い。
しかし。
機械では無し。
疲れる。
焦る。
判断を間違える。
アレクセイ。
旋回。
逃げるように見せる。
飛行型。
追う。
速度を上げる。
さらに。
さらに。
無理な加速。
そして。
一瞬。
動きが鈍る。
「今」
反転。
ヴィクトル。
撃つ。
命中。
二匹目。
墜落。
空。
少しずつ変わる。
鉄の鳥。
押されながらも。
戦い方を見つけ始めたり。
しかし。
その時。
遠き山。
洞窟。
低き音。
響く。
ポテ彦。
振り返る。
「……」
「どうした?」
佐藤問ふ。
ポテ彦。
険しき表情。
「地下で」
「何かが動いています」
甲殻王。
逃げたのではない。
準備している。
空では黒き翼。
地下では甲殻の王。
戦いはまだ。
終わりには遠かりけり。




