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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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海といふものを見に行かんとしたること

 翌朝。


 空はよく晴れたり。


 宿の窓より差し込む朝日まぶしく、町には既に人々の動く気配満ちたり。


 荷車を引く商人あり。


 店を開ける者あり。


 井戸に集まる女たちあり。


 戦の終はりし後なれど、人は生きねばならぬものなり。


 貴光は宿の外へ出で、ゆるゆると空を見上げける。


 雲は少なく、風は穏やかなり。


 旅には良き日和なり。


「実に歩きたくなる空なり」


「珍しくまともなこと言ったな」


 後ろより佐藤の声聞こえたり。


 振り返れば、既に荷をまとめ終へたり。


 エレノアも眠たげに欠伸を漏らしつつ現れける。


「まだ朝なのに元気ね」


「うむ」


 貴光、真顔にて頷きたり。


「腹減りたり」


「取り消すわ」


 当然なり。


 その頃。


 村上は宿の食堂にて三杯目の朝食を平らげたり。


 三日まともに食事しておらざりし反動なり。


 誰も止めざりけり。


 レンなどは少し離れた席にて腕を組みながらその様を眺めたり。


「よく食うな」


「昨日からずっと食ってるぞ」


 佐藤呆れたり。


「生き返ったんだろ」


 その言葉に、村上は少し考へたり。


「確かに」


 妙に納得したり。


 やがて準備整ひ、一行は再び街道へ出でたり。


 海辺の町までは数日ほどと聞きたり。


 急ぐ理由も無きが故、のんびり進むこととしたり。


 街道脇には草花咲きたり。


 名も知らぬ鳥、時折空を横切りたり。


 黒牛は相変はらず草を食みつつ歩みたり。


 軽虎もまた、その後ろを静かに引かれたり。


 平和なり。


 実に平和なり。


 その折。


 フィア、ふと軽虎を見たり。


「そういえば」


「何だ」


 レン問ひたり。


「これ本当に壊れないのですか」


 一同。


 軽虎を見たり。


「壊れぬなり」


 貴光答へたり。


「試したのか?」


 村上問ひたり。


 佐藤、遠き目したり。


「色々あった」


「聞かない方が良さそうですね」


「正解だ」


 実際正解なり。


 落下したり。


 爆発したり。


 神界行ったり。


 戦争に巻き込まれたり。


 されど壊れざりけり。


 もはや誰も理由を考へざりたり。


 その時。


 道端に小さき石積まれたる場所見えたり。


 旅人の休憩所なるやもしれぬ。


 一行もそこでしばし休むこととしたり。


 風心地良く吹きたり。


 遠くには森見えたり。


 さらにその向こうには青く霞みたる山々連なりたり。


「平和だな」


 レン呟きたり。


 誰も反論せざりけり。


 戦も終はりたり。


 魔王も討たれたり。


 今はただ旅するのみなり。


 その時。


 貴光、ふと問ひたり。


「海とは塩辛きなりか」


「海水はな」


 佐藤答へたり。


「魚いっぱい居るぞ」


「おお」


 貴光少し目輝かせたり。


「魚捕るなり」


「まず見るのが先だろ」


 佐藤呆れたり。


 その頃。


 黒牛は少し離れた場所にて草食みたり。


 いつも通りなり。


 そして。


 その黒牛。


 何故か一点をじっと見つめたり。


 もぐもぐ。


 咀嚼しつつ見つめたり。


 貴光もその視線を追ひたり。


「む」


 道の先。


 街道脇の大樹ありたり。


 その木陰に何か見えたり。


 遠くにてよく分からず。


 されど。


 何やら丸きもの立ちたり。


「何なり」


 貴光目細めたり。


 レンも振り向きたり。


「人か?」


「いや」


 エレノア首傾げたり。


「小さいわね」


 風が吹きたり。


 木々揺れたり。


 葉の隙間より日差しこぼれたり。


 その影の中。


 丸き何か、微動だにせず立ちたり。


 旅人なるや。


 魔物なるや。


 はたまた全く別の何かなるや。


 まだ誰も知る由なかりけり。


 ただ。


 黒牛のみは興味深げに見つめ続けたり。

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