古き遺跡へ向かひしこと
翌日。
島の北へ続く道を、一行は進みけり。
港町より離れるにつれ、潮の香りは薄れ、代はりに森の匂ひ強くなりたり。
背高き木々並び、枝の隙間より差し込む日の光は、道の上に細かな影を作りける。
「島とは思へぬほど広き場所なり」
貴光、周囲を見渡しながら言ひける。
「まあ島って言っても色々あるからな」
佐藤答へたり。
「小さいものもあれば、人が普通に暮らせるくらい大きいものもある」
「不思議なり」
貴光はそう言ひつつ、足元に落ちていた木の実を拾ひける。
しばらく眺め。
黒牛へ差し出したり。
黒牛は匂ひを嗅ぎ、一口で食べける。
「食へるものなり」
「牛で判断するなよ」
佐藤言ひたり。
道中は穏やかなものなり。
魔王軍も無く。
世界の危機も無く。
ただ森を歩くのみ。
レンは地図を見ながら進み、エレノアとフィアは周囲の魔力を探りつつ歩みける。
ポテ彦は軽虎の荷台より周囲を眺めておりける。
「森の土は良いですね」
「分かるの?」
フィア問ひたり。
「はい。植物の育ち方を見ればある程度は」
ポテ彦、近くの草を見たり。
「水分も多く、養分も豊富です」
「本当に専門家なんだな」
佐藤言ひたり。
「農学部卒業ですので」
ポテ彦はいつも通り答へたり。
その姿。
眼鏡を掛けた馬鈴薯なれど、話す内容だけは確かな知識ありけり。
しばらく歩みし後、森の奥に石造りの建物見え始めたり。
古き遺跡なり。
苔に覆はれし壁。
崩れた柱。
読めぬ文字刻まれし石。
長き年月、人の手より離れた場所であること分かりけり。
「これか」
レン、入口を見たり。
「依頼では音がすると書いてあったわね」
エレノア言ひける。
入口付近。
確かに小さな音響きたり。
こつん。
こつん。
何かが石を叩くやうな音なり。
「誰かいるのか?」
佐藤、小声で言ひたり。
一行は慎重に中へ入りける。
遺跡内部は薄暗く、壁の隙間より差し込む光のみが道を照らしておりたり。
奥へ進むほど音は大きくなる。
こつん。
こつん。
こつん。
そして。
広き部屋へ出たり。
そこに居たもの。
小さき魔物なり。
石を持ち。
壁を叩いておりける。
「……」
一同。
見つめたり。
魔物も気付きたり。
振り返る。
丸き目。
小さき角。
背丈は子供ほどなり。
手には石。
「……」
「……」
しばし見合ひける。
やがて魔物。
再び壁を叩き始めたり。
「無視されたぞ」
佐藤呟きたり。
「敵意は無さそうね」
エレノア言ひける。
レンは周囲を確認したり。
壁には古き模様あり。
その一部だけ、魔物が叩いておりける。
「何してるんだ?」
レン問ひたり。
魔物。
振り向きたり。
そして壁を指差しける。
「壊してるのか?」
首を振る。
「直してる?」
頷く。
どうやら、遺跡を破壊していたのでは無く、崩れた部分を直しておりしらし。
「魔物が遺跡修理?」
佐藤、不思議そうに言ひたり。
「珍しいわね」
フィアも近付きたり。
その時。
ポテ彦が壁の模様を見たり。
「これは古い農耕記録ではありませんか?」
「分かるのか?」
「一部ですが」
壁には古代の作物、土地、水路らしき絵刻まれておりける。
魔物はそれを守ろうとしておりしものなり。
「なるほどな」
レン、剣から手を離したり。
「退治依頼じゃなくて調査依頼で良かったな」
その言葉通りなり。
もし討伐依頼として来ておれば、違ふ結果となりし可能性もありけり。
貴光は魔物の横へ座りたり。
「手伝ふなり」
「え?」
佐藤が声を出す頃には、貴光は落ちた石を拾っておりける。
魔物。
貴光を見る。
貴光。
魔物を見る。
そして二人並び、壁を直し始めたり。
「馴染むの早いな」
佐藤呟きたり。
黒牛も遺跡内へ入り、静かに座りける。
魔物は一瞬黒牛を見たり。
そして。
少し場所を譲りたり。
黒牛、そこへ座りける。
何故か自然な流れなり。
その日。
一行は予定を変へ、遺跡修復を手伝ふこととなりたり。
魔物退治でもなく。
宝探しでもなく。
古きものを守るための依頼。
かくして、久方ぶりの遺跡探索は、思ひも寄らぬ形で進むこととなりけり。




