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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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木陰の妙なる者と出会ひしこと

 街道脇の大樹の下。


 丸き何か立ちたり。


 遠目にはよく見えざりけれど、確かに何かおりたり。


 風は穏やかに吹きたり。


 草は揺れたり。


 されど、その丸きもののみ微動だにせず。


「……人なりや」


 貴光、目を細めつつ呟きける。


「人にしては小さくないか」


 レン答へたり。


 確かにその通りなり。


 大人どころか子供ほども無き大きさなり。


 村上などは少し後ろへ下がりたり。


「魔物じゃないですよね」


「分からん」


 佐藤即答したり。


 分からぬものは分からぬなり。


 無理に賢しらぶる必要無きなり。


 やがて一行、ゆるゆると近付きたり。


 距離縮まるにつれ、その姿も徐々に見え始めたり。


 丸し。


 茶色し。


 少々土臭し。


 そして。


 眼鏡掛けたり。


「……」


 佐藤立ち止まりたり。


「……」


 レンも立ち止まりたり。


「……」


 エレノアも立ち止まりたり。


 フィアのみ困惑したり。


「どうしたのですか」


「いや」


 佐藤答へたり。


「俺の知ってる世界では眼鏡掛けた馬鈴薯は居ない」


「私の世界にも居ません」


 当然なり。


 その時。


 丸きもの。


 ゆっくりと頭下げたり。


 実に礼儀正しかりけり。


「初めまして」


 声聞こえたり。


「ッッ!?」


 村上飛び上がりたり。


「喋った!」


 もっともな反応なり。


 丸きものは少し咳払いしたり。


 そして。


「私はジャガ村ポテ彦と申します」


 名乗りたり。


 風、吹き抜けたり。


 鳥、一羽飛び立ちたり。


 誰も言葉出でざりけり。


 理解が追ひ付かざればなり。


「……馬鈴薯なり」


 貴光、慎重に結論出したり。


「左様でございます」


 肯定したり。


 馬鈴薯だったり。


 どうやら本当に馬鈴薯だったり。


 その時。


 レン、額押さへたり。


「待て」


「何でしょう」


「何で喋る」


 当然の疑問なり。


 ポテ彦、少し考へたり。


「努力しました」


 しれっと答へたり。


「何の答えにもなってねぇ」


 佐藤即座に突っ込みたり。


 その後もしばし問答続きたり。


 結果判明したること。


 ポテ彦は馬鈴薯なり。


 眼鏡掛けたり。


 喋りたり。


 歩けたり。


 そして。


「王都国立大学農学部卒業です」


 誇らしげに言ひたり。


 全員固まりたり。


 風、吹きたり。


 雲、流れたり。


 現実だけが受け入れ難かりけり。


「大学」


 エレノア呟きたり。


「卒業」


 フィア呟きたり。


「馬鈴薯」


 佐藤呟きたり。


 三つ合はさるべきものでは無かりけり。


 その時。


 貴光、感心したるやうに頷きたり。


「高学歴なり」


「ありがとうございます」


 ポテ彦頭下げたり。


「されど馬鈴薯なり」


「そこは仕方ありません」


 本人も認めたり。


 やがて一行、街道脇に腰下ろし、しばし話を聞くこととなりたり。


 ポテ彦によれば、王都にて農業研究を行ひたりとのこと。


 馬鈴薯の収穫量。


 土壌改良。


 保存方法。


 様々なる研究に携はりたり。


 極めて真面目な経歴なり。


 極めて真面目な内容なり。


 されど。


 喋る馬鈴薯なり。


 全て台無しなり。


「それで」


 レン問ひたり。


「何故こんな所に居る」


 ポテ彦。


 少し黙りたり。


 やがて遠き空見上げたり。


「研究費が無くなりました」


 悲しき現実なり。


「王都も不景気なのか」


 佐藤少し同情したり。


「ええ」


 ポテ彦頷きたり。


「研究室も閉鎖されまして」


 世知辛きなり。


「それで旅を?」


「いえ」


 ポテ彦首振りたり。


「日向ぼっこです」


 違ひたり。


 予想と全然違ひたり。


 その時。


 黒牛、のそのそ近付きたり。


 そして。


 ポテ彦の頭匂ひたり。


「おお」


 ポテ彦少し嬉しさうにしけり。


「立派な牛ですね」


 黒牛。


 もぐもぐしつつ去りたり。


 興味失せたり。


 非常に平和なり。


 その折。


 貴光、ふとポテ彦見たり。


「行く当て無きなりか」


「特には」


 ポテ彦答へたり。


 貴光。


 少し考へたり。


 そして。


「ならば来るなり」


 言ひたり。


「は?」


 佐藤振り向きたり。


「何で」


「面白きなり」


 理由になっておらざりけり。


 されど。


 それが貴光なり。


 かくして。


 旅人。


 勇者。


 魔法使ひ。


 転生者。


 そして。


 王都国立大学卒業の馬鈴薯。


 奇妙なる一行は、再び海辺の町を目指して歩み始めけり。


 道中何が起こるかは誰も知らず。


 ただ一つ確かなことあり。


 普通の旅にはならざるべし。

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