黒き神境
佐藤健一といふ男、芋菓子をぼりぼり食ひつつ、鉄の牛車の前に座り込みけり。
「……マジかよ」
疲れ切りし声なり。
「異世界転生して三年、やっとまともな文明来たと思ったら鍵無しとか」
「文明とは何なり?」
「文明は文明だよ!」
佐藤、叫びける。
「風呂! 電気! ネット! コンビニ! そういうやつ!」
されど貴光、いまいち理解できぬ顔しけり。
「よく分からぬが、都の方が上等なり」
「絶対違う!!」
その時なり。
地面へ放り捨てられし黒き神境、ぶぶぶ、と震え始めける。
「ッ!?」
貴光、即座に飛び退きけり。
「また動きたり!!」
「スマホだって」
佐藤、慣れた様子にて拾い上げける。
「うおっ、充電百あるじゃん」
「何語なり」
「電池」
「でんち?」
「動く力」
貴光、少し考え込みける。
「式神の餌なりや?」
「違ぇよ」
佐藤、慣れた手つきにて黒き神境を操作し始めける。
すると画面、次々と変わりけり。
「うわっ……久々に見た……」
佐藤、少し涙ぐみける。
「ホーム画面だ……」
「ほうむ?」
「……もういい」
されど次の瞬間。
画面上部。
『圏外』
「……………………」
佐藤、固まりける。
「……………………」
ゆっくり空を仰ぎける。
「基地局がねえ!!!!」
その叫び、草原へ響き渡りけり。
貴光、耳塞ぎける。
「急に大声出すでない」
「だってネット使えねぇんだぞ!?」
「ねっと?」
「世界中の知識見れるやつ!!」
貴光、少し驚きける。
「ほう」
「動画も見れる!」
「ほう」
「買い物もできる!」
「ほう」
「ゲームもできる!」
「げえむ?」
「遊び」
「それは不要なり」
「お前マジかよ!!」
佐藤、頭抱えける。
されどその時なり。
貴光、ふと画面見つめける。
「……この閉じ込められし男、先ほどから我の動き真似し続けておる」
「インカメだよ」
「いんかめ?」
「鏡」
貴光、しばし沈黙し。
黒き神境をそっと顔から遠ざけける。
「……随分と鮮明なり」
「最新機種っぽいしな」
「さいしん?」
「いいやつ」
貴光、頷きける。
「なるほど」
そして次の瞬間。
黒き神境、ぽいと佐藤へ渡しける。
「ではそなたに任せる」
「は?」
「妖具の管理は陰陽師の役目なり」
「だから違ぇって!!」




