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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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海辺の町と船探しのこと

 翌朝。


 港町には、朝早くより多くの声響きけり。


 海より戻りし漁師たちは魚の詰まりたる箱を運び、商人らは市場へ品を並べ、船乗りたちは帆や縄の確認をしておりける。


 潮の香り漂ふ街道を、貴光ら一行歩みたり。


「海の町とは賑やかなり」


 貴光、周囲を見回しながら言ひける。


「まあ港だからな。人も物も集まる」


 佐藤答へける。


 貴光は少し考へた後、港に並びし船へ目を向けたり。


 大きなる木造船。


 小さき漁船。


 荷を積み込む商船。


 様々なる船ありけり。


「水に浮かぶ牛車なり」


「船だ」


 佐藤即答したり。


「牛おらぬが」


「船に牛はいらねぇよ」


 貴光、不思議さうに船を眺めたり。


 その横では黒牛、道端の草を食みておりける。


 海辺であろうとも、黒牛はいつも通りなり。


 しばらく港を歩みし後、レンは近くの船乗りへ声を掛けける。


「少し聞きたいんだが」


「何だ?」


「この辺から別の大陸へ渡る船はあるか」


 船乗りの男は少し考へたり。


「あるにはあるが、今は少ねぇな」


「何故?」


 フィア問ひける。


「最近、海の魔物が増えてんだよ」


 その言葉にエレノア、眉をひそめたり。


「魔物?」


「ああ。大型船なら問題ねぇが、小さい船は襲われる」


 船乗りは海の向こうを指差したり。


 水平線の先。


 青き海続きたり。


「だから今出る船は護衛付きばかりだ」


「冒険者の仕事ってことか」


 レン言ひける。


「そういうことだな」


 その言葉を聞き、佐藤は少しだけ頷きたり。


「やっと普通の冒険者っぽい依頼だな」


「何を言ふ」


 貴光、首傾げたり。


「我らは元より冒険者なり」


「いや……まあそうなんだけどさ」


 佐藤は今までの出来事を思ひ返したり。


 軽虎。


 宗教。


 神界。


 魔王。


 船の護衛依頼。


 明らかに順序がおかしけれど、今は確かに冒険者らしきことをしておりける。


 その時。


「ところで」


 船乗りが一行を見たり。


「その馬鈴薯は何だ?」


 視線の先。


 ポテ彦あり。


 ポテ彦は礼儀正しく頭を下げける。


「初めまして。ジャガ村ポテ彦と申します」


「……」


 船乗り、黙りたり。


「馬鈴薯か?」


「左様です」


「喋るのか?」


「左様です」


「名前あるのか?」


「左様です」


 船乗りはしばらくポテ彦を眺めたり。


 そして。


「まあ、魔法使える魚もいるしな」


 納得したり。


「納得早いな」


 佐藤呟きたり。


 異世界の住民は、時として現代人より柔軟なり。


 その後、一行は船の護衛依頼を受けるため、港の冒険者支部へ向かひける。


 王都のものとは違ひ、小さな建物なれど、中には多くの冒険者集まりたり。


 壁には依頼書。


 海図。


 魔物の情報。


 港町ならではの光景広がりけり。


「こういう場所久しぶりね」


 エレノア呟きたり。


「そうだな」


 レン答へたり。


 以前は魔王軍との戦いや神界の騒動など、大きすぎる出来事ばかり続きたり。


 されど今、目の前にあるのは一つの依頼。


 一隻の船。


 一つの旅路なり。


 受付へ向かひ、護衛希望の旨を伝へたり。


 受付の女性は書類を確認しける。


「人数は……」


 紙へ記入していく。


「剣士」


 レン。


「魔法使い」


 エレノアとフィア。


「冒険者」


 佐藤。


「えっと……」


 手が止まりたり。


 視線の先。


 貴光。


 黒牛。


 軽虎。


 ポテ彦。


 受付、少し困りたり。


「分類は何になりますか?」


「我は貴族なり」


「馬鈴薯です」


「牛なり」


 受付、筆を止めたり。


 少し考へたり。


 そして空欄に書き込みける。


 その他。


 便利なる言葉なり。


 手続きも終はり、翌日の船へ乗ること決まりけり。


 夕暮れ。


 一行は港へ戻りたり。


 赤く染まりし海の上を、鳥たち飛び交ひける。


 貴光は船を眺めながら言ひたり。


「明日は海なり」


「そうだな」


 佐藤答へたり。


「牛車は浮くや否や」


「試すなよ」


 即答なり。


 黒牛は何も知らず、静かに草を食みける。


 かくして。


 長き騒動を越えた一行は、新たなる地へ向かふこととなりけり。


 神でもなく。


 魔王でもなく。


 ただ、まだ知らぬ場所を見るために。


 船旅の朝は、少しずつ近付いておりける。

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