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MITSURUGI  作者: 島田祥介
最終幕【着】
56/57

伍ノ其

「…何が起きた⁉」

 アマテラスの外装が加賀から剥がれた事で、彼は生身の状態になってしまった。だが、何よりも驚愕せずにいられなかったのは、剥がれた外装がアマテラスの姿へと戻った事だった。

「アマテラス! これは一体どういう事だ⁉」

 加賀がアマテラスに怒鳴り散らす。そんなおかしな光景を見て、正義は何が起こっているのか加賀以上に理解出来ずにいた。

(チカラ)求ム者ヨ、汝ハスデニ人ノ民ニアラズ》

「ああ、俺は神になる男だからな」

 今更何を言っているんだとばかりにふんと鼻を鳴らす加賀に、アマテラスは、

《ソウデハナイ。汝、タマハガネヲ取リ込ミスギタ。最早人ノ民トハ呼ベズ》

そう言われて加賀は耳を疑った。確かにいくつものタマハガネを体に取り込んだのは事実だ。それだから人間ではないだと?

「それがどうしたってんだよ?」

《我ガ体ニ人ノ民ナラザル()()ヲ入レルハ不毛。理想ハ汝ヲタマハガネニスル事》

 そう言うと、アマテラスは──容赦なく右手手刀で加賀の胸を刺し貫いた。

「がはっ」

「加賀さん!」

 慌てて加賀の元に駆け寄ろうとしたが、左手のE‐ガンの高速連射によって阻止されてしまう。しかも、その速度は加賀がアマテラスを纏っていた時よりも早く、本当にアマテラスにとって加賀は不必要な存在と言っても過言ではない状態だった。

 アマテラスは加賀から右手を引き抜くと、崩れ落ちる彼を蹴倒した。その勢いで、加賀は数メートル先に吹き飛ばされてしまう。

《スサノオヨ、邪魔ヲスルデナイゾ》

 E‐ガンをまるで針の様にして、何本もの光をスサノオの足元に突き刺した。それはまるで「それ以上踏み込んでくるな」と警告している様にも見えた。

 そのまま黙って様子を伺っていると、アマテラスは瀕死の加賀に威力の増したイレディミラーを撃ち込んだ。最早声すら出せない加賀はもろにそれを浴び、徐々に炎に包まれていった。

「加賀さんっ!」

 正義の叫び空しく、加賀は炎の中で燃え尽きていく。やがて、炎が鎮火すると焼け焦げた匂いが辺りに広がっていく。

「アマテラス! 何もそこ迄する必要なかっただろっ!!」

 正義がアマテラスに向かって吠えると、アマテラスはつかつかと加賀がいたであろう場所に向かって進み《コレガ我ニ必要ダッタノダ》とひとつのタマハガネを掴んでみせた。

「それって…」

 恐らく加賀であっただろうタマハガネは、アマテラスが回収すると左胸の外装を開き、空洞であった体内に取り込まれた。

「ア、アー…あーあー…いかんな、取り込んだタマハガネのせいで、器だった者の声も混じってしまう」

 くぐもってはいるものの、アマテラスは声を出して喋られる様になった。しかも、アマテラスが言う様にその声は加賀のそれに近しかった。

「まぁ、よいわ。これで我は真の姿になったも同然なりや」

 その言葉に、怒りに身を任せた正義は有無を言わさず無言のままアマテラスへ突撃をかました。

 アマテラスの光弾高速連射をギリギリの所でかわし、右手のブレードを振り上げて斬り込もうとするが、それも寸での所でアマテラスにかわされてしまう。それが判ると一旦距離を取り、今度はブレードを伸ばして突き刺そうとしてみた。しかし、それも又もう少しの所でアマテラスの手刀に反されてしまい、逆に光弾の連射をもろに浴びてしまう。

「スサノオの器なりし者や、貴様はその程度か?」

「ア、アマテラスぅぅぅぅぅっ!!」

 突如、正義の怒りとは無関係にスサノオが距離を取った。

《マサヨシ、怒リデ勝テル相手デハナイゾ》

「スサノオは黙ってろ! 加賀さんをああもされて黙ってられるかよ!」

《イイカラ落チ着カンカ馬鹿者ガ!》

 初めて聞くスサノオの怒鳴り声に、正義はたじろいでしまう。だが、スサノオは続けて正義に告げる。

《アマテラスニ怒リヲ抱イテイルノハ我モ同ジ。サレド怒リダケデ勝テル相手デハナイ》

 そう言われてしまっては何も言い返せない。一旦深呼吸すると、スサノオに向かって「じゃぁ、どうすればいい?」と聞き返した。

《我等ニアッテアマテラスニナイ物ガアル。ソレガ何カ判ルカ?》

「…何がある?」

《バディノ存在ゾ》

 その言葉に思わず吹き出しそうになる。しかし、スサノオは真剣な口調で、

《今ハトニカク、アマテラスノ攻撃ヲカワシナガラ一緒ニ策ヲ講ジヨウ》

「一緒に」という言葉が正義に響いた。

 そうだった、俺とスサノオはバディだと言ったのは俺自身じゃないか。なのに、スサノオの事なんて何も考えずに突っ込んでいってどうする。

「…取り合えず俺は突っ込むから、何らかの策を考えて貰ってもいいか?」

《相判ッタ。我ガ一策講ジルトシヨウ》

 正義が勢いよく走りだすと、アマテラスは待っていたとばかりにE-ガンの高速連射を繰り出す。スサノオが光弾を右へ左へと避け、ブレードを伸ばすが今度はブレードを無視してイレディミラーを連射させる。大きな光弾相手ではどうする事も出来ないと悟ったスサノオは、ブレードを仕舞い距離を取る。

《ヨシ、次デ仕掛ケルゾ》

「判った。この命スサノオに預ける!」

 そう言うと、再び地面を蹴ってアマテラスの元へ一気に距離を縮める。アマテラスは全ての光弾をスサノオに向けて放つが、それは再び避けられる。

 やがてアマテラスの元に辿り着くと、正義は大きく振りかぶった右手をアマテラスに向けて振り下ろした。それは、アマテラスの手刀によって遮られてしまったが、アマテラスがそれがフェイクだと判った時には既にスサノオが放った左手のブレードがアマテラスの脇腹を刺し貫いた後だった。

「何だと⁉」

 無理矢理スサノオの左腕を抜き出すと、一旦距離を開けてその場にうずくまった。

「見たか! これが、俺達バディの力だ!」

「…そうきたか。ならば我も本気を出すとしよう」

 アマテラスは立ち上がると、両肩のイレディミラーを最大出力させそれを一つの光の弾に収束させた。それを放つとスサノオは瞬時に避けるが、直撃した際巨大な爆発が起こった。

「やべっ、あれは避けるぞ」

 しかし、アマテラスの何処にそんな力が残っていたのか収束光弾は次々と発射され、正義達は避けるのが精一杯で反撃する暇さえない状況下に陥ってしまった。

「…あ!」

 突如、正義は一つある事を思い出した。

「なぁ、スサノオ。何も闘技場で戦う必要性なんてないよな?」

《ソレハソウダガ、一体何ガアッタ》

「よっしゃ、だったらこっから逃げる」

《何ダト?》と驚くスサノオをよそに、正義は一目散に闘技場を後にしようと走った。

「敵に背中を見せるとは、いい度胸じゃのぉ」

 アマテラスは地面を蹴ると、一気に距離を縮め手刀を繰り出そうとした。

「スサノオ、背中は預けた!」

《何ヲ無茶ナ事ヲ言ウカ》 

 そう言いつつも、スサノオは背中のブレードを展開させアマテラス相手に攻防戦を繰り広げた。その状態のまま正義が辿り着いたのは──モニタールームだった。

「よし、やっと着いた。スサノオ、後は好きにしていいぜ」

《!…ソウイウ事カ。ナラバ容赦ハセンゾ》

 一旦距離を取るのにアマテラスに一太刀浴びせるもかわされてしまうが、それは想定範囲内で無事に距離を取る事が出来た。そして、そのままの勢いで──操作パネルを滅多切りにした。

「な…何をやってる、この()れ者が!」

「何をやってるかって? 高天原を破壊すんだよ」

 モニタールーム内では、流石にアマテラスも光弾を発射させる訳にもいかず手持ちの武器は手刀くらいなものだった。しかし、手刀ではスサノオのブレードに反されてしまう。

 スサノオの容赦ない攻撃に操作パネルは次々と火花を散らしていく。最早、それはガラクタと化した様なものだった。

《キケン! キケン! 十分後ニ高天原落下確実! 各員スミヤカニ退避セヨ!》

 モニタールームからアラートサインが出た。これで操作パネルは完全に使い物にならないと証明されたも同じだ。

「貴様等、よくも我が高天原をぉぉぉぉっ!!」

 もう後がないと判ったアマテラスは、モニタールームの存在を諦めたのか容赦なく光弾を乱射した。

「何っ?」

《任セロ!》

 スサノオの咄嗟の判断で、光弾はいとも簡単に避けられた。

《マサヨシ、後十分デ決メルゾ!》

「了解。サポートは任せたからな」

 正義は一旦ブレードを伸ばしてアマテラスを狙うと、案の定手刀で弾き返された。だが、それを合図に一気に距離を詰めると両手のブレードを展開させアマテラスの手刀との攻防戦を繰り広げた。

 これでは、アマテラスは光弾をスサノオに向けて発射出来ない。それが、正義の狙いだった。アマテラスはイレディミラーを発射させようにも、スサノオの距離が近すぎて照準を合わせる事も出来ないでいる。

 肉弾戦となればスサノオの方が圧倒的有利で、徐々にアマテラスの手刀はブレードに弾き返され形勢が不利だと判ると一旦距離を取った。

《アマテラスヨ、大人シク降伏スルガヨイ》

 しかし、アマテラスはその言葉を無視すると今度は一気に距離を詰めてきた。そして、左手の手刀をスサノオに向かって振り下ろした。

「もう、手刀なんて通用しな──がはっ!」

 受け止めた左手の下にもう一本の左腕が生えていた。それは、見事にスサノオの脇腹を突き刺している。

《隠シ腕ダト⁉》

「先程のお返しじゃ、有難く受け取るがよい」

 スサノオがその左腕を無理矢理引き抜くと、地面を蹴って距離を取った。そう、ついさっきアマテラスが取った行動そのものだった。

《マサヨシ! 無事カ?》

「…ああ、何とか浅く刺さっただけだから問題はなさそうだ。ただ、兎に角滅茶苦茶痛てぇ」

 正義は何とか立ち上がると、目の前に四本腕をこちらに向けているアマテラスの姿を見た。

「やべぇ、お前に任せてもあれは避けられないな」

 刹那、四本の腕から光弾が一気に連続発射された。それは隙間なく避ける事も出来ないスサノオは全弾浴びてしまう。加賀がまだアマテラスだった時は怯む程度だったが、今のアマテラスの威力は遥かに上回り光弾の勢いで数メートル吹き飛ばされてしまう。

《何ノ!》

 スサノオが腰を落とし踏ん張る事で、転がり倒れる事はなかった。しかし、このままではアマテラスに近付く事は容易ではない。

《マサヨシヨ、ココハ我ニ預ケテモラエヌカ?》

 突如、スサノオが正義に要求を出してきた。

「いいけど、どうするつもりだ?」

《我ニチョットシタ策ガアル》

 そう言うと、スサノオは時計回りに走り出した。

 アマテラスがスサノオ目がけて光弾を連射させるが、僅かばかりスサノオの方がスピードが速く光弾はスサノオを捉えられずにいた。そして、その距離は徐々に縮まり気が付けばスサノオはアマテラスの背後を取っていた。そして、アマテラスが慌てて振り向くや否や、

《我ガ太刀ニ断テヌモノナシ!!》

 そう言うと、アマテラスの左肩にブレードを斬り込み、そのまま一気に二本の左腕を斬り落とした。

「何じゃと⁉」

 自分は無敵だと思っていたであろうアマテラスは、こうも簡単に自分を斬り落とされた事に動揺を隠せずにいた。

《警告! 警告! 後二分デ高天原落下、爆発シマス!》

「アマテラス! お前の負けだ!」

「何を抜かすか! 我はアマテラスなるぞ! 神が貴様等如きに屈する訳なかろうが!!」

「それだよ。俺達バディに貴様が勝てる訳ねーんだよっ!!」

 正義が吼えると、今度は彼が拳撃でアマテラスを何度も殴りつけた。

 彼の激しい拳撃はアマテラスの外装に徐々に(ひび)を入れ、それが亀裂となって次々と外装が剥がれ落ちていく。

「何故じゃ、何故神たる我が貴様等如きにこうもしてやられておる」

「貴様が加賀さんをバディとして認めてたなら、俺達に勝ち目はなかったかもしれない! それ処か、貴様は加賀さんを駒にして自分を神だと勘違いしている! そこが俺達バディに勝てない理由なんだよっ!!」

 正義の力一杯の拳撃がアマテラスの背中ごと貫いた。そこからは、煌々と輝くタマハガネが見えた。

「加賀さん…ごめん!」

 正義はそのままタマハガネを握り締めるとアマテラスから引き抜き、悲しみに震えた手でそれを握り砕いた。

「き…貴様等…我を舐めるでないぞぉぉぉぉぉっ!!」

 最早ボロボロの状態でありながらも、アマテラスはイレディミラーと右手のE-ガンを撃った。それも当たる事はなく、もうアマテラスに残されたのは”敗北”の二文字だった。

《アマテラスヨ、モウ終ワラソウ》

 そう言うと、スサノオは右腕を頭上に振りかざしアマテラスの脳天から一気に斬り付けた。力一杯斬り込むと、アマテラスは真っ二つに斬り落とされた。

「か…みたる…我…が…」

 その言葉を最後に、アマテラスはぴくりとも動かなくなった。

「…勝った、か…」

 そう言うと、正義はその場に崩れ落ちた。

《何ヲシテイル、モウ時間ガナイゾ》

「…それがさぁ、傷口開いちゃって動けないんだよね」

 よく見ると、アマテラスに刺された右脇腹から血が溢れ出ている。先程は浅くと言っていたが、どうやら手刀は結構奥迄突き刺さっていたようだ。

 しかし、それを意に介さず高天原は落下を開始した。

《警告! 警告! 後一分デ高天原爆発!》

 時間が迫っているも、正義は立てずにいた。歪界域を展開させようにも、頭がぼーっとして展開一つ出来ない状況下にあった。

「スサノオ、ありがとな」

《何ヲ言ッテイル。オイ、マサヨシヨ、聞コエテオルカ?》

 しかし、スサノオの問いかけに彼は答えなかった。既に意識を失っていたのだ。

《エエイ、コウナレバ我ガ歪界域を展開サセル迄ノ事》

 スサノオが歪界域を展開させようとした瞬間、高天原は爆散した。 

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