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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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島を離れ次なる海へ進みしこと

 翌朝。


 太陽昇り始めし頃、港には既に多くの人集まりたり。


 漁へ出る者。


 荷を運ぶ者。


 旅へ向かふ者。


 それぞれが己の目的のため動き、昨日までと変はらぬ一日が始まらんとしておりける。


 されど、貴光ら一行にとっては少し違ふ朝なり。


 数日過ごした島を離れる日。


 短き滞在なれど、奇妙なる出来事多き場所なりけり。


 喋る猿の群れ。


 森を守る白き獣。


 古き遺跡。


 そして、何故か島の生き物たちに覚えられし佐藤のポテチ。


「結局、普通の島じゃなかったな」


 佐藤は港を眺めながら呟きける。


「何言ってるのよ」


 エレノアは少し笑ひたり。


「私たちが行く場所、大体こうなるでしょ」


「それが問題なんだよ」


 佐藤答へたり。


 今思へば、ただの旅など一度も無かった気もする。


 されど。


 今回はまだ良き方なり。


 世界も壊れず。


 神も関はらず。


 魔王も出ず。


 ただ島の森を助けただけ。


 十分普通な冒険と言へる範囲なり。


 感覚が少し麻痺しておるだけなりけり。


 船へ荷物を運び込む中、佐藤はインベントリより必要な物を取り出しておりたり。


 食料。


 道具。


 旅用品。


 以前なら軽虎の荷台へ積む必要ありし物も、今ではかなり楽になりたり。


「便利ね、それ」


 エレノア言ひける。


「便利だぞ」


 佐藤答へたり。


「神界で貰った能力の中だと一番まともかもしれない」


「我の言語理解も役立ちたり」


 貴光、横より言ひたり。


「まあ、それは認める」


 佐藤頷きたり。


 猿。


 白き獣。


 もし貴光の能力無ければ、森の問題を知ることも難しかったかもしれぬ。


「神界のスーパーで買った能力なのが納得いかないけどな」


「便利なら良きなり」


 貴光は気にしておらず。


 入手経路など些細な問題らし。


 やがて船長が声を上げたり。


 出航の時間なり。


 一行は船へ乗り込みける。


 黒牛も当然の如く乗り、軽虎も積まれたり。


 船員たちも最初こそ不思議そうに見たりしが、前回の船旅で噂を聞いており、深く聞く者は少なかりけり。


「最近の旅人は変わってるんだな」


 船員の一人呟きたり。


「違うと思うぞ」


 佐藤、小声で返しける。


 船はゆっくり港を離れたり。


 島の姿。


 森。


 町。


 少しずつ遠ざかる。


 その時。


 フィアが森の方を指差したり。


「見てください」


 一同、振り返りたり。


 森の入口。


 猿たち。


 並んでおりける。


「……」


 佐藤、目を細めたり。


「まさか」


 猿たち。


 手を振っていたり。


 見送りなり。


 ポテチ待ちでは無し。


「ちゃんと別れに来たみたいね」


 エレノア言ひたり。


 佐藤は少し黙りたり。


 そして。


 小さく手を振り返したり。


「元気でな」


 言葉は届かずとも。


 意味は届いたやもしれぬ。


 船はさらに進み、島は水平線の向こうへ消えてゆきたり。


 その日の昼。


 船上では、次なる目的地について話し合ひける。


「どこへ向かうんだ?」


 レンが船長へ問ひたり。


「この船は北の港へ向かう」


 船長答へたり。


「北?」


「ああ」


 船長は海図を広げたり。


「この辺りよりずっと寒い土地だ」


 その言葉に佐藤は少し反応したり。


「寒いって、雪とか?」


「場所によるが降るな」


 船長頷きたり。


「北の方は森も生き物も、ここらとは全然違う」


 未知なる土地。


 異なる自然。


 異なる文化。


 その響きに、一行は興味を持ちたり。


「面白さうなり」


 貴光言ひたり。


「寒い場所だぞ?」


「見たこと少なし」


 貴光は海の向こうを眺めたり。


 平安の世より来たりし者。


 異世界に来て多くを見たり。


 されど、まだ知らぬものばかりなり。


「北か」


 佐藤も少し笑ひたり。


「いいんじゃないか」


「どうせ旅してるんだし」


 目的は決まりつつありたり。


 まだ遠き場所。


 雪降る大地。


 寒き森。


 そこに何が待つかは誰も知らぬ。


 その頃。


 甲板の隅。


 ポテ彦は海風を受けながら考えておりける。


「寒冷地の農業……興味深いですね」


 研究者らしき言葉なり。


 馬鈴薯なれど。


 そして黒牛は。


 寒き地へ向かふことなど知らず。


 ただ静かに眠っておりける。


 船は北へ。


 新たなる旅路へ。


 ゆっくりと進み続けたり。

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