雪空にて鉄鳥追はれしこと
雪。
さらに強くなりたり。
白き風は視界を奪ひ。
寒さは身体を刺す。
されど。
戦いは終はらず。
北の村。
その前に立つ甲殻の王。
そして。
空を舞ふIl-2M3。
もはや戦いは単純な討伐では無かりけり。
敵は考へ。
敵は変化し。
敵は適応する。
進化する魔物。
それこそが、甲殻の王の真なる恐ろしさなり。
「進化には代償がある?」
佐藤はポテ彦へ問い返したり。
「はい」
ポテ彦頷きたり。
眼鏡を直す。
真面目な研究者の姿なり。
馬鈴薯だが。
「硬い甲殻を作る」
「傷を修復する」
「新しい器官を作る」
「全て何も無しに出来るわけではありません」
「つまり?」
「大量の栄養とエネルギーを消費しているはずです」
佐藤。
甲殻王を見る。
確かに。
変化速度は異常。
しかし。
無限ではない。
「持久戦なら勝てるってことか?」
「恐らく」
ポテ彦答へたり。
だが。
すぐ表情を曇らせる。
「問題は」
「あちらが力尽きる前に、こちらが耐えられるかです」
それが問題なり。
相手は巨大。
こちらは人間。
疲れるのは人間も同じなり。
その時。
空。
轟音。
Il-2。
再び攻撃へ入る。
アレクセイは操縦桿を握り、甲殻王を見たり。
「長引くな」
ヴィクトル言ひたり。
アレクセイ頷く。
相手は戦車ではない。
破壊すれば終わる鉄ではない。
生き物。
回復する。
学ぶ。
「なら」
アレクセイ。
静かに答へたり。
「学ばせない」
同じ攻撃はしない。
同じ方向から入らない。
同じ場所を狙わない。
相手が対応する前に変える。
戦場で身につけた判断なり。
Il-2。
低空。
雪原すれすれ。
進む。
甲殻王。
対空器官を向ける。
発射。
甲殻片。
飛ぶ。
アレクセイ。
機体を傾ける。
回避。
そして。
VYa-23。
射撃。
側面へ命中。
傷。
出来る。
すぐ離脱。
「いいぞ!」
村人叫ぶ。
しかし。
その時。
空。
影。
飛行型魔物。
群れ。
戻りたり。
それも。
先程より多し。
「また来た!」
フィア叫ぶ。
空の戦い。
再開なり。
飛行型魔物。
その速度。
異常。
空気を吸ひ込み。
体内器官で圧縮し。
後方へ噴き出す。
まるで生物の噴射機関。
時速四百キロ。
この世界ではあり得ぬ速度なり。
だが。
Il-2も同じ速度域。
今までの敵とは違ふ。
追いついてくる。
「後ろ!」
ヴィクトル叫ぶ。
一匹。
後方へ付く。
攻撃機の弱点。
背後。
されど。
Il-2には。
そこを守る者がいた。
ヴィクトル。
UBT旋回機関銃。
構へる。
照準。
敵は速い。
動きも生物。
読みにくし。
待つ。
距離。
縮まる。
そして。
「Сейчас.(今だ)」
発射。
12.7ミリ弾。
命中。
飛行型。
墜落。
だが。
二匹目。
三匹目。
次々来る。
「多すぎる!」
ヴィクトル叫ぶ。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
しかし。
全方向から迫る。
Il-2。
重装甲攻撃機。
戦闘機のような機動は出来ぬ。
逃げ切る機体では無し。
耐へ。
戦う機体なり。
一匹。
横から接近。
爪。
翼へ。
衝撃。
機体揺れる。
さらに。
甲殻王。
下より対空攻撃。
同時。
挟撃。
「まずい!」
佐藤叫ぶ。
甲殻片。
命中。
胴体。
穴。
翼。
損傷。
エンジン音。
一瞬乱れる。
村人たち。
息を呑む。
「鉄の鳥が……」
落ちる。
そう思ひたり。
しかし。
アレクセイ。
諦めず。
操縦桿。
握る。
「まだだ」
雪原。
近付く。
高度。
下がる。
ヴィクトル。
歯を食ひしばる。
そして。
ギリギリ。
機体。
持ち上がる。
雪を巻き上げ。
再び空へ。
歓声。
上がりたり。
佐藤。
息を吐く。
「心臓に悪すぎる……」
不壊。
それでも。
危険はある。
ようやく理解したり。
その頃。
地上。
レンたちは動き始めたり。
「空だけに任せるな!」
レン叫ぶ。
「こっちもやるぞ!」
村人。
再び武器を取る。
甲殻王の注意を分散させる。
対空攻撃を減らす。
それが役割なり。
エレノア。
身体強化。
ミーシャ。
突進。
フィア。
魔法。
全員。
動く。
後方。
佐藤。
馬鈴薯を出し続ける。
怪我人。
疲れた者。
交代。
補給。
戦線維持。
派手ではない。
だが。
確かに支えていた。
そして。
ポテ彦。
甲殻王を観察し続けたり。
傷。
修復速度。
動き。
そして。
気付く。
「……遅くなっています」
「何が?」
佐藤問ふ。
「進化速度です」
最初ほど速くない。
甲殻の形成。
回復。
明らかに鈍り始めている。
「つまり」
佐藤言ひたり。
「あいつも限界が近い」
希望。
見えたり。
しかし。
同時。
甲殻王。
最後の変化を始めたり。
身体。
震える。
甲殻。
割れる。
中から。
新たな形。
現れる。
「嘘だろ……」
佐藤呟く。
「第二形態あるのかよ」
雪原。
甲殻の王。
最後の進化。
始まりたり。




