妙なる食堂にて昼餉食ひたりしこと
地下室を脱したる一行は、街道沿ひの小さき町へ入りたり。
戦の終はりよりまだ日浅く、所々崩れたる建物も見受けられけれど、人々の顔色は思ひのほか明るかりき。
市場には商人の声響きたり。
子供らは走り回りたり。
鍛冶屋の槌の音も聞こえたり。
平和とはかくあるものなり。
「飯なり」
貴光、町へ入るなり言ひたり。
実にぶれざる男なり。
「さっきも言ってたな」
佐藤呆れたり。
「腹減るものは腹減るなり」
もっともなり。
反論難しかりけり。
村上もまた腹を押さへたり。
三日まともに食ひておらざれば当然なり。
やがて一行、食堂を見つけたり。
木造二階建て。
看板には「銀麦亭」と記されたり。
窓よりは良き匂ひ漂ひたり。
肉なり。
実に良き匂ひなり。
貴光、ふらふらと吸ひ寄せられたり。
「犬かお前」
佐藤呟きたり。
店内へ入れば昼時にて賑はひたり。
旅人。
商人。
冒険者。
様々なる者ども席を埋めたり。
運良く奥の席空きたりしが故、一行そこへ腰掛けたり。
店主らしき壮年の男、水を運びたり。
「何にしますかね」
言ひつつ木札並べたり。
レン、値段見て少し眉上げたり。
「安いな」
「戦後だからなぁ」
店主笑ひたり。
「儲けより客呼ぶ方が大事なんだ」
なるほどなり。
戦争終はりしばかりなれば、人も金も不足しがちなり。
されど店閉めれば何も始まらず。
生きるとは大変なり。
その折。
貴光、木札見つめたり。
「何なりこれ」
「メニューだ」
佐藤答へたり。
「読めぬなり」
「お前たまに字読めなくなるよな」
事実なり。
異世界文字と古代文字と現代文字と神界文字が混ざりたりしが故、時折混乱するなり。
結局。
貴光は一番高き料理を指差したり。
「これなり」
「理由は?」
エレノア問ひたり。
「高きものは美味きなり」
実に単純なり。
十分後。
料理運ばれたり。
肉。
パン。
芋。
そして野菜の煮込みなり。
極めて普通なり。
されど空腹には十分過ぎたり。
村上など涙ぐみたり。
「うまい……」
そして食ひたり。
さらに食ひたり。
まだ食ひたり。
誰も止めざりけり。
三日ぶりのまともな食事なればなり。
その頃。
店の隅。
二人の商人、何やら話し込みたり。
「聞いたか」
「ああ」
「軽虎教だろ」
その言葉。
佐藤の耳に入りたり。
嫌な予感したり。
大体当たるなり。
「今度は何やった」
小声にて呟きたり。
商人どもの会話続きたり。
「信者百万人突破らしいぞ」
「早ぇな」
「本当に宗教なのかあれ」
「知らん」
もっともなり。
その時。
貴光。
煮込み食ひながら言ひたり。
「百万人とな」
「お前の教団だぞ」
「そうなりか」
興味薄かりたり。
教祖としてどうなのか。
誰にも分からざりけり。
さらに商人の話続きたり。
「しかも最近、新しい支部が出来たらしい」
「どこだ」
「海沿いの方」
「遠いな」
「遠い」
その話聞きたりしレン。
ふと顔上げたり。
「そういや」
「何なり」
「旅の目的決まってなかったな」
言はれてみればその通りなり。
地下室。
転生者。
昼飯。
そこまでは決まりたり。
その先は決まりておらず。
エレノアも頷きたり。
「確かに」
「新しい町行くか?」
レン問ひたり。
フィア少し考へたり。
「海を見てみたいです」
その言葉に。
村上、勢ひよく顔上げたり。
「海ですか!?」
「そうだけど」
「僕行ったことありません!」
転生前は内陸住まひだったらし。
少し興奮してたり。
その様子見て。
佐藤苦笑したり。
「決まりだな」
かくして。
一行。
次なる目的地を海辺の町と定めたり。
別段深き理由は無かりけり。
海見たき者がおりたり。
それだけなり。
されど旅とは大体そんなものなり。
その頃。
遠く離れし軽虎教本部。
一人の女性、大量の帳簿を抱へて走りたり。
「今月の食費が合わないんだけどぉぉぉ!!」
別の女性。
「孤児院の予算足りないわよ!!」
さらに別の女性。
「誰よ軽虎型パン焼き機を百台発注したの!!」
非常なる混乱なり。
されど。
本人達は元気なり。
多分幸せなり。
恐らくなり。
一方その頃。
レン。
何となく遠くの空見上げたり。
「……何か嫌な予感する」
当たりたり。
大体いつも当たりたり。
しかし今はまだ。
誰も知らざりけり。
教団本部にて何が起きてゐるのかを




