赤き結晶の由来知りたりしこと
赤き結晶へ触れし後も、特に何事も起こらざりけり。
部屋を揺らしたる振動も既に収まり、再び静寂のみ満ちたり。
されど佐藤は未だ警戒を解かず。
「絶対何か起きただろ」
結晶を睨みながら言ひける。
「起きざりけり」
貴光、平然と答へたり。
「いや光ったじゃねえか」
「光りたり」
「じゃあ起きてるだろ」
「なるほどなり」
理解したるやうな顔をしける。
多分理解しておらず。
その折、レンは部屋の周囲を見渡しけり。
赤き結晶ばかりに気を取られてゐたりしが、改めて見れば妙なる物多く置かれたり。
古びた机。
錆びた燭台。
朽ちかけし本棚。
そして壁一面に並ぶ石板。
「なあ」
レン、一枚の石板を指差しける。
「こっちの方が重要じゃねえか?」
確かにその通りなり。
皆そちらへ集まりたり。
石板には古き文字刻まれたり。
されど風化激しく、判読難し。
フィアは指先へ淡き光を宿し、石板をなぞりける。
すると文字の一部、ぼんやりと浮かび上がりたり。
「読めますか?」
エレノア問ひける。
フィア頷きたり。
「少しだけですが」
そして読み上げける。
『願ひ多き時、核は育つ』
『信仰多き時、核は応ふ』
『されど核は神にあらず』
『神は後に生まるるものなり』
その場の空気、僅かに重くなりたり。
「神が後から生まれる?」
レン首を傾げける。
「普通逆じゃない?」
エレノアも不思議さうに言ひたり。
その時なり。
貴光、石板をじっと見つめたり。
「卵の如きものなりや」
一同。
貴光を見たり。
「卵?」
佐藤問ひける。
「うむ」
貴光頷きたり。
「牛も鶏も最初は小さきものなり」
「牛は卵から生まれねえよ」
即座に否定されたり。
されどフィアは少し考へ込みける。
「ですが……」
「ん?」
「例えとしては近いかもしれません」
全員フィアを見たり。
「この石板の内容通りなら」
「うむ」
「信仰が集まり続けることで、何かが生まれるという意味になります」
しばし沈黙流れたり。
そして。
「嫌だな」
佐藤言ひたり。
「すげえ嫌だな」
レンも頷きたり。
「俺も嫌だ」
エレノアも頷きたり。
「私も」
満場一致なり。
その頃。
地上の神殿では。
信者ども相変わらず祈り続けたり。
「大型トラック神様!!」
「宝くじ当ててください!!」
「肩こり治してください!!」
「今日の夕飯豪華になりますように!!」
願ひ放題なり。
自由なり。
実に自由なり。
そしてその度に。
誰にも見えざる赤き光、神殿中より地下へ流れ込みたり。
細き糸の如く。
静かに。
少しずつ。
結晶へ集まりたり。
されど誰も知らざりけり。
地下にゐる貴光らも気付かざりけり。
その時。
本棚を漁りてゐたりしエレノア、一冊の書物を引き抜きたり。
古き革表紙なり。
題名は擦れ、半ば消えかけたり。
「何か見つけた?」
レン問ひける。
「ええ」
エレノア頁を開きたり。
埃舞ひたり。
「けほっ」
少し咳き込みたり。
どうやらかなり古き書物らし。
しばらく頁をめくりたり。
そして。
「……あ」
エレノアの手、止まりたり。
「どうした」
佐藤近寄りたり。
「これ」
そこには奇妙なる挿絵描かれたり。
一つは赤き結晶。
そしてその上には。
巨大なる車の姿。
「軽虎なり」
貴光即座に言ひたり。
「違う」
佐藤即座に否定したり。
車輪の数違ひたり。
大きさも違ひたり。
何より。
荷台が長し。
まさしく大型トラックなり。
その下には文章も添へられたり。
フィア読み上げたり。
『人々の願ひ集まりし時』
『鉄の神、目覚めん』
『されどその名を呼ぶべからず』
『呼ばるる度に近付くが故なり』
再び静まりたり。
嫌な内容なり。
非常に嫌な内容なり。
「なあ」
佐藤言ひたり。
「一つ聞いていいか」
「何でしょう」
フィア答へたり。
「大型トラック神って」
「はい」
「信者ども毎日何回くらい名前呼んでる?」
しばし考へたり。
そして。
「数万回くらいでしょうか」
「終わった」
佐藤即答したり。
レンも同意したり。
「終わったな」
「終わったわね」
エレノアも頷きたり。
その頃。
神殿広場。
一人の信者、空へ向かひ叫びたり。
「大型トラック神様ぁぁぁ!!」
その瞬間。
地下深く。
赤き結晶。
微かに脈打ちたり。
どくん。
誰も聞かざりけり。
どくん。
されど確かに。
先程より少しだけ強く光りたり。
そして結晶の内部。
赤き霧の如きもの、ゆるりと渦巻き始めたり。
まるで何かが眠りより覚めんとしてゐるかのやうに。
されど今は未だ誰も知らず。
貴光らもまた、古き書物を囲みながら頭を抱へてゐたり。
大型トラック神教。
どうやら思ひたりしより、少々厄介なる代物らしかりけり。




