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鬼の番  作者: はなび
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一条 司樹という鬼

「俺は紅茶にしようかな。先生も同じでいい?」


「あのね、ここはあなたの家じゃないのよ。」


勝手知ったる我が家のように自分で飲み物を用意する彼の名前は一条司樹(いちじょう しき)

私がこの学院のカウンセラーとして就任してから

初めてカウンセリングを担当した生徒だった。

鬼は人間よりも長命であるため、その区別は人間よりもはるかに曖昧だ。

この学園は高等学校ではあるが、鬼に対しての年齢区分は緩く

大まかな年齢で入学する。

彼の年齢は人間でいうところの20前後。


「冷たいな。ここに来れるのもあとひと月しかないっていうのに。」


肩越しにこちらを振り返って不満そうにする彼の仕草は少し子供らしく見える。

けれどその見た目に反して、私よりも遥かに長く生きている。


「この3年間で飽きるほど通ったでしょう。」


彼は入学してから少なくとも週に1度は私のカウンセリングを受けに来ている。

しかも決まって1日の最後の枠を予約していた。

初めは言葉にできない悩みを抱えているのかと思い

信頼されるような関係づくりに勤めたり

彼の生活態度を観察したりしていた。

休みの頻度こそ多いものの広い交友関係を持っているように見える。

悩みの片鱗すら見つからず彼が何かを語るわけでもなく

気づけばもうすぐ3年という月日が流れようとしていた。


「あなたはここで油を売っていていいの?

せっかく卒業までの貴重な学校生活だっていうのに。」


「いいんだよ。俺はここにいるのが楽しいんだから。

はい。熱いから気を付けて。」


淹れたばかりの紅茶を私に渡す。


「ありがとう。」


手渡された紅茶は飲むのにちょうどいい温度に調整されていた。

私のお礼の言葉にはにかむ彼もまた、鬼の例にもれず綺麗な顔をしている。

さらさらとした青みがかった黒髪に紺の瞳、すらりとした長身。

成績は中の中であるがその身体能力は学園の中でも1、2を争うほどだ。

番を持たない彼は学園の中でもかなり女子生徒の人気が高い。

番でなくても一時の関係でもいいからと言う生徒も後をたたない。

けれど、どれだけ言い寄られようとも決して振り向くことはしない。

番とはそれほどに大きな存在なのだろうか。

ただの人間の私にはよくわからない感覚だ。


「何難しい顔してるの?何か考えごと?」


考えこんでいると心配そうに顔をのぞき込まれる。

彼のこの距離感が余計なファンを増やしてしまうのだろうと内心苦笑いする。


「いいえ。番について考えていたの。

鬼は本能で番を見つけるものでしょう?

人間にはないものだから、どんな感覚なのかなって。」


「・・・・番、か。

鬼にとって番は、たとえ大勢に紛れていたとしても一目見ただけでわかるんだ。

まるでモノクロの世界にその人だけ色づいて見えるみたいに・・・って言われてる。

それほど鬼にとっては他と違って見えるんだ。

人間で言うところの一目惚れに近いんだって。」


(彼らにとって番とそれ以外の人間はそれほどまで違うものなのね・・)


驚きつつも同時に納得もした。

鬼はとても一途な生き物だと言われているからだ。

番以外と子を成すことがあったとしても

彼らが半身のように心をさくのは番だけだと言われている。


「そういえば、俺が卒業したあと先生はどうするの?」


あまり触れられたくない話題だったのだろうか。

司樹は少し無理やりに話題を変えた。


「私?・・・今まで通りここで皆の話を聞いているわ。」


「先生はカウンセラーになるのが夢だったんだよね。

今は夢が叶って幸せ?」


「えぇ。とても幸せよ。

けれど、私の夢はカウンセラーになることだけじゃないから。

まだまだ頑張らないと。」


「・・・・そうだね。

俺も、先生に追いつけるくらい頑張らないと。」


「あなたは卒業後の予定は?」


「俺は家業があるからね。」


この学園に集まるのは皆良家の子息令嬢だ。

彼も例にもれず、実家の事情があるのだろう。


「あなたなら大丈夫よ。」


他人事だと思われてしまうだろうかと思ったが

彼の顔を見てそれが杞憂だったと気づく。


「ありがとう。朝陽先生がそう言ってくれるなら俺はどんなことも頑張れるよ。」


彼は言葉を噛みしめるようにして笑っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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