戦の跡残る村を通り過ぎたりしこと
翌日。
一行は再び街道を進みけり。
空は高く晴れたり。
されど昨日より風強く、草原の波あちらこちらに揺れ動きたり。
黒牛は相変はらず道端の草を食みつつ歩みける。
軽虎もまた、ぎしりとも鳴らず後ろをついて来たり。
荷台には荷物。
そして馬鈴薯。
実に妙なる光景なり。
ポテ彦は荷台の端に座り、景色を眺めておりける。
「久方ぶりの旅です」
そう呟きたり。
「旅したことあるのか」
佐藤問ひける。
「学生時代に少々」
「学生時代」
レン少し考へたり。
「大学生活送ってたんだよなお前」
「左様」
ポテ彦頷きける。
「研究と講義の日々でした」
その話だけ聞けば優秀なる青年なり。
見た目を除けば。
その時。
街道の先に小さき村見えたり。
柵に囲まれし農村なり。
されど近付くにつれ、どこか違和感ありけり。
畑の一部荒れたり。
柵には修繕の跡ありたり。
家々にも新しき木材見受けられたり。
レン、その様子見て眉をひそめける。
「ここもか」
村へ入れば、人々は普通に暮らしておりたり。
子供ら走り回りたり。
煙突より煙上がりたり。
されど。
広場の端には壊れた石碑積まれたり。
誰も片付ける余裕無きやうなり。
「戦場になったのか」
フィア静かに問ひける。
近くにおりし老人、ゆっくり頷きたり。
「去年な」
それだけ言ひて、畑へ戻りたり。
多くは語らざりけり。
されど十分なり。
魔王軍が侵攻し。
王国軍が防ぎ。
勝敗の行方に関はらず。
失ふものは残るものなり。
貴光は壊れた石碑を見つめたり。
しばし黙し。
やがて。
「直さぬなりか」
老人振り返りたり。
「そのうちな」
短く答へたり。
それ以上の会話は続かざりけり。
金も人手も足りぬのであらう。
戦終はりたりとて、全て元に戻るわけでは無きなり。
その後。
一行は村の井戸にて水を分けてもらひたり。
その折。
若き農夫二人の話、耳に入りたり。
「南の方は凄いらしいぞ」
「何がだ」
「軽虎教」
その名に佐藤むせたり。
農夫どもは気付かず話続けたり。
「先月支部できたらしい」
「またか」
「今度は港町だと」
「増えるなぁ」
実に増えたり。
本人知らぬ所にて増え続けたり。
教祖は今、水を飲んでおりたり。
「そういや」
農夫の一人、声潜めたり。
「聞いたか」
「何をだ」
「食堂が人気らしい」
「食堂?」
「軽虎教の」
佐藤。
嫌な予感したり。
非常に嫌な予感なり。
「無料で飯出してるらしいぞ」
「それは人集まるな」
「孤児院まで作ったとか」
「凄いな」
農夫ども感心したり。
佐藤は遠き目をしたり。
何やら聞き覚えある流れなり。
その時。
レン、ふと思ひ出したるやうに口を開きける。
「そういや」
「何なり」
「俺が久しぶりに会った時いたよな」
「誰なり」
「女三人」
しばし静まりたり。
エレノアも首を傾げたり。
「いたわね」
「いたな」
佐藤も頷きたり。
ポテ彦だけ事情知らず。
きょとんとしたり。
「誰ですか」
「勇者の仲間なり」
貴光答へたり。
「側室三人なり」
「だから違ぇって」
レン即座に否定したり。
そして少し考へたり。
「……あいつら今何してるんだろうな」
「知らぬなりか」
「最後に聞いた時は」
レン思ひ出しながら答へたり。
「教団本部の食堂で働いてた」
一同。
沈黙したり。
風のみ吹きたり。
「何故なり」
貴光問ひける。
「俺が聞きたい」
もっともな答へなり。
勇者一行の仲間にしては妙なる進路なり。
されど。
軽虎教ならば何が起きても不思議では無きやもしれぬ。
その後、一行は村を後にしけり。
再び街道を進みたり。
遠くには青き空。
そのさらに向こう。
僅かに潮の香り混じり始めたり。
海は少しずつ近付きつつあるやうなり。
旅は続く。
世界もまた動き続けたり。
教団も。
王国も。
人々の暮らしも。
貴光の知らぬ所にて変はり続けておりける。
されど当の本人は。
「魚食ひたり」
そのことばかり考へておりたり。




