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現代人、現る

黒牛、草を食みつつのそのそ歩みけるを、御池貴光、じっと見つめけり。


「実に立派なり」


 貴光、静かに頷きける。


「牛車には、やはり牛なり」


 かくして貴光、異界へ来て一刻も経たぬうちに、巨大なる鉄の牛車へ縄を括り付け始めけり。


 されど。


「……重すぎなり」


 牛、微動だにせず。


 貴光、額の汗を拭ひける。


「怠け牛なりや?」


「いや無理だろ」


 突如として背後より声聞こえける。


 振り返れば、ぼろぼろの衣を纏ひし男一人立ちけり。


 目の下には濃き隈。

 髪ぼさぼさ。

 手には、うす塩味の芋菓子。


「……何者なり」


「そっちこそ何してんだよ」


 男、鉄の牛車を見つめ――固まりける。


「……………………」


 しばし沈黙。


「軽トラ!?!?」


「けいとら?」


「なんで異世界に軽トラあんだよ!?」


「鉄の牛車なり」


「違ぇよ!!」


 男、頭抱えける。


「俺、佐藤健一。転生者」


「転生者……」


「そっちは?」


「御池貴光なり」


「……平安貴族?」


「うむ」


 佐藤、空を仰ぎける。


「よりによってかよ……」


 その後、佐藤、ふらふらと軽トラへ近寄りける。


「マジで軽トラだ……」


 ぺたぺた。


 触り。


 窓を覗き込み。


 そして、運転席見て固まりける。


「……あれ?」


 しばし沈黙。


「鍵は?」


「かぎ?」


「鍵だよ!! これ動かすやつ!!」


 貴光、しばし考え込みける。


「ああ」


 ぽん、と手打ちける。


「小さき鉄屑ならば川へ捨てたり」


「は?」


「不要なり」


 風、吹き抜けけり。


「……………………」


 佐藤、ゆっくり振り返りける。


「捨てた?」


「うむ」


「なんで?」


「鉄屑ゆゑ」


 しばし沈黙。


「……………………」


 佐藤、頭抱え、その場に崩れ落ちける。


「終わったァァァァァ!!!!」


 叫び、草原中へ響き渡りけり。


「何ぞ」


「何ぞじゃねぇよ!!」


 佐藤、勢いよく立ち上がりける。


「それエンジン起動する鍵だぞ!?」


「えんじん?」


「この軽トラを動かす力だよ!!」


 貴光、怪訝そうな顔しける。


「牛車を動かすは牛なり」


「違ぇよ文明だよ!!」


 佐藤、軽トラをばんばん叩きける。


「これ四輪駆動だぞ!? ガソリンで動くんだぞ!? なんで牛に引かせようとしてんだよ!!」


「頑丈なる牛車ゆゑ」


「そういう問題じゃねぇ!!」


 その時なり。


 ぐぅぅぅ、と音響きける。


 佐藤の腹なり。


「…………」


「…………」


 佐藤、気まずげに芋菓子取り出しける。


「食う?」


「芋菓子なりか」


「無限に出せる」


 貴光、目見開きける。


「……陰陽師なり?」

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