港町の大道芸人を見物したること
市場の奥には人だかり出来ておりたり。
旅人もおれば。
漁師もおり。
商人もおりたり。
皆同じ方を見つめておりける。
「随分集まってるな」
レン呟きける。
「人気者らしいなり」
貴光は焼き魚を食ひつつ答へたり。
既に一本目食べ終へたり。
いつ買ひたりしかは誰も知らず。
一行も人波をかき分けつつ近付きたり。
やがて輪の中心見えたり。
そこには一人の男立ちたり。
二十代ほどに見ゆる青年なり。
黒き外套羽織りたり。
帽子被りたり。
そして。
樽の上に立ちたり。
大道芸人らしき姿なり。
「普通だな」
佐藤呟きける。
「うむ」
貴光頷きたり。
その時。
青年。
おもむろに懐より卵取り出しける。
白き卵なり。
そして。
高々と放り投げたり。
観衆見上げたり。
卵は落ちたり。
当然なり。
重力あるが故なり。
されど。
落ちたる卵。
地面へ触れる寸前にて。
魚となりたり。
しばし静まりたり。
次の瞬間。
歓声上がりたり。
「おおおお!」
「すげえ!」
「もう一回だ!」
大道芸人、にこやかに手振りたり。
「魔法か」
フィア首傾げける。
「いや」
レンも眉をひそめたり。
「何か変だ」
その後も芸続きたり。
石を投げれば林檎となり。
林檎を投げれば花となり。
花を投げればパンとなりたり。
観客喜びたり。
子供らなど飛び跳ねたり。
実に盛況なり。
その時。
大道芸人。
ふと観客席見回しける。
そして。
黒牛を発見したり。
動き止まりたり。
数秒。
沈黙流れたり。
「……?」
佐藤首傾げたり。
大道芸人。
黒牛見たり。
黒牛。
草食みたり。
大道芸人。
再び黒牛見たり。
何やら妙な顔したり。
そして。
芸続行したり。
されど。
今度は少し失敗したり。
卵投げたり。
魚になるはずなり。
されど。
馬鈴薯になりたり。
観客。
拍手したり。
結果良ければ全て良しなり。
しかし大道芸人。
何故か少し青ざめたり。
「ん?」
ポテ彦首傾げたり。
「同族です」
「違うと思うぞ」
佐藤答へたり。
その後。
芸終はりたり。
観客散り始めたり。
子供ら笑ひたり。
商人も満足げに帰りたり。
良き催し物なりけり。
大道芸人も樽より降りたり。
帽子を脱ぎ。
一礼したり。
その時。
貴光。
魚串持ったまま近付きたり。
「面白かりたり」
「ありがとうございます」
大道芸人答へたり。
礼儀正しき男なり。
されど。
その視線。
時折黒牛へ向きたり。
何やら気にしておる様子なり。
「旅人か」
レン問ひける。
「ええ」
大道芸人頷きたり。
「各地を回っています」
「芸だけで食えるのか」
「何とか」
苦笑浮かべたり。
どこにでもおる旅芸人のやうに見えたり。
その時。
ポテ彦。
ころころ転がりつつ現れたり。
大道芸人。
固まりたり。
「……」
ポテ彦。
「……」
見つめ合ひたり。
風だけが吹きたり。
やがて大道芸人。
ゆっくり口開きける。
「馬鈴薯……」
「左様」
ポテ彦答へたり。
「王都国立大学卒業です」
大道芸人。
黙りたり。
理解を諦めたり。
賢き判断なり。
港町には様々な者集まる。
旅人も。
商人も。
勇者も。
平安貴族も。
喋る馬鈴薯も。
故に深く考へぬ方が良きこともありけり。
その後、一行は宿探し始めたり。
海辺の町は広く。
見るべき場所も多かりけり。
旅はまだ始まったばかりなり。
そして大道芸人もまた。
後に再び関わることとなる人物の一人なりけり。




