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鬼の番  作者: はなび
第二章
15/25

四家会議

鬼神が部屋の奥へと下がると、残された当主たちは座ったまま話し合いを始めた。

鬼神の言っていた番誘拐事件、について。


「番の誘拐事件ってあれだろ、半年くらい前から起きてるやつ。」


初めに口を開いたのは涙だった。

鬼神の退室した室内は少し砕けた雰囲気に戻っている。


「えぇ。改めて情報共有をいたしましょう。

最初の事件が起きたのは涙も言ったように半年前の西部にて。

誘拐された番は若い女性。初めはただの誘拐として捜索していたけれど今だなんの手がかりもないわ。」


「おい、なんでお前が進行するんだ。」


「あら、何か変だったかしら。」


「おかしいだろ!こういうのは力の強いものが場を仕切るもんだ!

そうだろ、司樹。」


「・・・俺か?」


突然話を振られた司樹はあまり興味がなさそうだ。


「当たり前だろ!あんた以上に強い鬼はこの場にいない。」


「なら俺の権限で真綿に一任する。」


「それはどうも。話を戻しても良いかしら。負け犬さん。」


「ぐぬぬぬぬぬ。」


笑顔の真綿に涙は悔しそうに歯噛みをしている。

唯一黙ったままの琥珀は腕を組み何を考えているのかわからない表情でやり取りを見守っている。


(けれどこんな話、私が聞いてもいいのかな・・)


番の誘拐事件。鬼神から四家の当主へ依頼されるほどの重要な案件。

場違いのような気がして気持ちが尻込みしてしまう。

私の様子を見てか、涙はわざとらしくテーブルに肘をのせる。


「第一、わざわざわからない奴に説明する義理なんかないだろ?

知らない奴は放っておけばいい。」


「涙、あなたは何度も言われないとわからないようね。」


涙の言葉が誰に向けられているのか、真綿はすぐに理解したようだ。

それまでの気安い雰囲気から一転、ピリッと空気が張りつめた。


「ここにいる者は番も含めて我らが一族。

それを理解できないあなたこそ当主としてこの場に参加する資格があるのかしら。」


これまで何度か穏やかな口調で諫めることはあった。

けれどここまで怒りをあらわにしている真綿は初めて見る。

当主、という立場にふさわしい威厳を感じる。


「ちっ。わかったよ。」


真綿の雰囲気に押されたのか、涙は舌打ちをしながらも素直に従った。


「では話を戻します。番の誘拐自体は珍しいことでもありませんけれど今回の事件は違います。

攫われた番の鬼は比較的高い位の鬼でしたが身代金の要求もありませんでした。」


(・・・番の誘拐が、よくあること?)


「鬼にとって番は唯一無二だから、たまに身代金目的で番を誘拐されることもあるんだ。」


疑問に思っているとそれを感じ取ったのか司樹は小声で教えてくれる。

なるほど、と頷くと司樹は小さく笑った。


「そしてその事件が解決しないまま次の誘拐事件が起きました。

2件目と3件目の事件は北部で起きていましたね。」


「あぁ。」


真綿の問いかけにそれまで口を閉じていた琥珀が頷く。


「1件目の西部と同様。状況も酷似している。

目撃者もおらず捜索は進んでいない。」


「そして4件目は私の領地、南部で起きました。

こちらも状況は同じ。事件が起きたのは1週間前のことです。」


思っていたよりも広い範囲で起きている事件らしい。

事件が起きていないのは東部だけだ。


(だから何も知らなかったのかな・・)


自分だけが知らなかった事実に

けれど司樹の性格を考えるとむやみに不安にさせるようなことをわざわざ言わない気がした。

司樹は番として私を大切にしているためか危険や不確定要素からは可能な限り遠ざけている。


「このまま手をこまねいているわけにはまいりません。

つきましては司樹、南部の当主として正式にあなたに協力を要請します。」


「・・・。」


「西部の当主からもだ。」


「北部の当主からも異論ない。」


真綿の提案に涙、琥珀も続けて賛同する。

司樹は少し考える素振りを見せた後に頷いた。


「・・・わかった。番とともに向かう。」


(どうして司樹にだけ協力を依頼するの・・?)



「構いません。会議は以上でよろしいかしら。」


真綿の声掛けに当主全員が黙って頷く。


「では、散会。」


**********


「疲れただろう。帰りに甘いものでも食べて帰ろうか。」


私を気遣って声をかけてくれる。


「司樹、あの・・」


なぜ司樹だけに依頼が来たのか、疑問に思ったことを聞こうとしたとき背後から静かに声がかかった。


「司樹。」


少し驚いて振り返るとそこにいたのは琥珀だ。


「どうかしたのか?」


「玻璃様からの呼び出しだ。」


玻璃、先ほどの

鬼の頂点である鬼神からの呼び出しだ。

その名前が出るだけで思わず背筋が伸びる。


「・・・わかった。だが番も共に行く。」


司樹は驚いた様子はなく淡々と答えたが琥珀は首を横に振った。


「違う。今回の招待はお前じゃない。彼女だけだ。」


「え?私、ですか?」


琥珀が視線を向けたのは思いもよらないことに私だった。

とたんに司樹が険しい表情をする。


「それを俺が許可すると思っているのか。」


「あの方のご命令だ。番のみお連れすること。」


「ふざけるな。いくら屋敷の中とは言えただでさえ誘拐事件が起きているなかで彼女を1人で行かせられるか。」


「あの方のもとへは俺がお連れする。

絶対に彼女をお前のもとまで送り届けよう。

北家当主の名に懸けて。」


「ならば、俺が送り届ける。」


「司樹。お前はあの方の居住地へ足を踏み入れることを許可されていない。

無理を言っているのはわかっているだろう。」


「無理を言っているのはあんたの方だ。」


頭上で言い争いが始まってしまう。

恐らく断るという選択肢はないのだろう。

このまま拒否してしまえば、恐らく司樹の立場としても良くない。


「司樹。」


私は尚も言いつのろうとしている司樹の手を取った。


「朝陽?」


険しい顔から一転して戸惑ったような表情をする彼を安心させるように微笑んだ。


「私行ってくる。話をするだけなんですよね?」


琥珀を見ると黙って頷いた。


「だが、もし何かあったら・・。」


「私は大丈夫。」


私がそう言うと司樹は困ったように少し考えたあと渋々頷いた。


「・・・・わかった。だが、居住地の入り口までは一緒に行く。」


「もちろんだ。2人とも、こちらに。」


司樹に言った手前表には出さないが、内心緊張と動揺が渦巻いている。

鬼神との対面に不安を覚えつつも琥珀が先導する背中を追いかけた。

読んでいただきありがとうございます。

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