空を覆ひし黒き翼のこと
雪原。
戦いは終はらず。
甲殻の王。
最後の進化を遂げし存在。
その身体は傷付き。
甲殻は割れ。
されど。
未だ倒れず。
立ち続けておりたり。
人。
魔法。
鉄の鳥。
それら全てを相手にしながら。
なお生きたり。
「しぶとすぎるだろ……」
佐藤呟きたり。
当然な感想なり。
普通ならば何度も倒れている。
Il-2の攻撃。
レンとエレノアの攻撃。
村人たちの抵抗。
全て受けてなお。
甲殻王は存在していた。
されど。
確実に追ひ詰められていた。
「動きが落ちています」
ポテ彦言ひたり。
「進化にも修復にも限界があります」
その言葉通り。
甲殻王の動きは鈍し。
巨大なる脚。
重き身体。
最初ほどの勢ひ無し。
今ならば。
届く。
空。
Il-2。
旋回。
最後の攻撃準備へ入る。
アレクセイは静かに息を吐きたり。
眼下。
巨大なる敵。
だが。
そこには、かつて戦場で感じた憎しみは無し。
相手もまた生きるもの。
ただ。
今は止めねばならぬ。
「Виктор.(ヴィクトル)」
「ああ」
ヴィクトル。
頷く。
残る武装。
確認。
一撃。
ここで決める。
地上。
レンたちも動く。
「止めるぞ!」
全員。
最後の力を振り絞る。
レン。
正面。
エレノア。
側面。
フィア。
魔法支援。
村人。
矢を放つ。
ミーシャ。
巨大なる身体で押す。
甲殻王。
一瞬。
動き止まる。
「今!」
エレノア叫ぶ。
空。
アレクセイ。
機首を下げる。
Il-2。
降下。
狙ひ。
胸部。
進化を司る器官。
厚き甲殻の奥。
「РС.(RS)」
ロケット。
発射。
白煙。
雪空を裂く。
命中。
爆発。
甲殻。
大きく割れる。
「開いた!」
佐藤叫ぶ。
さらに。
VYa-23。
発射。
二十三ミリ弾。
露出した部分へ叩き込まれる。
甲殻王。
叫ぶ。
今までで最大の叫び。
雪原全体に響きたり。
そして。
動き。
止まる。
「……」
静寂。
村人。
見つめる。
「倒した……?」
誰か呟きたり。
しかし。
ポテ彦。
表情を変へたり。
「違います」
「え?」
「あれは」
次の瞬間。
甲殻王。
動く。
だが。
攻撃では無し。
脚。
地面へ。
掘る。
凄まじき速度。
雪。
土。
岩。
砕く。
「逃げてる!?」
佐藤叫ぶ。
甲殻王。
地下へ潜り始めたり。
「追うぞ!」
レン言ひたり。
しかし。
ポテ彦。
止める。
「駄目です」
「何でだよ!」
「あれは敗走ではありません」
ポテ彦。
穴を見る。
「生存判断です」
「今戦えば負けると理解した」
「だから逃げたのです」
沈黙。
虫。
ただの怪物では無し。
学ぶ。
考える。
判断する。
甲殻王。
最後まで厄介な存在なり。
「虫が戦略的撤退するなよ……」
佐藤呟きたり。
そして。
甲殻王の姿。
完全に地下へ消えたり。
勝利。
ではない。
第一戦。
終了なり。
しかし。
休む暇など無かった。
空。
音。
羽音。
大量。
ヴィクトル。
最初に気付く。
「上だ」
全員。
空を見る。
雪雲。
黒き影。
一つ。
二つ。
違ふ。
数十。
飛行型魔物。
されど。
先程とは姿が違った。
翼は細く。
身体は鋭く。
速度を重視した形。
そして。
胸部。
青白き光。
「何あれ」
エレノア呟く。
次の瞬間。
光。
放たれる。
魔力の弾丸。
一直線。
地上へ。
「避けろ!」
レン叫ぶ。
爆発。
雪舞ふ。
「撃ってきた!?」
佐藤叫ぶ。
「生き物が射撃してくるなよ!」
もっともな意見なり。
進化型飛行種。
対Il-2。
対人間。
そのために変化した個体。
空の戦いは。
さらに厳しくなりたり。
Il-2。
上昇。
迎撃へ。
しかし。
今回は違ふ。
敵は近付いてこない。
距離を取り。
魔力弾を撃つ。
ヴィクトル。
眉をひそめる。
「賢くなったな」
前は突撃してきた。
だから撃てた。
今は。
射程を使ってくる。
空。
魔力弾。
飛ぶ。
一発。
二発。
地上にも降り注ぐ。
その時。
エレノア。
前へ出たり。
「全員下がって!」
手を掲げる。
魔力。
広がる。
透明な壁。
障壁。
魔力弾。
衝突。
弾けたり。
「お前」
佐藤見る。
「魔法使えたんだったな」
「忘れてたの!?」
エレノア怒りたり。
身体強化の印象が強すぎた故なり。
魔法使いであること。
忘れられかけておりたり。
空。
アレクセイ。
敵を見る。
編隊。
距離。
射撃。
ただ飛ぶ魔物ではない。
これは。
「Это уже не охота.(これはもう狩りではない)」
ヴィクトル頷く。
アレクセイ。
操縦桿を握り直したり。
「Это воздушный бой.(これは空戦だ)」
雪空。
赤き星。
黒き翼。
異世界にて。
あり得ざる空の戦いが始まりたり。




