馬鈴薯の学問について少し聞きたりしこと
木陰にて出会ひし眼鏡の馬鈴薯は、しばらくの間、一行と共に街道脇へ腰を下ろしておりけり。
尤も。
腰と呼ぶべき部分あるや否やは不明なり。
馬鈴薯なればなり。
村上などは未だに時折二度見しておりたり。
無理も無きことなり。
眼鏡を掛けたる馬鈴薯と会話する機会など、人生にそう何度もあるまじければ。
「本当に大学へ通ひしや」
フィア、不思議さうに問ひける。
ポテ彦は眼鏡の位置を少し直し、こほんと咳払いしたり。
「左様」
「農学部卒業にございます」
「何を学ぶの?」
エレノアも興味湧きたりしやうなり。
「作物の育て方、保存法、品種改良などでございます」
その答へは至極真面目なり。
むしろ立派なり。
されど。
喋る馬鈴薯なり。
真面目な話をするほど妙な光景となりける。
「品種改良とな」
貴光、少し感心したるやうに頷きける。
「うむ」
「馬鈴薯を改良するのです」
「自分自身なりか」
しばし沈黙。
風、草を揺らしけり。
ポテ彦。
ゆっくりと視線逸らしたり。
「……触れないで頂きたい話題もございます」
何やら複雑なる事情あるらし。
佐藤は吹き出しさうになりたり。
「お前、自分の研究対象だったのか」
「研究者には時として覚悟が必要なのです」
遠き目をしたり。
何があったかは聞かぬ方が良ささうなり。
その時。
黒牛がのそのそと近付き来たり。
そして。
ポテ彦の頭を鼻先にて軽くつつきける。
「おお」
ポテ彦少し嬉しさうにしけり。
「賢き牛ですね」
黒牛は特に反応せず、再び草を食み始めたり。
いつも通りなり。
「ところで」
レン、不意に口を開きける。
「お前、この辺に詳しいのか」
「多少は」
ポテ彦答へたり。
「海辺の町ならば、この街道を二日ほど進めば着きます」
「おお」
村上少し安心したり。
昨日まで地下室に住みたりし男なれば、道案内の存在は有難きものなり。
「途中に村もございます」
「宿は?」
「ございます」
「飯屋は?」
「ございます」
貴光だけ質問の方向がおかしきなり。
されど重要なり。
旅路において飯は大切なれば。
その後もしばらく話続きたり。
王都の話。
農業の話。
海辺の町の話。
平和なる時間流れけり。
戦も終はりたり。
魔王も既に居らず。
かかる穏やかなる旅も悪くは無きものなり。
やがて日も少し傾き始めたり。
レンは空を見上げ、そろそろ出立すべき頃合ひと判断したり。
「行くか」
一同立ち上がりける。
ポテ彦も立ち上がらんとしたり。
否。
転がりたり。
馬鈴薯なればなり。
歩くより転がる方が早きらし。
貴光、その様を見てしばし考へ込みたり。
「む」
「何ですか」
ポテ彦問ひける。
「牛車の荷台に乗るなり」
実に自然なる提案なり。
「ありがとうございます」
ポテ彦答へたり。
そして。
軽虎の荷台へ、ころころと転がり込みたり。
実に収まり良かりけり。
まるで最初からそこに居るべくして居るやうなり。
佐藤はそれを見て少し眉をひそめたり。
「何だろうな」
「何なり」
「嫌な予感がする」
もっともなり。
新たなる仲間。
しかも王都国立大学卒業の馬鈴薯。
ろくでもない事態の予感しかしなかりけり。
されど。
今はまだ誰も知らず。
この馬鈴薯が後に発明家と出会ひ、とんでもなき目に遭ふことを。
無論。
ポテ彦自身も知らざりけり。




