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鬼の番  作者: はなび
第二章
13/25

西家の当主


窓の外の流れる景色を見る。

車を走らせてから結構時間がたったけれどまだ到着しないらしい。

着慣れない着物を着ていることも相まって居心地が悪い。


「緊張する?」


私の緊張を感じ取ってか、隣に座っている司樹が心配そうに顔を覗き込んだ。

司樹もまた、私と同じく着物に身を包んでいる。

黒と青を基調としたシンプルな布地に羽織には金糸で龍の家紋が描かれている。

サラサラと流れる髪も今はきっちりとまとめられていて普段よりも大人びて見える。


「えぇ。もちろん。だって他家の当主様たちにお会いするんだもの。」


私たちがここまで着飾っているのは理由がある。

東西南北の当主が一同に揃う、四家会議に出席するためだ。

四家の当主たちは定期的に集まって会議を行い、それには当主の番も同伴することが義務らしい。

今回の四家会議は他家の当主への私のお披露目も兼ねていると聞いて昨日は緊張でうまく寝付けなかった。


(会議に出席するだけじゃなくて、お披露目もだなんて・・)


以前の私ならばその姿を一目見ることすら叶わなかった人たちだ。

緊張しないわけがない。

それに自分は司樹の、東家の当主の番として出席するため粗相をしてしまわないかという心配もある。


「あまり緊張しなくて大丈夫だよ。

当主といっても俺や真綿と変わりない普通の鬼だから。」


東家当主 青水稀龍(あおみ きりゅう)

南家当主 雀ヶ野真朱(すずがの まそお)

西家当主 虎頭白夜(ことう びゃくや)

北家当主 朽縄黎亀(くちなわ れいき)


南家の当主は学院の関わりがあったが

西家と北家については当主の名前しか知らない。

それぞれの当主は自らが治める領地から顔を見せることがないからだ。


「実際に会ったときに紹介するよ。

幼い頃から知っているから思っているよりも堅苦しい関係じゃない。」


今だ心配そうに声をかけてくれる司樹を安心させるように頷いた。


**********


長い時間車で山道を走って到着したその場所は別世界だった。

大きい門を抜けた先には一面に綺麗に整えられた庭があり、遠くに会場であろう建物が小さく見えている。


「ここはある方の屋敷なんだ。」


「ある方?」


「あぁ。俺たち鬼の始祖、鬼神と呼ばれている方だよ。」


まるで旅館やホテルのようなエントランスに車が止まり先に降りた司樹が私をエスコートする。

出迎えた使用人に司樹が軽く手を挙げると使用人は黙って頭を下げて控える。

どうやら、付き添いは必要ないということらしい。

エントランスを抜けてロビーへと足を踏み入れたとき、司樹が足を止めた。


「・・・(るい)。」


壁に寄りかかって立つ人を見て呟いた。

その人は待ち構えていたかのように私たちの姿を見ると近づいてきた。


「そいつが番か?

ずいぶん粗末な女じゃないか。

着飾ったところでこれとは・・。

貧乏くじを引いたな、司樹。」


その男性はちらりと私を横目で見ると馬鹿にしたように鼻で笑う。

初対面にしてはあまりに失礼な言葉だが反論する言葉も出なかった。

一房だけ白く染まった黒髪。司樹よりも年上なのだろうか。

見た目は20代後半くらいに見える。

そして何よりも目を引くのは羽織に金糸で描かれた虎。

紹介されなくてもわかる。


(この人はたぶん・・)


(るい)。訂正しろ。

鬼の番を侮辱することがどんな意味を持つか、知らないわけがないはずだ。」


司樹は私の姿を隠すように前に出た。

見知らぬ男性に言われたことよりも司樹の普段よりも低い声にどきりとする。


「・・・司樹。変わってしまったな。

下等な人間の影響を受けるなど高貴な鬼でありながら・・・。嘆かわしいかぎりだ。」


(るい)。俺の番への侮辱は東家への侮辱だ。

西家が東家を敵にまわしたいのなら容赦しない。」


(どこが緊張しなくて大丈夫、なの・・)


突然始まったピリピリとした雰囲気に口をはさめない。

むしろ口を挟めば余計に悪化してしまいそうでおろおろするしかない。


「あらあら、負け犬の声が聞こえますわね。」


険悪な雰囲気を打ち破ったのは聞き覚えのある声だった。


「皆さまご機嫌よう。

ずいぶんと仲がよろしいのね。」


番を伴って現れた真綿は私たちに優雅にお辞儀をした。

普段から着物姿の彼女だけれど、今日は雰囲気が違う。

赤を基調とした着物に鳥の刺繍の入った羽織を身にまとう彼女は威厳に溢れている。

今日は番としての参加だからだろうか、いつもは執事姿の彼も今日は彼女を引き立たせるような品のある着物に身を包んでいる。

真綿の登場に、司樹と向かい合っていた男性がうんざりしたような顔をする。


「どこをどう見たらそうなる。」


「どこから見ても、そうでしょう?

大好きなお兄様が番に取られて寂しくて嫉妬しているようにしか見えません。

かまってもらえなくて、寂しいのでしょう?」


(・・・お兄様?)


「ふざけるなっ!何がお兄様だっ!!」


ちらりと横目で見ると少し顔を赤くしながら怒鳴っているが真綿は気にする様子はなく涼しい顔をしている。


「私のことも昔のように真綿お姉様と呼んでよろしくてよ?」


「ちっ・・もういいっ!!お前たちと話していると俺まで格が下がる。」


男性は怒鳴りながら踵を返して行ってしまった。

男性の後ろ姿を見送ると、真綿がくるりと私に向き直った。


「ごめんなさいね。朝陽さん。

涙の無礼は私が代わりに謝罪いたします。」


「いえ、いいんです。

それよりもあの方は・・」


「彼の名前は比売宮 涙(ひめみや るい)

薄々気づいていらっしゃると思いますがああ見えて西家の当主です。」


「あれでも歴代最年少で当主に就任し、西部にある国内最大の遺伝子研究所の所長を勤めているのですが

ご覧になったとおり、少々生意気な性格をしておりますの。」


「怒らせてしまったけど、大丈夫なんですか?」


「えぇ。あれくらいの癇癪はいつものことですから、放っておいて大丈夫です。

それに涙の態度はあなたが原因でもありますわ。司樹。」


「なぜ俺が?」


涙の言動に気分を害したらしい司樹は普段よりも投げやりに答える。


「なぜって・・・本当にわからないのですか。

あの子は幼いころからあなたを慕ってよくついて回っていたではありませんか。

あの子のあなたへの態度が変わったのは、あなたが番を見つけてからです。

きっと兄を取られたような気分なのでしょう。」


司樹の態度に真綿はやや呆れながらも説明する。

けれど司樹は意に介した様子はない。

それに気づいた真綿が釘をさす。


「まさかあのままにするつもりではありませんわよね。

それでは過去の二の舞です。」


「・・・わかった。こちらで対応する。」


「よろしい。

そうだわ、私たちの立場も明らかになったことですし、ようやく私の番を紹介できるわね。

伊織。」


真綿の声に応えて伊織と呼ばれた男性が一歩前に歩みでる。


「改めてご挨拶させていただきます。

南家当主、花山院真綿様の番 花山院伊織と申します。」


伊織は丁寧に頭を下げて自己紹介をする。

堂々とした姿は当主である真綿の隣に立って遜色がない。


「こちらこそ。久世朝陽です。」


「同じ当主の番という立場として何かありましたらいつでもご相談ください。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


差し出された手を握ろうとして手を伸ばすと横からさらうように司樹に手を取られた。


「・・・司樹?」


思わず司樹の顔を見上げると不機嫌そうな顔で伊織を睨んでいる。

睨まれた伊織は困ったように小さく笑うと手を下ろして真綿の傍に戻った。

その様子を見て真綿は仕方ないというようにため息をついた。


「同じ当主の番という立場なら気苦労も多い。

これくらい許容しなさい、司樹。」


「必要ない。彼女には俺がいる。」


「その独占欲だけは一人前の鬼ね。

まぁ、いいわ。そろそろ時間だもの。行きましょう。」


真綿は懐中時計で時間を確認すると伊織を連れて先に歩いていく。

けれど司樹は私の手を握ったまま動こうとしない。

不思議に思って見上げると寂しそうな顔で私を見ていた。


「・・・・俺では、相談相手にならない?」


真綿の言っているのはそういうことではない。

司樹もそれはわかっているはずだ。

その上でこう言ってくるのだ。

そして私も困ったことに甘えるようなこの顔に弱い。


「そんなことはないわ。あなたのことは1番頼りにしているもの。

私たちも行きましょう。」


手を引いて歩き出そうとするが逆に引き留められる。

どうしたのかと振り返る。


「朝陽。(るい)の戯言は気にしないで。

あなたは美しい。比べるまでもないほどに。」


真剣な表情と言葉に顔が一気に熱くなる。

私の反応に満足したらしい司樹は微笑むと今度こそ私の手を引いて歩き出した。

読んでいただきありがとうございます。

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