宿屋、狭きこと
測定水晶爆散事件より一夜明け。
御池貴光一行、宿屋前に立ち尽くしけり。
理由。
「……満室?」
佐藤健一、呆然と呟きける。
宿屋主人、申し訳なさげに頷きける。
「最近冒険者増えててなぁ」
「マジかよ……」
一方。
エレノア・シルヴァリア、慣れた様子にて肩竦めける。
「まぁ、安宿なんてそんなもんよ」
「お前どこ泊まってんの?」
「普通の宿」
「金持ち!!」
「アンタ達が貧乏すぎるのよ」
その時なり。
宿屋主人、ふと外見やりける。
「……というかよ」
「む?」
「お前ら、あの鉄の箱あるじゃねぇか」
全員、軽トラ見やりける。
黒牛。
もぉー。
「……中広いのか?」
「荷台あるなり」
「じゃあ寝れるだろ」
しばし沈黙。
佐藤。
エレノア。
軽トラ見やりける。
「……まぁ」
「……ギリ?」
一方。
貴光、妙に誇らしげに頷きける。
「やはり牛車なり」
「結果的に用途合ってんの腹立つな……」
かくして。
その夜。
三人、軽トラ周辺にて野営することとなりけり。
佐藤、運転席座り込み。
「うわっ……」
「何なり」
「座席ふかふか……」
「ほう」
「文明感じる……」
「よく分からぬなり」
一方。
エレノア、荷台見て顔引き攣らせける。
「……私ここ?」
「広きなり」
「板じゃない!!」
貴光、筵敷き始めける。
「風情あるなり」
「誤魔化されないわよ!?」
その時なり。
貴光、ふと窓見上げける。
「……やはり風通し悪きなり」
「まだ言ってんのか」
貴光、再び窓こんこん叩きける。
「割れぬなり」
「だから壊れないんだって」
「不便なり」
その時。
エレノア、ふと運転席覗き込みける。
「……ねぇ」
「何?」
「この丸いの何?」
ハンドルなり。
佐藤、少し笑み浮かべける。
「それで曲がるんだよ」
「え?」
「軽トラ動かす時使うやつ」
「ほう」
エレノア、興味深げに触れける。
くるっ。
「……楽しいわねこれ」
「だろ?」
「何の儀式なり」
「だから運転だって」
一方。
貴光、座席へ腰掛けし後。
妙に静まり返りける。
「……?」
「どうした?」
「柔らかきなり」
「シートだからな」
貴光、しばし沈黙し。
ぽすん。
背もたれへ寄りかかりける。
「……………………」
「……………………」
「……悪くなきなり」
佐藤、ゆっくり天仰ぎける。
「落ち始めてる……」
その時なり。
外より。
もぉー。
黒牛の声響きける。
一頭目の黒牛。
二頭目の新牛。
両方とも、軽トラ見つめつつ座り込みたり。
その目。
どこか。
「お前ら本当にこれでいいのか」
とでも言いたげなりけり。




