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鬼の番  作者: はなび
10/11

入学式

彼が卒業してから1ヶ月がたった。

あっという間に4月を迎え、春の陽気に包まれている。彼からは何も音沙汰はなく、私は新入生を迎える準備に追われていた。

あの日、司樹から伝えられた真実を私はゆっくり咀嚼した。9年前の悲しみと犯人への憎しみ、私が番という事実。時間をかけて向き合って、やっぱり司樹を恨む気持ちにはなれなかった。

番として、どうしたらいいのかはわからない。

それに婚約者という真綿の存在もある。

きっと私が拒否したとしても彼は私の気持ちを尊重してくれるのだろう。


彼がおらず、彼のことばかり考える1ヶ月は心に隙間ができたようだった。


(いやいや。寂しいなんて、そんなこと・・)


内心で否定しているとパチパチと拍手の音でハッと我に返る。

今日は入学式だ。

期待に胸を膨らませている新入生の顔を見ているとこちらも自然と身の締まる思いになる。

これからさらに忙しくなる。入学してからの時期は鬼も人間も心が不安定になることが多い。

私も自分の仕事をしなくては。

少しでも鬼と人間の壁をなくしていけるように。

私が誰の番であったとしても自分の夢に変わりはない。


「最後に本学園の理事長からご挨拶です。」


残るは閉会するのみとなったとき、司会の声が響いた。


(理事長からの挨拶・・・?)


予定にないアナウンスだ。

それに今まで理事長が学園の挨拶に来たことなど

私がこの学園に赴任してから1度たりともない。


「新入生の皆さん。入学おめでとう。」


壇上に上がったスーツ姿の男性。

細身の長身に紺色の瞳。

美しい容姿。


「改めて、本校理事長を務める東家当主、青水稀龍だ。よろしく。」


見間違えるはずもない、一条司樹その人だった。

茫然としているのは私1人、入学生からは黄色い歓声が上がっている。


(どういうこと?理事長?東家の当主?)


驚きのあまり口が開いたままになってしまう。

彼が話している挨拶も頭に入ってこない。


「では最後にカウンセラーの久世先生。

このあと理事長室までお願いします。」


サプライズに成功した子供のように司樹はニヤリと笑ってそう言った。


***********



「どういうことですか!」


理事長室に入って早々疑問をぶつける私に彼はにこにことしている。


「驚いた?」


「当たり前です!というか東家当主って・・・本当なんですか?」


「もちろん。」


「でも、名前が・・・。」


「あぁ。正確に言うと青水 稀龍という名前は俺の名前じゃない。東家当主が引き継ぐ名前だ。当主は公の場では当主の名を名乗る。

役職名みたいなものだ。

・・・敬語はなしにしないか?

できれば今まで通りに話したい。」


「けど・・。・・・・わかった。」


渋々頷くと司樹は満足そうに頷いた。


「先生。俺があなたに言ったこと、覚えてる?

あなたの答えを聞きたいんだ。」


わかってる。

覚悟はしていた。

けど、突然の再会と衝撃の事実に私のちっぽけな覚悟なんてどこかに行ってしまったみたいだ。

司樹は答えを乞うように跪いて私を見上げた。


「久世朝陽さん。俺はあなたに大切な友を失わせて

あなたを危険にさらした俺にこんなことを言う資格がないのはわかっている。

でも、やっぱり俺はあなたの傍にいたい。

あなたの声を聞いて、笑った顔を見ていたい。

あなたのことを愛することを許してほしい。

どうか俺の番として共に生きてくれませんか?」


司樹はまるで逃がしたくないとでも言うように私の手を取った。


「本当に、私があなたの番なんですか。」


「あぁ。そうだ。一目見てわかった。

何にも心を動かされなかった俺が唯一見つけた光。

9年前のあの日、あなたを見つけた瞬間からあなたが俺のすべてだ。」


「・・・・でも、真綿さんは?彼女は婚約者なんでしょう。」


「真綿?」


ここで彼女の名前が出ると思わなかったのだろう。

司樹は一瞬ぽかんとした顔をした。


「あいつは鬼だよ。南家の当主だ。」


「えっ?」


南家の当主。この学園では知らぬ者はいない、番からプロポーズされた鬼。

可愛らしい彼女が南家の一族の当主であることも驚いたがそれよりも婚約者という話が嘘であることにほっとした自分にも驚いた。


「でも、それなら彼女の番は・・?」


「会ったときにもいただろう?あいつの後ろに控えてた執事みたいなやつ。

あいつが真綿の番だよ。婚約者っていうのはあいつの冗談だよ。」


想い返してみると確かに彼女の後ろには執事らしき青年が控えていた。

彼はどんな気持ちで見守っていたんだろうか。


「それよりも、その・・返事を聞かせてくれないか?」


自分が彼の番である。

そう言われてもあまりしっくりこない部分も多い。

けれど跪いて返事を乞う彼の姿が事実であることを証明してくれる。

それも東家の当主の番。

自分が想像しているよりも遥かに険しい道のりになるだろう。いろんなことを考えてしまうけれど、答えは思っていたよりも簡単だった。


(私はあなたに会いたかったんだ。)


顔を見て、話しをすることができて嬉しかった。

きっとこれが私の答えなのだろう。

このまま彼と2度と会えないことは嫌なんだ。


「この1ヶ月、ずっと考えてた。

事件のことも、犯人のことも、あなたのことも。

・・・けれど、振り返って思うのは私はあなたと話しをしている時間が心地よかった。

あなたと離れている間は寂しかった。

これが好き、という気持なのかはわからない。

全然あなたの気持ちには追い付いてないけど

だからこそあなたのことをもっと知りたい。

番として、あなたの隣にいてもいいですか?」


目を見開いた司樹の瞳がじわりと涙で滲んだ。


「あぁ。もちろんだ。

愛している。俺の番。」


まるで雲間から差し込んだ光のように、泣きそうな嬉しそうな顔で微笑む彼を抱きしめた。

読んでいただきありがとうございます。

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