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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
最終章:鉄の牛車編

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第四の四天王敗れたりしこと

 戦場中央。



 第四の四天王ヴァルグ。



 なお立ちたり。



 されど。



 その心、既に揺らぎ始めたり。



 幾度斬りかかれど当たらず。



 幾度瘴気を放てど届かず。



 渾身の黒き光線すら。



 黒牛が一歩横へ動きしだけにて外れたり。



 不可解。



 あまりにも不可解なり。



 ヴァルグ、剣握る手に力込めたり。



 額より汗流れたり。



 目の前には。



 御池貴光。



 干し柿食ひたり。



「甘きなり」



 戦場中央にて。



 四天王を前にして。



 干し柿食ひたり。



 意味分からざりけり。



「貴様……」



 ヴァルグ、掠れた声にて言ひたり。



「何者だ」



 貴光、少し考へたり。



 そして。



「御池貴光なり」



 そのまま答へたり。



 ヴァルグ、奥歯噛みしめたり。



「そうではない!!」



 叫びたり。



 黒き瘴気、足元より噴き上がりたり。



 周囲の草枯れたり。



 岩ひび割れたり。



 大地、低く唸りたり。



 王国軍も魔王軍も、既に戦ふ手止めたり。



 誰も近寄れず。



 誰も口出せず。



 ただ見守るのみなり。



「俺は第四の四天王ヴァルグ!!」



「ほう」



「魔王様が剣!!」



「ほう」



「幾千の戦場を踏み越えし者!!」



「ほう」



「貴様ごときに惑わされるはずがない!!」



 貴光、干し柿の種を見つめたり。



「種ありたり」



「聞けぇぇぇ!!」



 ヴァルグ、遂に怒りたり。



 剣掲げたり。



 瘴気、天へ昇りたり。



 黒雲、渦を巻きたり。



 空暗くなりたり。



 兵ども悲鳴上げ、遠くへ逃げたり。



「まずい!!」



「今度こそ本気だ!!」



「巻き込まれるぞ!!」



 佐藤も後ろへ下がりたり。



「おいおいおい、これ大丈夫なのか!?」



 エレノア、剣構へたり。



「大丈夫に見える?」



「見えねえ!!」



 レン、ガルド戦の傷押さへながら顔しかめたり。



「あいつ、本気で殺しに来るぞ」



 フィア、杖握りしめたり。



「結界張る?」



「間に合うか分からねえ」



 その時。



 遠くの森。



 木々大きく揺れたり。



 鳥、いっせいに飛び立ちたり。



 何か近付きたり。



 されど。



 戦場の者ども、誰も気付かざりけり。



 ヴァルグ、全魔力を剣に込めたり。



 黒き剣身、巨大化したり。



 十メートル。



 二十メートル。



 五十メートル。



 ついには百メートルを超えたり。



 山をも断つ一撃なり。



 国をも裂く一撃なり。



「これで終わりだ!!」



 ヴァルグ叫びたり。



 剣振り下ろさんとした。



 その瞬間。



 どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん。



 突如。



 横合ひより轟音響きたり。



 白き閃光。



 炎。



 衝撃。



 それら一度に押し寄せたり。



 ヴァルグの巨剣、振り下ろされる前に砕けたり。



 瘴気吹き散りたり。



 大地抉れたり。



 ヴァルグ、全身を炎に打たれ、吹き飛ばされたり。



 地面を跳ねたり。



 岩へ叩きつけられたり。



 鎧砕けたり。



 血吐きたり。



 されど。



 倒れざりけり。



「まだ……」



 ヴァルグ、膝つきながらも立ち上がりたり。



「まだだ……!」



 視界霞みたり。



 耳鳴り止まざりたり。



 息苦し。



 何が起きたか分からず。



 されど。



 目の前に煙立ち込めたり。



 その煙の中。



 一つの影。



 ゆっくり歩み出でたり。



 御池貴光なり。



 ヴァルグの目には。



 そう見えたり。



 風止まりたり。



 音消えたり。



 世界そのもの、彼の歩みに合わせて静まり返りたり。



 貴光、烏帽子揺らし、袖を垂らし、煙の中より現れけり。



 その足元。



 淡き光走りたり。



 円描きたり。



 文様刻まれたり。



 それは巨大なる陰陽陣なり。



 瞬く間に広がりたり。



 百歩。



 千歩。



 戦場全体。



 さらに遠き丘。



 空までも覆ひたり。



「馬鹿な……」



 ヴァルグ、震へたり。



「何だ……これは……」



 貴光、静かに手上げたり。



 声低く響きたり。



「陰陽術」



 その一言にて。



 空、裂けたり。



「天地開闢」



 昼と夜、同時に現れたり。



 太陽と月、戦場の上に並びたり。



 星々、真昼に輝きたり。



 大地震へたり。



 山々鳴りたり。



 魔王軍も王国軍も、影の如く動けざりけり。



 ヴァルグ、剣を構へ直さんとしたり。



 されど。



 手動かず。



 恐怖にて動かざりけり。



「ふざけるな……」



「こんな術……」



「聞いたことがない……!」



 貴光、さらに袖振りたり。



「陰陽術」



「百鬼夜行」



 地面割れたり。



 そこより影湧きたり。



 鬼。



 天狗。



 妖狐。



 大蛇。



 骸武者。



 名も知らぬ怪異。



 数え切れぬ式神ども現れたり。



 空を埋めたり。



 地を覆ひたり。



 炎まとひたり。



 雷まとひたり。



 その全て。



 貴光一人へ傅きたり。



 ヴァルグ、後退りたり。



「有り得ぬ……」



「一人の人間が……」



「これほどの軍を……」



 その時。



 貴光、目を細めたり。



「陰陽術」



「八咫鏡」



 空中に巨大なる鏡現れたり。



 ヴァルグ、反射的に黒炎放ちたり。



 されど。



 鏡、黒炎飲み込みたり。



 次の瞬間。



 百倍となりて返りたり。



「ぐあああああ!!」



 ヴァルグ、炎に焼かれたり。



 鎧さらに砕けたり。



 膝崩れたり。



 されど、なお立たんとしたり。



「まだ……だ……!」



 その執念。



 四天王に相応しかりけり。



 貴光、静かに見下ろしたり。



 その目。



 慈悲も怒りも無し。



 ただ静かなり。



 その静けさこそ。



 ヴァルグには恐怖なり。



「陰陽術」



「黄泉返し」



 大地より無数の腕伸びたり。



 亡者の軍勢現れたり。



 古の英雄。



 滅びし王。



 名無き兵。



 かつて戦場に散りし者ども。



 全て貴光の背後に並びたり。



 その数、百万にも見えたり。



 ヴァルグ、遂に剣落としたり。



「勝てぬ……」



 小さく呟きたり。



「これは……」



「戦いではない……」



 貴光、最後に一歩踏み出したり。



 その一歩にて。



 空震へたり。



 大地裂けたり。



 遠き山、光に呑まれたり。



 世界終末の如し。



「陰陽術」



「天照破軍」



 天より光降りたり。



 千の太陽の如し。



 白き炎。



 黄金の雷。



 蒼き風。



 全て混じりたり。



 ヴァルグ、叫びたり。



「やめろ……」



「来るな……」



「来るなぁぁぁぁぁ!!」



 しかし。



 光、止まらず。



 貴光、静かに告げたり。



「終はりなり」



 瞬間。



 世界、白く染まりたり。



 ヴァルグ、飲まれたり。



 意識、砕けたり。



 誇りも。



 恐怖も。



 怒りも。



 全て光に溶けたり。



 そして。



 静寂。



 訪れたり。



 ヴァルグ、倒れたり。



 薄れゆく意識の中。



 最後に見たるは。



 悠然と立つ貴光なり。



「そうか……」



 血吐きたり。



「平安の陰陽師とは……」



 笑ひたり。



「斯くも……恐ろしきものなりしか……」



 そして。



 力尽きたり。



 第四の四天王ヴァルグ。



 ここに敗れたり。





 その頃。



 現実。





 貴光。



 干し柿食ひたり。



「甘きなり」



 何もしておらざりけり。



 陰陽陣など無く。



 百鬼夜行など無く。



 黄泉返しなど無く。



 天照破軍など無く。



 ただ。



 巨大なる爆発ありたり。



 ヴァルグ、クレーターの中に倒れたり。



 黒牛、草食みたり。



 もぐもぐ。



 戦場。



 静まり返りたり。



 佐藤。



 口開けたり。



「……何だ今の」



 エレノア。



「知らないわよ」



 レン。



「俺にも分からん」



 フィア。



「貴光、何かした?」



 貴光。



 首傾げたり。



「何もしておらぬなり」



 正直なり。



 その時。



 信者ども。



 震へたり。



 震へたり。



 そして。



 一斉に叫びたり。



「教祖様ぁぁぁぁぁ!!」



「陰陽術だぁぁぁ!!」



「四天王を滅ぼした!!」



「平安陰陽術最強!!」



 勝手に決定したり。



 貴光。



 困惑したり。



「陰陽術なりか」



 佐藤。



「お前が聞くな!!」



 その頃。



 遠くの森。



 一人の男。



 木々の間より顔出したり。



 ぺ・ヤなり。



 周囲。



 派手に焼けたり。



 魔物。



 どこかへ逃げたり。



 ぺ・ヤ。



 首傾げたり。



「俺 腹減った」



「肉 どこ」



 少し歩きたり。



 焼け跡見たり。



「火 強すぎた」



 反省したり。



 されど。



 何を吹き飛ばしたか。



 全く知らざりけり。



 かくして。



 第四の四天王。



 討たれたり。



 魔王軍、大きく動揺したり。



 王国軍、歓喜したり。



 軽虎教信者、また一つ教祖伝説を増やしたり。



 後世の歴史書には。



【御池貴光、禁断の陰陽秘術を用ひて第四の四天王を滅ぼしたり】



 と記されることとなりけり。



 実際には。



 干し柿食っていただけなり。


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