白き獣と森の奥へ進みしこと
猿たちの案内を受け、一行はさらに森の奥へ進みけり。
島の森は港近くとはまるで異なり、人の通りし跡も少なく、地面には厚く落葉積もりたり。
背高き木々は空を覆ひ、昼にも関はらず辺りは薄暗し。
時折聞こゆる鳥の声。
草むらを走る小さき獣。
人の暮らす場所より離れた、自然そのものの世界なり。
「随分奥まで来たな」
佐藤、周囲を見回しながら言ひける。
「町からそこまで離れてないはずなのに、全然違うわね」
エレノアも頷きたり。
同じ島。
されど海辺の町と森の奥では、まるで別の土地のやうなり。
ポテ彦は軽虎の荷台より降り、地面を見ておりける。
「この辺りは特に人の影響が少ないようですね」
「分かるのか?」
レン問ひたり。
「はい」
ポテ彦は近くの植物を見たり。
「人が頻繁に通る場所では、植物の種類や育ち方にも変化が出ます」
「便利だな農学」
「ありがとうございます」
内容だけ聞けば優秀なる学者なり。
されど。
地面で植物を観察しておるのは、眼鏡を掛けた馬鈴薯なり。
その事実だけは変はらざりけり。
その時、先を歩きし猿が足を止めたり。
木の上へ登り、遠くを見る。
そして小さく鳴きける。
貴光はその声へ耳を傾けたり。
「近き場所におると言ひたり」
「白い獣?」
フィア問ひける。
「うむ」
貴光頷きたり。
「されど、怒らせねば襲はぬとも申しておるなり」
「賢い猿だな」
佐藤言ひたり。
昨日までポテチ目当てに並んでいた猿とは思へぬほど、しっかり案内しておりける。
さらに進むと、森が開けたり。
そこには小さな泉ありける。
透明なる水。
周囲に咲く花。
静かな場所なり。
そして。
泉の横。
白き獣ありたり。
大きさは馬ほど。
白き毛。
長き尾。
頭には小さき角。
見たこと無き生き物なり。
「綺麗……」
フィア、小さく呟きたり。
白き獣も一行へ気付き、ゆっくりと顔を上げたり。
レンは剣に手を近付けるも、抜きはせざりけり。
敵意。
無し。
白き獣は一行を眺めたり。
そして。
黒牛を見る。
黒牛も見る。
しばらく。
二匹。
見つめ合ひたり。
「またか」
佐藤、小さく言ひたり。
今まで何度見たか分からぬ光景なり。
強き魔物。
不思議な存在。
大体、黒牛を見ると反応する。
されど黒牛本人は何もせぬ。
今回も同じなり。
黒牛は白き獣を見たり。
そして。
近くの草を食み始めたり。
「興味無さそうね」
エレノア言ひたり。
しかし白き獣は違ひたり。
ゆっくり近付き、黒牛の前で止まりける。
しばし見つめ。
頭を下げたり。
「……」
佐藤、額を押さへたり。
「また変なことになりそう」
「何故なり?」
貴光、不思議さうに問ひたり。
「お前の周り、大体こうなるからだよ」
白き獣はその後、貴光の方を向きたり。
小さく鳴きける。
貴光は耳を傾けたり。
「何て言ってる?」
レン問ひたり。
「この森を荒らす者か、と聞いておるなり」
「それに答えられるの便利だな」
佐藤言ひたり。
神界で手に入れし言語理解。
人だけでなく、このような存在にも効果あるらし。
貴光は白き獣へ向き直りたり。
「我ら旅人なり」
「森を壊すつもりは無きなり」
白き獣。
静かに聞きたり。
そして、再び鳴きける。
「何だって?」
「最近、森に異変ありと言ひたり」
貴光答へける。
その言葉にポテ彦が反応したり。
「異変?」
「うむ」
白き獣は森のさらに奥を見る。
「木々が枯れ始め、泉の水も少しずつ減っておるらしきなり」
フィアは泉へ近付き、水を確認したり。
「確かに魔力の流れが少し変ですね」
エレノアも頷きたり。
「自然に起きた感じじゃないかも」
ただの珍しい獣との出会ひ。
そう思われしものは、少しずつ別の問題へ変はり始めたり。
されど。
世界の危機では無い。
魔王でも無い。
一つの島。
一つの森。
そこに住む者たちの問題なり。
「調べるか」
レン言ひたり。
「そうですね」
フィアも頷きたり。
佐藤は少し笑ひける。
「こういうのでいいんだよ」
「何がなり?」
貴光問ひたり。
「冒険」
佐藤答へたり。
知らない土地へ行き。
誰かと出会い。
困り事を解決する。
普通のことなり。
されど、この一行にとっては、随分遠回りして辿り着きし普通でありけり。
白き獣の案内に従ひ、一行はさらに森の奥へ向かふこととなりたり。
島の小さき異変。
その原因を探すために。




