島に住まふ者たちへ別れ告げしこと
森の異変解決せし翌日。
島の朝は変はらず穏やかなりけり。
海より吹きし風は町中を抜け、市場では漁師たちが獲れた魚を並べ、商人らは遠き土地より運ばれし品々を売り始めておりける。
数日前に訪れし時と同じ光景。
されど、一行を見る島民の目は少し変はりたり。
森の奥に起きし異変。
その原因を調べ、解決せし旅人たち。
その話は既に町にも伝はり始めておりける。
「思ったより広まってるな」
佐藤は町を歩きながら呟きける。
近くを通る島民たちは軽く頭を下げたり、礼を言ひたり。
普通ならば喜ばしきことなり。
されど。
佐藤は少し警戒しておりたり。
「どうしたの?」
エレノア問ひける。
「いや」
佐藤、少し周囲を見たり。
「俺、こういう流れ知ってるんだよ」
「流れ?」
「最初は感謝されるだけ」
「うん」
「その後、噂が大きくなる」
「うん」
「気付いたら神扱いされる」
沈黙。
否定できざりけり。
軽虎教。
神殿。
信者。
あまりにも前例が大きすぎたり。
「今回は大丈夫でしょ」
エレノアは苦笑したり。
「ただ森を助けただけだし」
「前も最初は軽トラ見ただけだったぞ」
説得力ありけり。
一方。
原因の一部でもある貴光は、露店に並ぶ食べ物を眺めておりける。
「これは何なり」
「島の果物だよ」
店主答へたり。
「昨日も食べたり」
「気に入ったのか?」
「美味なり」
貴光は頷きたり。
世界を救ひし者。
神界へ行きし者。
魔王討伐に関はりし者。
されど今していることは果物選びなり。
それが貴光なり。
その横では黒牛も静かに待ち、時折道端の草を食みける。
島民も最初こそ驚きたりしが、数日経てば慣れ始めたり。
人とは不思議なるものなり。
毎日見れば、不思議も日常へ変はるものなりけり。
昼頃。
一行は森の入口へ向かひける。
船が出るのは翌朝。
その前に、森の様子を見るためなり。
昨日まで少し弱りし木々は、すぐ元通りとはいかぬものの、確かに変化しておりたり。
葉は少し色を戻し、水の流れも以前より澄みたり。
「自然ってすごいですね」
フィア言ひける。
「一度流れが戻れば、少しずつ回復するんでしょう」
ポテ彦答へたり。
彼は地面の土を見ながら、満足げに頷きける。
「この調子なら問題ありません」
「医者みたいだな」
佐藤言ひたり。
「植物相手ではありますが、似ている部分もあります」
真面目な答へ。
知識ある言葉。
されど。
言っているのは馬鈴薯。
やはり慣れても妙な光景なり。
その時。
森の奥より音聞こえたり。
枝揺れ。
葉動き。
現れしは猿たちなり。
「あ」
佐藤、嫌な予感したり。
猿たち。
近付く。
そして。
並びたり。
「やっぱりかよ」
佐藤はため息をつきける。
完全に覚えられておりたり。
ポテチを出す者。
森の猿たちの間では、そう認識されているらし。
「最後だぞ」
佐藤は手を出し、ポテチを召喚したり。
いつもの袋。
いつもの味。
うす塩。
猿たちは順番を守り、一枚ずつ受け取りける。
しかし今回は、食べ終へてもすぐ帰らざりけり。
「?」
佐藤、首を傾げたり。
「何だ?」
猿の一匹が何か言ひたり。
貴光、聞き取りける。
「礼を申しておるなり」
「礼?」
「森を助けたことへの礼なり」
猿たちは森の異変が消えたことを理解しておりける。
白き獣だけではない。
この森に生きる者たち全ての問題だったのなり。
「そうか」
佐藤、少し笑ひたり。
「まあ元気でな」
猿たちは言葉の意味までは分からぬ。
されど。
何となく伝はりたり。
その後、森の奥より白き獣も姿を現したり。
以前より穏やかなる様子なり。
白き獣は貴光の前へ来たり。
そして。
黒牛を見る。
黒牛も見る。
相変はらず不思議なる関係なり。
「最後まで何だったんだろうな」
佐藤呟きたり。
「黒牛って本当にただの牛なの?」
フィア問ひける。
誰も答へられず。
黒牛本人も答へず。
ただ草を食みけり。
夕方。
一行は宿へ戻り、旅支度を始めたり。
佐藤はインベントリへ必要な荷物を収納し、エレノアたちは道具の確認をする。
神界にて得し能力。
旅の中では、意外にも地味な場面で役立つものなり。
「便利だな」
レン、荷物の消える様子を見ながら言ひける。
「最初からこれ欲しかったよ」
佐藤答へたり。
「ポテチより?」
「……」
少し考える。
「いや、食料無限も普通に便利なんだよな」
認めざるを得なかりけり。
翌朝には島を離れる。
次に向かふ場所はまだ決まらず。
どんな土地か。
どんな者に出会ふか。
誰も知らぬ。
されど。
それこそが旅なり。
夜。
波の音を聞きながら、一行は島最後の夜を過ごしけり。




