島の森にて奇妙なる縁生まれしこと
森に住まふ猿たちへ菓子を配りし翌日。
島には変はらず穏やかなる風流れ、海より運ばれし湿り気ある空気は森全体を包み込みておりけり。
遺跡調査の依頼も終はり、報告も済ませたり。
されど次なる船が出るまでは数日あり、一行はしばし島に滞在することとなりける。
「急ぐ旅でもないしな」
佐藤は宿の椅子に腰掛けながら言ひける。
以前であれば魔王軍やら神界やら、次から次へと理解不能なる出来事が押し寄せたり。
されど今は違ふ。
朝起き。
町を歩き。
知らぬ場所を見る。
それだけなり。
「ようやく普通の異世界生活してる気がする」
佐藤、小さく呟きける。
「今までも異世界なり」
貴光答へたり。
「そういう意味じゃなくて」
佐藤は窓の外を見たり。
港を歩く人々。
市場に並ぶ食べ物。
遠くに見える森。
「普通はさ、こういう知らない町を回ったり、依頼受けたり、色んな場所行ったりするもんなんだよ」
「そうなのか?」
エレノア首を傾げたり。
「俺の知ってる物語ではな」
少なくとも。
転生してすぐ謎の宗教が生まれたり。
神の世界へ行ったり。
魔王を倒した後に普通の冒険開始したりするものでは無かりけり。
朝食を終へた一行は、再び島を見て回ることとなりたり。
今回は昨日とは違ふ森の奥。
島民によれば、珍しき植物多く生える場所とのことなり。
ポテ彦はその話を聞いた瞬間、眼鏡を直しておりける。
「興味あるのか?」
レン問ひたり。
「当然です」
ポテ彦答へたり。
「島特有の植物は、農学的にも非常に価値があります」
「本当に研究者なんだな」
「馬鈴薯ですが」
「自分で言うのか」
そんな会話をしながら、一行は森へ入りける。
昨日猿たちと出会ひし場所よりさらに奥。
人の手がほとんど入らぬ場所なり。
巨大なる木々。
見知らぬ花。
奇妙なる鳴き声。
島独自の世界広がりたり。
しばらく進みし頃。
木の上より音聞こえたり。
がさり。
佐藤、足を止めたり。
「……」
上を見る。
猿。
昨日の猿なり。
「またか」
佐藤呟きたり。
猿は枝の上から降り、近付きける。
そして。
座りたり。
「……」
佐藤を見る。
「……」
佐藤、嫌な予感したり。
「まさか」
手を出す。
光。
現れる袋。
うす塩味。
それを見た瞬間。
森。
揺れたり。
次々と猿現れたり。
そして。
昨日と同じく。
並びたり。
「覚えられてるじゃない」
エレノア笑ひける。
「完全に餌係じゃねぇか」
佐藤はため息をつきながらも袋を開けたり。
一匹ずつ渡していく。
猿たちは相変はらず礼儀正しく受け取り、食べ終へれば去りける。
途中、子猿が落とした欠片を別の猿が拾って渡す姿すらありたり。
「賢いですね」
フィア言ひたり。
「人間みたいだな」
レンも感心した様子なり。
その時。
貴光。
じっと猿を見たり。
「む」
「どうした?」
佐藤問ひける。
「この者ら、話しておるなり」
「え?」
全員振り向きたり。
「話す?」
「うむ」
貴光頷きたり。
「先程より、順番を守るよう伝へ合っておるなり」
少しの沈黙。
そして。
佐藤、思ひ出したり。
「そういやお前……」
「言語理解」
エレノアも気付きたり。
神界にて手に入れし能力。
あまりにも自然に使っていたため、忘れかけておりたり。
「猿の言葉も対象なのかよ」
「分からぬが、分かるなり」
貴光らしき答へなり。
猿たちは確かに簡単な意思疎通をしておりける。
食べ物。
仲間。
危険。
人ほど複雑では無けれど、確かなる言葉あり。
「何て言ってるの?」
フィア問ひたり。
貴光、耳を傾けたり。
「白き袋を出す者は良き者、と申しておる」
全員。
佐藤を見る。
「……」
佐藤、黙る。
「変な称号増えた気分だ」
軽虎教。
神。
様々な騒動を見てきたり。
故に。
嫌な予感しかしなかりけり。
「広めるなよ」
佐藤、猿へ言ひたり。
猿。
首を傾げたり。
当然、佐藤の言葉は分からざりけり。
その後、猿たちは森の奥へ戻りたり。
一匹だけ残り、貴光へ何やら伝へける。
「何て?」
「奥へ行くなら気を付けよ、とのことなり」
レン、表情を変へたり。
「何かいるのか?」
貴光は猿の言葉を聞き続けたり。
「大きなる白き獣が住むと言ひたり」
森の奥。
島民もあまり近付かぬ場所。
そこに住む白き獣。
危険か。
ただの生物か。
それはまだ分からず。
「行ってみるか?」
レン問ひける。
佐藤は少し考へたり。
そして笑ひたり。
「まあ」
「こういうのが冒険だろ」
魔王でもなく。
世界の危機でもなく。
ただ知らぬ森の奥へ向かふ。
一行は猿たちに見送られながら、さらに深き森へ進み始めたり。
その先に何が待つかは、まだ誰も知らざりけり。




