幼馴染2
「ごきげんよう。」
そう言って予約なしにカウンセリングルームを訪れたのは司樹の幼馴染だという花山院 真綿だった。
「・・・えっと、ごきげんよう。花山院さん、でしたよね。」
今日も執事を伴って現れた真綿に驚きつつも挨拶をすると後ろの執事が申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「嫌だわ。真綿、と呼んでくださいな。
私も朝陽さんとお呼びしてもよろしいかしら。」
「あ、はい。もちろんです。
・・・あの、ところで今日はどういったご用で?」
「そうですわね。こうしてる場合ではありませんね。」
前回と同様に司樹に用事があるのかと問いかけると
笑顔で手を取られた。
「さぁ、参りましょう。」
「はい?・・・え?」
唖然としていると真綿に手を取られたままカウンセリングルームから連れ出される。
「いや、あの仕事中なのですが!!」
「構いません。さぁ、行きましょう。」
「私が構うんです!!」
傍に控えていた執事に目線で助けを求めるが
気まずそうな申し訳なさそうな顔で目を逸らされてしまった。
振りほどこうにも力が強く
引きずられるままに私は彼女に連れられて学院を後にした。
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「さぁ、お好きなものを召しあがってくださいね。」
連れて来られたのは市街でも有名な高級ホテルのラウンジだ。
どういうわけか私たち以外に利用している客の姿が見えず、目の前のテーブルにはところ狭しとおいしそうなスイーツが用意されている。
機嫌が良さそうに微笑んでいる真綿とは対照的に私の気分は
幸いにも今日は面談予定が入っていなかったため雑務をするのみであったが無断退勤だ。
この後どうなってしまうのかが恐ろしい。
とてもスイーツを食べるような気分にはなれない。
「あら、好みのものがなかったかしら。
言ってくだされば、使用人に作らせますけれど何がよろしいかしら。」
「真綿様。」
一向に手を付ける様子のない私の様子に真綿は勘違いをしたらしい。
半泣きの私に代わって後ろの執事が真綿にこそっと耳打ちをする。扇を広げて頷いていた彼女は執事の話を聞き終わるとパシンと勢いよく扇を閉じた。
「ご安心くださいな。
無断退勤だからと言って今回のことが問題になることもあなたが不利益を被ることはありません。」
「え?」
「私からよく言っておきますから。
それに、私が言わなくても問題になることなどないと思いますけれど・・・。」
「?どういうことですか?」
彼女の言っている意味が分からず首を傾げると
真綿はふふっと優雅に微笑む。
「そんなことよりも、私はまたあなたにお会いしたかったのです。前回はあまり話せませんでしたけど、今日はゆっくりお話しができますね。」
何を話すべきなのか悩んだ私は共通の話題を振る。
「真綿さんは一条くんの婚約者なんですよね?」
「え?」
前回聞いたことを尋ねたのだが
どういうわけか真綿は少し驚いた顔をした。
「え、えぇそうですの。
といっても幼いころに決められたものなのですけれど。」
ほほほと真綿は扇を広げて口元を隠す。
「司樹は昔から色々なことに無関心で何かに執着することなどありませんでした。けれど学院に通い始めて彼はとても楽しそうです。きっと先生のおかげですわね。」
(無関心だった?一条君が?)
今の彼の姿からはとても想像ができない。
「朝陽さんは司樹をどう思っていらっしゃいますか?」
「どう、とは?」
「そのままの意味です。生徒としてではなく、1人の鬼としてどう思われますか?」
言っている意味がわからない。
この質問に彼女がどんな答えを待っているのかも。
生徒としてではなく、1人の鬼としてだなんて考えたこともない。私にとって彼はカウンセリングルームの常連の生徒なのだから。
「・・・私、は・・」
表面的な言葉ではいくらでも言葉にできる。
けれど彼女が求めているのはそんな言葉じゃないような気がした。
「難しく考えなくて大丈夫です。
司樹と過ごした時間であなたは何を思いましたか?
あなたにとっては彼と過ごした時間はただ仕事のためでしたか?」
「・・・わかりません。」
煮え切らない返事をしてしまう。
けれど予想に反して真綿はクスリと笑った。
「私がこんなことを言ったら怒られるのでしょうけれど、司樹はあなたのような方と出会えてとても幸せ
だと思います。私も同じ気持ちですから。
・・・ですから私の言葉、考えてみてくださいな。あなたにとって司樹がどのような存在なのか。」
「それは、どういう意味」
「はぁ・・やっと見つけた。探したよ。」
突然肩に置かれた手に驚いて見上げると
走ってきたのだろうか、少し息が切れている。
「まぁ、予想よりも早かったのね。
撒いたと思ったのですけれど。」
「お前ね、遊びもたいがいにしろ。
こっちがどんな気持ちで探したと思ってるんだ。」
「ふふふっ。あなたからその言葉が出てくるなら
それだけで今日の収穫になりますわね。」
司樹の登場に驚きながらも真綿はどこかご機嫌だった。それに、まるで彼がこの場に来ることを予想していたかのようだ。
「司樹も来てしまったことですし。
今日のお茶会はお開きにいたしましょう。
朝陽さん。今日はありがとう。
とても楽しい時間でした。
朝陽さん。今日の答えは次回お会いするときに伺いますね。」
「・・・。はい。
私も今日お会いできて良かったです。」
彼女の言葉に何と答えるべきかわからなかった私は
けれど真綿は気にする様子もない。
「・・・あ、そうそう。司樹。」
「なんだ。これ以上やっかいなことは」
「目標が動きました。
あなたが動かなくても向こうから接触してくるでしょう。」
「・・・・。」
「では、今度こそ失礼いたします。」
真綿は優雅に一礼すると執事を伴ってラウンジを後にした。
残された司樹は黙り込んだまま何かを考えているようだ。
「あの・・・大丈夫?」
少し怖いと感じるような表情に
ハッとして私をみた。
その表情には先ほどまでの鋭さはない。
「先生は大丈夫?真綿に何か変なことは言われなかった?」
「えぇ。大丈夫よ。少しお茶を飲んでいただけだもの。」
「真綿が巻き込んでしまってすまない。
あいつはどうも生まれのせいか浮世離れしているっていうか
あまり
さぁ、学院に帰ろう。
家の車を待たせているから送っていくよ。」
司樹は自然な仕草で私の手を取った。
『司樹をどう思いますか?』
(どうも何もない。私にとってはカウンセリングルームに遊びにくる生徒の1人だ。)
『司樹と過ごした時間であなたは何を思いましたか?
あなたにとってはただの仕事でしたか?』
(・・・真綿さんは、私に何を伝えたかったんだろう・)
司樹に手を引かれながら先ほどの真綿の言葉が
やけに耳に残っていた。
読んでいただきありがとうございます。




