地下室の奥にて妙なる男見つけたりしこと
地下室の奥より響きし小さき音に、一同しばし身構へたり。
レンは剣を抜き、エレノアは魔法の準備を整へ、フィアもまた警戒の色を隠さざりけり。
佐藤のみ、
「帰りてえ」
と正直な感想を漏らしける。
実に正しき判断なり。
されど誰も帰らざりけり。
人とは好奇心に負ける生き物なればなり。
かくして一行、暗がりの奥へ進みける。
石畳は古び、天井よりは時折砂ぱらぱら落ちたり。
長らく人の出入り無かりし場所なること明らかなり。
「何がおると思ふなり」
貴光、歩きながら問ひたり。
「魔物」
レン即答したり。
「盗賊」
エレノア答へたり。
「不審者」
佐藤答へたり。
「全部同じでは」
フィア少し困惑したり。
やがて。
奥に小部屋現れたり。
扉は朽ち、半ば外れかけたり。
その隙間より微かなる音聞こえたり。
ごそ。
ごそ。
皆顔見合わせたり。
レン頷きたり。
そして勢ひよく扉開きたり。
「動くな!」
勇ましき声響きたり。
されど。
返ってきたるは。
「……食ひ物……」
といふ力無き声なり。
しん。
一同固まりたり。
部屋の隅。
ぼろぼろの布に包まりたる若き男一人転がりたり。
髪ぼさぼさ。
顔色悪し。
頬こけたり。
明らかに栄養不足なり。
「何だこいつ」
佐藤思はず呟きたり。
男、ゆるゆると顔上げたり。
「飯……」
「魔物では無かりしなり」
貴光頷きたり。
男なり。
ただの腹減りたる男なり。
その時。
男、貴光らを見つめたり。
そして。
「日本人……?」
ぽつりと呟きたり。
一同。
しんと静まりたり。
佐藤。
顔上げたり。
「お前」
「はい……」
「転生者か?」
男。
涙目になりたり。
「やっと会えたぁぁぁ!!」
泣き始めたり。
非常に情けなき泣き方なり。
数分後。
地下室の片隅。
男、ポテチ食ひたり。
佐藤の能力なり。
便利なり。
「うめぇ……」
感動してたり。
「何日食ってねえんだ」
レン問ひたり。
「三日くらい……」
「よく生きてたな」
「地下室に住んでました」
意味分からざりけり。
事情を聞けば。
男の名は村上悠斗。
二〇二四年より転生したる高校生なり。
転生後。
冒険者を目指したり。
しかし。
三日で諦めたり。
根性無かりけり。
その後。
何故か大型トラック神教へ入りたり。
さらに。
何故か地下室へ住み着きたり。
さらに。
何故か迷ひたり。
そして出られなくなりたり。
「馬鹿なり」
貴光率直に評したり。
「否定できません……」
村上答へたり。
その時。
佐藤、ふと思ひ出したるやうにレン見たり。
「そういや」
「何だ」
「百四十話くらいで一緒にいた女ども三人どこ行った」
しん。
何故か空気止まりたり。
レン。
遠き目したり。
「……あいつらか」
「おう」
「気になってた」
エレノアも頷きたり。
「確かに最近見ないわね」
レン。
深く溜息つきたり。
「軽虎教本部だ」
「何故なり」
貴光問ひたり。
「知らん」
即答なり。
「知らぬなりか」
「本当に知らん」
レン頭抱へたり。
「気付いたら食堂やり始めてた」
しん。
「は?」
佐藤固まりたり。
「孤児院もやってる」
「何で」
「知らん」
さらに。
「会計もやってる」
「何で」
「だから知らん」
レン若干切れたり。
実際知らざりけり。
「今じゃ教団幹部だぞ」
皆固まりたり。
いつの間にかなり。
非常にいつの間にかなり。
「旅は」
フィア問ひたり。
「戻る気無いらしい」
レン答へたり。
「毎日楽しそうに働いてる」
「意味分からぬなり」
貴光頷きたり。
「俺もだ」
レン頷きたり。
何故か意気投合したり。
その頃。
遠く離れし軽虎教本部。
三人の女性。
食堂にて大量の信者相手に忙しく働きたり。
本人達。
非常に充実してたり。
レンの知らぬところにて。
完全に定住してたり。
そして。
地下室では。
話題既に変わりたり。
誰も赤き結晶のこと気にしておらず。
誰も第一号のこと気にしておらず。
村上のみ。
「ところで皆さん」
口開きたり。
「何なり」
貴光問ひたり。
「外に出る道知りません?」
しん。
全員固まりたり。
そういへば。
地下室へ来たは良きものの。
帰り道。
誰も覚えておらざりけり。
非常に嫌な予感したり。




