はじまり
「先生。ありがとうございました。また明日。」
「はい。気を付けて帰ってね。また明日。」
そう言ってカウンセリングルームを後にする生徒を見送る
ここは明星学院。
三年制の高等学校であり
国内で唯一の鬼と人間が共学する学院だ。
鬼とは昔から私たち人間と共に生きてきた存在だ。
彼らは人間より遥かに身体能力が高く、寿命も長い。
そしてとりわけ容姿に優れていることも特徴だ。
その数は人間よりも遥かに少ないがその多くは社会的な地位が高い。
人間の多くは鬼という存在に恐れを抱いている。
その理由には番の存在がある。
鬼は人生の伴侶としてまるで一目惚れのように本能的に番を選ぶ。
どういうわけか鬼の番は人間の中から選ばれるのだ。
鬼と関わる機会の少ないなかで人間の中から番が選ばれることは
人間たちにとってそれはそれは恐ろしいものだった。
番に拒まれることを恐れた鬼が本人の意思とは関係なく連れ去ってしまうからだ。
ある日忽然と人が姿を消すことから人々はそれを神隠しと呼んだ。
そしてそれが皮肉にも鬼への畏怖の一助になってしまった。
鬼と人間の間の種族間の溝は深く、今現在も続いている。
下位の鬼ともなると人間から差別を受けることもある。
その状況を打破することを目的の1つとして建設されたのがこの学園だ。
「さて、次で今日は最後ね。」
相談者の予約名簿に目を通すとコンコンとドアをノックする音が響いた。
「はい。どうぞ入って。」
「あれ、先生。今日は機嫌がよさそうだね。」
ドアを開けて入って来たのはこのカウンセリングルームの常連だ。
「そうね。今日はいい天気だからかしら。」
「そこは俺に会えたからじゃないんだ。」
冗談めかして笑う鬼の青年を見る。
傍から見れば私たち人間と何も変わらない。
けれど、どこか人間とは違う美しさを持つ彼ら鬼は
私たち人間の隣人として共に生きている。
季節は2月。
冬の寒さと春の気配が入り混じる少しの寂しさを感じる季節。
入学してまもなくこのカウンセリングルームを訪れていた彼ももう3年生だ。
彼が訪れるこの時間も卒業とともに終わりを迎えようとしていた。
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