後日談
「真綿様。東家の当主様からお手紙が届いております。」
「ありがとう。」
番から手紙を受け取り封を開ける。
彼女との結婚式の招待状だろうかと喜々として読み進めるがそこに書いてあるのは期待外れなことばかり。
「はぁ、本当にあの男は意気地なしね。
これだけ時間をかけておいてお付き合いから始めたなんて、一体何年生きているのよ。」
「一条様は慎重でいらっしゃいますからね。」
手紙を机に置いて小さくため息をつくと番はくすりと小さく笑った。
「こんなにのんびりしていたら番にだって逃げられてしまうわ。」
「そうでしょうか。あの方の執着心は他の方に劣るとは思えません。」
「・・・それもそうね。」
司樹が番を見つけて9年という時間が過ぎた。
我々鬼が番を常に傍に置きたがるのは執着だけが理由だけではない。
鬼と人間の寿命の差だ。
鬼にとっての9年はさほど長い時間ではない。
けれど人間は違う。
私たち鬼とは違いあっという間に年を取り、老いていく。
共に在れる時間が短いからこそ限りある時間傍に置いておきたいのだ。
たとえ、番の気持ちを無視したとしても。
(少なくとも私ならそうする。心など、後から如何様にもできるのだもの。)
けれど司樹は違った。
番の貴重な9年という時間をかけて、彼女の心を尊重した。
はっきり言って異常だ。
だからこそ興味を持ち、会いに行くことにした。
だが実際に会いに行ってみるとどうだ。
2人の様子をみてすぐにわかった。
関係性などまるで進んでいないことに。
呆れを通り越してつい余計な世話を焼いてしまった。
「真綿様が一条様の婚約者を名乗ったときは驚きました。」
「ふふふ。嫉妬した?」
「まさか。私は真綿様のもの。あなたの行動に口を出す権利などございません。
それに、私があなたの番であることは誰にも否定できない事実ですから。」
(・・・さすが私の番ね。)
番の答えに心が満たされていく。
番から与えられる感情に勝るものなど存在しない。
鬼と人間の種族間の溝を無くすことは夢物語のようだ。
いつか叶えることができるだろうけれど、それをすぐに実行することはできない。
人々の心に染みついた恐れという感情はそう易々と拭えるものではない。だからこそ、鬼と人間が共学する学園が今まで存在しなかったのだ。
それをあの男はたった3年という月日でやってのけた。
恐ろしいほどの執着心、そして実行力だ。
番の夢のための学び舎。
一見すると鬼から番への思いの証のように見えるだろう。
だが私には違うものに見える。
あれは番のための檻だ。
番の夢を実現させるための、番の安全を守るための
番を自分の傍から離さないための檻に見えてならない。彼女は知らず知らずのうちに誘い込まれ
本人も気づかないうちに囲われていたのだ。
そして時間をかけてゆっくりと彼女と交流を図っていた。
司樹はとても臆病だ。それゆえにとても慎重。
彼は番から離れる気などさらさらない。
だからこそ番が離れるわずかな可能性を潰した。
彼が離れる可能性を示しているとしたらそれは見せかけだ。
番が離れる道を選んだとしてもその先はすでに彼によって塞がれている。
選択肢があるように見せていても辿り着ける先は1つしかない。
鬼は総じて臆病な生き物だが、司樹のそれは同族の比ではない。
「今度、朝陽さんを家にお招きしましょう。
また彼女の話が聞きたいわ。」
自分の鬼からの執着の全貌に気づいたとき、彼女はどんな反応をするのだろうか。
どちらにせよ、番の反応に狼狽する司樹の様子が今から楽しみだ。
「かしこまりました。」
「ねぇ、伊織。今日はあなたとお茶が飲みたいわ。付き合ってくれる?」
「えぇ。もちろんです。」
愛しき番が差し出した手をとる。
この胸を満たす幸せはきっと伊織にはわからないだろう。
私たち鬼はあなたたち番を離さない。
たとえあなたたち番から拒否されたとしても、絶対に。
私もまた内心の醜さを漏らさないようにと優雅に微笑んだ。
読んでいただきありがとうございました。




