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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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船に乗り海へ出でしこと

 翌朝、港町には薄き霧かかり、海より冷たき風吹き込みけり。


 停泊せし船の帆は静かに揺れ、船乗りたちは荷を運びながら出航の準備を進めておりける。


 貴光ら一行もまた、昨日決まりし護衛のため港へ訪れたり。


「これに乗るのか」


 佐藤、目の前の船を見上げける。


 王都へ向かふ馬車より遥かに大きく、多くの荷物を積み込める商船なり。


 甲板では船員ら忙しなく動き回りたり。


「大きなる舟なり」


 貴光、感心した様子で頷きける。


「海を渡るならこれくらい必要なんだろ」


「されど」


 貴光、少し考へたり。


「牛はどこなり?」


「だから船は牛で動かねぇよ」


 何度目か分からぬ説明なり。


 その横で黒牛は、船に興味示すこともなく港脇の草を食みける。


 いつも通りなり。


 やがて船長らしき男近付きたり。


 日に焼けた肌の、大柄なる男なり。


「お前らが護衛か」


「ああ」


 レン答へける。


 船長は一行を見回したり。


 剣士。


 魔法使い。


 冒険者。


 そこまでは普通なり。


 そして視線止まりたり。


 平安貴族。


 牛。


 軽虎。


 馬鈴薯。


「……」


 船長、しばし黙りたり。


「最近の冒険者は変わってんな」


「俺もそう思う」


 佐藤答へたり。


「否」


 貴光首を振りける。


「普通なり」


 誰も同意せざりけり。


 荷物の積み込みも終はり、つひに船は港を離れたり。


 波を裂きながら、ゆっくりと陸が遠ざかりゆく。


 潮風。


 広き海。


 どこまでも続く水平線。


 初めて見る景色に、貴光はしばらく黙っておりけり。


「都には無き景色なり」


 小さく呟きたり。


「海自体は見たことないのか?」


 佐藤問ひける。


「見たことはあるなり」


 貴光答へたり。


「されど、このように海の上を進むことは少なし」


 そう言ひながら、船の縁より下を覗き込みける。


「落ちるなよ」


「落ちぬなり」


 直後。


 船、大きく揺れたり。


「おお」


 貴光、少しよろめきける。


 レンが服を掴み止めたり。


「落ちかけてるだろ」


「船が動きたり」


「船だからな」


 一方、ポテ彦は甲板の隅におりける。


 海を見つめ、何やら考えておる様子なり。


「どうしたの?」


 フィア、声を掛けたり。


「いえ」


 ポテ彦答へける。


「海を見るのは久しぶりでして」


「大学の研究?」


「はい」


 ポテ彦、頷きたり。


「海辺の農地研究で訪れたことがあります」


「そんな研究もあるのね」


「塩害対策など、農業には様々な問題がありますので」


 内容は真面目なり。


 学者としての知識も確かなものなり。


 目の前におるのは馬鈴薯なれど。


「ポテ彦って普通にすごいよな」


 佐藤呟きたり。


「見た目以外」


「最後は不要では?」


 ポテ彦言ひたり。


 その頃。


 黒牛。


 甲板の上で寝ておりけり。


 船の揺れなど気にも留めぬ様子なり。


 船員の一人が近付き、不思議そうに眺めたり。


「この牛、船酔いしねぇのか?」


「しないみたいだな」


 レン答へたり。


 黒牛は目を閉じたまま動かず。


 ただ静かに過ごしておりける。


 昼を過ぎ、船は順調に進みたり。


 海鳥の声響き、波も穏やかなり。


 護衛依頼とは思えぬほど平和な時間流れけり。


 されど。


 夕刻近く。


 見張り台より声響きたり。


「前方!」


 船員たちの動き止まりたり。


「何か来るぞ!」


 レン、すぐに剣へ手を伸ばしたり。


 エレノアとフィアも海の方を見る。


 波。


 その下。


 大きな影ありけり。


「魔物か」


 佐藤呟きたり。


 船長も険しき顔になりたり。


「最近出てる奴かもしれねぇ」


 海面。


 泡立ちたり。


 何かが近付いてくる。


 久方ぶりの、普通なる冒険。


 船旅。


 魔物退治。


 ようやく冒険者らしき出来事。


 そのはずなり。


 されど。


 この一行において、物事が普通に終はることは少なかりけり。


 波の中より、巨大なる影が姿を現し始めたり。

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