↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
237/350

森の獣、列を成し待ちしこと

 遺跡での調査を終へた翌日。


 一行は島の森を歩みけり。


 依頼の報告までにはまだ時間あり、せっかく訪れし島なれば周囲も見て回るべし、という話になりたり。


 森は昨日の道よりもさらに深く、見慣れぬ植物多く生えたり。


 大きなる葉。


 色鮮やかなる花。


 枝より垂れ下がる果実。


 王都近くの森とは、また違ふ姿なり。


「同じ森でも随分違うのね」


 エレノア、周囲を眺めながら言ひける。


「島だからでしょうね」


 ポテ彦答へたり。


「海によって他の地域と離れることで、独自の生態になることがあります」


「詳しいな」


 レン言ひける。


「農学部卒業ですので」


 いつもの答へなり。


 既に一行も慣れつつありけり。


 王都国立大学卒業の馬鈴薯。


 普通ならば一生聞くこと無き言葉なれど、旅とは不思議なるものなり。


「腹減ったな」


 しばらく歩みし後、佐藤は近くの倒木へ腰掛けたり。


「まだ昼前よ?」


 エレノア言ひける。


「歩いてたら減るんだよ」


 そう言ひながら、佐藤は手を出したり。


 慣れた動作なり。


 光。


 そして。


 一袋の菓子現れたり。


 うす塩味。


 いつも通りなり。


「本当に便利ですよね」


 フィア、袋を見ながら言ひける。


「便利なんだけどな」


 佐藤、袋を開けながら答へたり。


「毎回これだけだぞ」


 最初は良かった。


 異世界にて現代の菓子を出せる能力。


 珍しく、味も良し。


 されど。


 何度も。


 何度も。


 何度も。


 同じ味。


「そろそろ別の味欲しいんだよな……」


 佐藤、小さく呟きたり。


 その横。


 ポテ彦、静かに見ておりける。


「……」


「何だよ」


「いえ」


 ポテ彦、眼鏡を直したり。


「原材料について少々考えておりました」


「やめろ」


 即答なり。


「何故でしょう」


「何か気まずいだろ」


「私は気にしませんが」


「俺が気にする」


 そんな話をしつつ、一枚食べようとした時。


 草むら。


 揺れたり。


 全員の視線向かひける。


 森の奥。


 何かおりたり。


 小さき影。


 木の枝より降りて来たりしもの。


 猿なり。


 島に住む野生の猿らしきものなり。


 猿は警戒しつつも、佐藤の手元を見ておりける。


「……」


 佐藤、ポテチを見る。


 猿を見る。


 再びポテチを見る。


「欲しいのか?」


 猿。


 じっと見る。


 佐藤は少し迷ひ、一枚取り出して差し出したり。


 猿は近付き、受け取りける。


 そして食べたり。


 しばし停止。


 次の瞬間。


 目を輝かせたり。


「気に入ったみたいですね」


 フィア笑ひたり。


「まあ、動物からしたら珍しい味だろうな」


 佐藤答へける。


 猿は食べ終はると、そのまま森の奥へ戻りたり。


「平和なり」


 貴光、頷きたり。


「獣とも分かり合へるとは良きことなり」


「一枚あげただけだけどな」


 佐藤は残りを食べ始めたり。


 それから少し時間経ちける。


 再び。


 草むら揺れたり。


「また?」


 エレノア振り返りたり。


 先ほどの猿。


 戻りたり。


「もう一枚欲しいのか?」


 佐藤言ひける。


 されど。


 違ひたり。


 後ろ。


 もう一匹。


 さらに一匹。


 また一匹。


 森の奥より、次々と猿現れたり。


「……」


 佐藤、動き止まりたり。


 猿たち。


 近付く。


 襲ふ様子は無し。


 奪ふ様子も無し。


 ただ。


 一列に並びたり。


「……何してんの?」


 佐藤呟きたり。


 ポテ彦、少し観察したり。


「順番待ちでは?」


「何の?」


「それでは」


 視線。


 ポテチへ向きたり。


 佐藤、袋を見る。


 猿を見る。


 列を見る。


「嘘だろ」


 嘘では無かりけり。


 試しに一枚渡す。


 一匹目。


 食べる。


 去る。


 二匹目。


 前へ出る。


 手を出す。


「……」


 佐藤、無言でもう一枚渡したり。


 同じなり。


 食べる。


 去る。


 次。


 また次。


 完全なる順番制なり。


「礼儀正しいわね」


 エレノア言ひける。


「そこ?」


 佐藤返したり。


 猿たちは騒ぐこともなく、横入りすることもなく、静かに待っておりける。


 途中、小さき子猿来たり。


 すると前にいた猿。


 場所を譲りたり。


「……」


 レン、腕を組みたり。


「人間よりちゃんとしてる奴いるな」


「言うな」


 佐藤答へたり。


 やがて袋は空になりける。


「終わり」


 佐藤、袋を見せたり。


 猿たち。


 理解したる様子なり。


 残っていた数匹。


 少し残念そうにするも、諦めて戻ろうとしたり。


「……」


 佐藤。


 少し黙りたり。


 そして手を出したり。


 再び光。


 新たなる袋現れたり。


「今回だけだからな」


 猿たち。


 静かに戻って来たり。


 再び列作りたり。


「完全に店じゃない」


 エレノア言ひたり。


「金取ってないけどな」


 佐藤答へたり。


 その様子を見ていた貴光、深く頷きける。


「佐藤殿」


「何?」


「民へ食を与ふるとは立派なり」


「民じゃねぇよ」


 即答なり。


 目の前にいるのは猿なり。


 されど猿たちは綺麗に並び、静かに食を待つ。


 否定しづらき光景でもありけり。


 やがて全ての猿へ配り終へたり。


 猿たちは満足した様子で森へ戻りける。


 最後の一匹。


 空になった袋を拾ひ、佐藤へ返したり。


「……」


 佐藤、受け取りたり。


「すげぇな」


 思わず呟きける。


 島の森。


 そこには、人とは違ふ形の秩序ありけり。


 そして佐藤は、この日知ることとなりたり。


 自分の能力は。


 本人が思ふより。


 意外な場所で求められるということを。


 もっとも。


 毎日うす塩味しか出ぬという問題は、何一つ解決しておらざりけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。