初めて海辺の町へ入りたりしこと
丘を越えし後。
海は徐々に大きくなりたり。
否。
海そのものは変はらず。
近付きつつあるが故に大きく見ゆるのみなり。
されど貴光にはその理屈分からず。
「増えておるなり」
真顔にて言ひたり。
「増えてねぇよ」
佐藤即座に答へける。
実にいつも通りなり。
道は緩やかに下りたり。
風も先ほどより強まりけり。
潮の香りも濃くなりたり。
やがて。
港町を囲む石壁見え始めたり。
その向こうには家々の屋根並びたり。
さらに奥。
幾本もの帆柱立ちたり。
船なり。
海辺の町らしき光景なり。
「着いたか」
レン呟きける。
フィアも少し嬉しさうに微笑みたり。
村上などは初めて見る港町に目を輝かせたり。
「大きいですね」
「港町だからな」
佐藤答へたり。
戦後の復興も進みておるらしく、人の出入りも多かりけり。
門へ近付けば荷馬車の列できたり。
魚を運ぶ者あり。
木材運ぶ者あり。
旅人も多く見えたり。
活気ありけり。
その折。
門番の男、一行見て少し目を丸くしたり。
視線の先。
黒牛なり。
「でけぇな……」
正直なる感想なり。
さらに。
その後ろ。
軽虎ありたり。
「何だあれ」
さらに。
荷台。
眼鏡の馬鈴薯座りたり。
「何だあれ」
二度目なり。
無理も無きことなり。
門番の人生において、かかる集団見たること無かりければ。
「旅人なり」
貴光答へたり。
「……そうか」
門番も深く考へること放棄したり。
賢き判断なり。
世には理解せぬ方が良きこともありけり。
町へ入れば。
途端に賑はひ増したり。
魚屋。
宿屋。
道具屋。
酒場。
露店。
様々なる店並びたり。
聞こゆる声も多くなりたり。
「新鮮な魚だよ!」
「南方産の果実だ!」
「今日の宿探してる奴はこっちだ!」
呼び込みの声飛び交ひたり。
貴光は周囲見回しける。
都とは全く異なる景色なり。
行き交ふ人々の服装も様々なり。
肌黒き者あり。
髪青き者あり。
見慣れぬ種族もちらほら見えたり。
「異国めきたり」
ぽつりと呟きける。
海は人を運ぶ。
故に文化も集まるものなり。
その辺りは異世界も同じらし。
その時。
市場の方より香ばしき匂ひ漂ひたり。
貴光。
ぴたりと止まりたり。
「む」
エレノア嫌な予感したり。
「何?」
「焼き魚なり」
その一言にて全て理解したり。
貴光は既に匂ひの方向見ておりたり。
黒牛も何故か同じ方向見たり。
「待ちなさい」
「少し見るだけなり」
「絶対嘘でしょ」
実際嘘なり。
数分後。
一行は市場におりたり。
焼き魚の屋台ありたり。
魚串並びたり。
貴光は店主と真剣な顔にて話し込みたり。
もはや観光客なり。
「旅の目的忘れてないか」
レン呆れける。
「元々無きなり」
貴光答へたり。
正論なり。
旅路再開編に目的など無きなり。
旅そのものが目的なれば。
その時。
市場の奥にて何やら人だかり見えたり。
歓声も聞こえたり。
「何だ?」
村上背伸びしつつ見たり。
しかし人多く見えざりけり。
すると近くの魚屋の男、笑ひながら答へたり。
「大道芸人だよ」
「大道芸人?」
「昨日来たばっかりだ」
魚屋は魚を捌きながら続けたり。
「変な奴だが人気でな」
「何する人なんですか」
フィア問ひける。
魚屋。
少し考へたり。
そして。
「知らん」
答へたり。
「知らないのかよ」
「見てる奴らも分かってねぇ」
実に怪しきなり。
されど。
港町にはかかる者も集まりけるものなり。
旅人。
商人。
冒険者。
芸人。
様々なる人間交はる場所なれば。
その人だかりの中心に誰がおるか。
まだ一行は知らず。
ただ。
その大道芸人もまた。
この旅路にて出会ふこととなる人物の一人なりけり。




