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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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地下室より出でんとして更に迷ひたりしこと

 地下室の片隅にて。


 一行は困りたり。


 理由は単純なり。


 帰り道が分からざりければなり。


「……」


 レンは額を押さへたり。


 エレノアは壁にもたれたり。


 フィアは地図らしき物を描かんと試みたり。


 佐藤は既に諦めたる顔をして座り込みたり。


 貴光のみ変わらず干し柿食ひたり。


 実に平和なり。


 平和では無かりけれど。


「誰か覚えておらぬなりか」


 貴光問ひたり。


「覚えてたら困ってねぇよ」


 佐藤答へたり。


 その通りなり。


 全員勢ひに任せて奥まで来たりしが故、曲がり角など覚えておらざりけり。


 その折。


 村上悠斗、ゆるりと立ち上がりたり。


「案内できます」


 一同。


 希望を見出したる顔したり。


「本当か」


 レン問ひたり。


「はい」


 村上頷きたり。


「僕、ここ三日住んでましたから」


 確かにその通りなり。


 三日迷ひたりし事実には目を瞑ることとしたり。


 かくして。


 一行は村上を先頭に進み始めたり。


 地下通路は薄暗く、時折風の吹き抜ける音聞こえたり。


 古き石壁には苔生えたり。


 長き年月、人の手入れ受けざりしこと明らかなり。


 村上は自信ありげに歩みたり。


「こちらです」


 曲がりたり。


 さらに歩みたり。


「こちらです」


 また曲がりたり。


 さらに十分ほど進みたり。


 やがて。


 村上立ち止まりたり。


「……」


 沈黙したり。


「何なり」


 貴光問ひたり。


「見覚えありません」


 村上答へたり。


 駄目だったり。


 非常に駄目だったり。


「お前三日住んでたんじゃねぇのか」


 佐藤叫びたり。


「住んでました」


「何で迷うんだ」


「僕も知りません」


 本人も分からざりけり。


 その時。


 レン深き溜息つきたり。


「村上」


「はい」


「お前何で地下室なんかに住んでた」


 もっともな疑問なり。


 村上少し考へたり。


 そして。


「家賃が無かったので」


 答へたり。


 しばし静まりたり。


 誰も反論できざりけり。


 異世界世知辛きなり。


 やがて再び歩み始めたり。


 その途中。


 フィアふと口開きたり。


「村上さんはどのような世界から来たのですか」


「二〇二四年です」


 村上答へたり。


「スマホありました」


「うむ」


 貴光頷きたり。


「黒き神境なり」


「スマホです」


 即座に訂正されたり。


「鉄の牛車もありました」


「うむ」


「軽トラです」


 こちらも訂正されたり。


 慣れたものなり。


 転生者は皆一度は通る道なればなり。


 その時。


 佐藤、ふと思ひ出したるやうに村上を見たり。


「そういや」


「何ですか」


「大型トラック教の信者だったんだよな」


 村上頷きたり。


「はい」


「どんな教義なんだ」


 その問いに。


 村上少し考へたり。


 さらに考へたり。


 しばらく考へたり。


 そして。


「大きいものは偉い」


 答へたり。


 しん。


 今度は本当に静まりたり。


「それだけか」


 レン問ひたり。


「はい」


「他には」


「特に」


 実に簡潔なり。


 分かりやすきなり。


「だから神像も大きいんです」


 村上言ひたり。


「なるほど」


 佐藤頷きたり。


「分からん」


 頷いた直後に否定したり。


 当然なり。


 理解できる方がおかしきなり。


 その時。


 前方より微かなる光差し込みたり。


 誰からともなく足早になりたり。


 やがて。


 長き地下通路の果て。


 外へ続く階段現れたり。


「おお」


 貴光少し嬉しさうに言ひたり。


 外の光なり。


 実に久方ぶりなり。


 村上など涙ぐみ始めたり。


「太陽だ……」


「三日ぶりか」


「はい……」


 大袈裟なやうでいて事実なり。


 そして一行は地上へ出たり。


 青き空広がりたり。


 風心地良く吹きたり。


 遠くには街並み見えたり。


 戦の傷跡未だ残れど、人々は確かに日常を取り戻しつつありたり。


 旅路再開編。


 世界はまだ広し。


 見るべきものも多し。


 そして。


 貴光。


 空見上げたり。


「腹減りたり」


 第一声それなり。


 村上頷きたり。


「僕もです」


 こうして。


 一行はまず飯屋を探すこととなりけり。


 世界の謎より昼飯の方が優先されたり。


 いつものことなり。

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