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MITSURUGI  作者: 島田祥介
最終幕【着】
55/57

肆ノ其

 正義がゆっくりと目を開けると、そこは高天原のモニタールームに間違いなかった。

 コインデックの管制室と比べると、それは禍々しさという単語が最も似合う光景だった。

「よくここ迄これたな、草薙」

 突如声をかけられ慌てて振り返ると、そこには生身の姿の加賀が立っていた。思わず戦闘態勢を取るが、加賀は、

「まぁ、GMなんて脱いでゆっくりくつろげよ。きて早々戦闘なんてする気はないからな」

 その言葉が信用出来ずにしばらく拳を構えていたが、一向にアマテラスになる様子がない所を見ると本当に戦闘する気はないのだろう。それを確認した正義はようやく生身の姿になった。

「…何を考えてるんですか?」

「そんなに警戒しなさんなって。せっかく高天原にきたんだし、まずは高天原のルームツアーでも行こうじゃないの」

 余りの発言に唖然とする正義だったが、何も言わずに(きびす)を返して歩き出す加賀の後ろ姿に遮二無二付いていくしかなかった。

 鍛錬場、食堂、闘技場と次々と案内されたが『天人』の姿は何処にもなかった。恐らく、宇気比(うけい)の五柱神とオモイカネで本当に最後だったのだろうと正義は感じた。

 しかし、次の部屋に案内された瞬間、彼は余りの光景に愕然としてしまった。

「こ、これは…」

 大量のエソラムが並ぶ製造工場。

「な、凄いだろ? 人類が何百年とかけてやっとオートメーション化出来る様になったってのに、遥か昔に既にその技術は存在していたんだぜ?」

 子供の様にはしゃぐ加賀とは裏腹に、正義は恐怖すら感じていた。

「…これを東京中にばら撒くんですか?」

「ああ、あれ? やめた」

「え?」

 飄々と答える加賀に、正義は半ば混乱してしまう。てっきり加賀の事だから、東京中を阿鼻叫喚の渦に巻き込んでほくそ笑むもんだと思っていただけに、まさかやめるとは考えもしなっかった。

「せっかくお前とこれから楽しい戦いが待ってるってのに、そんな無粋な真似したってどうしようもねーじゃん。どうせやるならお前を叩き潰してからにするわ」

 その言葉に、正義はゾクリときた。

 この男の発言は全て嘘偽りのない本音だ。これからの戦いも純粋に楽しもうとしている。そこ迄狂気に満ちた男に果たして勝てるのだろうか?

「あ、そうそう。お前には絶対に見せたい部屋があったんだ」

 加賀は、顎で正義についてくる様指示した。正義は大人しく従い彼の後をついていくと、そこはタマハガネが乗っている台座がいくつもある部屋だった。そこは仮眠室だと加賀は答えた。

 何故こんな辺鄙な部屋に案内したのだろうかと正義が疑問に思うと、加賀は台座に乗っていたタマハガネを一つ手にすると、

「さて、問題です。これは一体何でしょう?」

「何でしょう、ってタマハガネじゃないんですか?」

 正義の回答に、加賀は大きくため息を吐いた。余りにも単純な回答に半ば呆れてるといった姿だった。

「タマハガネには違いないが、正解は『守護スル者』のなれの果てだよ」

 その回答に、正義は思わずキョトンとしてしまった。

「ちょっと待って下さい。『守護スル者』って、高天原は『天人』の拠点じゃないですか。何でそこに『守護スル者』が出てくるんですか?」

「そう言うと思ってたよ」

 

 高天原、すなわち『守護スル者』が皇族と手を結んだ際、その事に反発する者もいた。

 やがて、反発する者達は仲間の静止を振り切って高天原を強奪し、鎧で出来た魍魎を造り上げ皇族に(くみ)する『守護スル者』に襲撃をかけた。

 しかし、皇族側には『剣ヲ携エシ者:ムラクモ』『光ヲ携エシ者:ヤタ』『闇ヲ携エシ者:ヤサカ』の三種の神器となるべき特殊外装が存在していた。それだから、どれだけ魍魎を仕掛けても次々と倒され勝ち目はなかった。

 ならば、こちらも強き者を造り上げればよいと感じた反発側は大小様々な特殊外装を製造し、それぞれに神の名を与えた。これがいわゆる『天人』の存在だった。

 やがて、反発側は自らをも『天人』と名乗る様になり、『守護スル者』と『天人』の戦いの幕開けとなった。

 その後、コインデックの創立によってムラクモはミツルギに、ヤタはミカガミに、ヤサカはミタマに、鎧の魍魎はエソラムと称され、その戦いは遥か昔から継続して続ている。

 そして、ミカガミを纏った加賀が謀反した事で、戦いは更に混乱したものとなった。


「高天原のデータベースに『守護スル者』自身のデータはなかったから『守護スル者』が何者かは皆目見当もつきやしねぇ。もしかしたら宇宙人かもな、なんてな」

 ニヤリと笑いながら語る加賀に、正義は質問をぶつけた。

「で、でも、Esにもタマハガネが入っていたじゃないですか。タマハガネが『守護スル者』の成れの果てだとしたら、それって死体化した『守護スル者』を挿入していた事になりません?」

「死体って…せめて魂とか言ってやれよ」

「どっちでもいいですよ、とにかく『守護スル者』はいつ頃からタマハガネ化したかって事ですよ」

「何年もかけてゆっくりとタマハガネとなったんだと。オモイカネが言ってたわ。ただ、わざわざEsに迄タマハガネを入れた理由は判らないから、俺もいい加減モヤモヤする」

 加賀の発言に、正義は言葉を失った。

 自分は『守護スル者』側の人間だったから『天人』相手に容赦なく戦えたが、これが『守護スル者』同士の戦いだと知った今、自分の戦いは何だったんだろうという疑問迄生じてしまった。

「お前、今自分の戦いに疑問を持っただろ?」

 まるで見透かしたかの様に言う加賀に、正義は驚愕した。

「考えてみろ。今、俺とお前は敵同士だ。それと似た様な事が何百年以上も前から続いてたってだけの話だ。『守護スル者』同士が何の為に対立したかなんて俺達にはどうでもいい事だ」

 続けて加賀が口にする。

「正直、お前を舐めてたよ。前々から目障り…いや、恐怖の対象だった」

 俺が恐怖の対象だって?

 正義は、加賀の発言に混乱した。そんな彼を、見詰めながら加賀は話を続けた。

「単なる民間人かと思えば、仲間の力を借りてどんどん成長していく。それ処か、自分のキャパを大幅に超えた力を次々と吸収していった。俺は、正直お前が怖かったよ」

 弱音にも聞こえなくもない加賀の本音。

 しかし、だからといってここで仲直りしてめでたしめでたし、という訳にはいかなかった。

 ──決着。

 互いに覚悟は決まっていた。これから、戦いが待っている。恐らく、これがスサノオとアマテラスの、草薙正義と加賀未来の最後の戦いになるだろう。

「いい加減、お喋りがすぎたな。そろそろ闘技場に向かうとしますか」

 加賀は正義の返答も聞かずに、闘技場へ向かう通路を歩き出した。慌てて正義も彼の後を追う。

 闘技場に着くと、その広々とした空間に正義と加賀の二人は立った。

「俺はお前を倒して、この日本を我が物とするつもりだ」

「そんな事させない! 俺もここで貴方を倒す!」

 互いの体からオーラが発せられる。正義は紅いオーラを、加賀は蒼いオーラを身に纏い今にも燃え出しそうな勢いだった。

「…行くぞ」

 加賀が呟くと、正義はそれに頷く。

「神鎧装纏」

「神化ぁぁぁぁぁっ!!」

 二人のタマハガネが光を放ち、やがてそれはスサノオとアマテラスへと変貌した。

 もう、後には引けない。この戦いが全てを決める。

 一定の距離を置くと、互いに地面を蹴って特攻をかけた。

「加賀未来! ここで決着をつけてみせる!」

「行くぞ草薙! 俺はお前を超えてみせる!」

 正義の拳撃に加賀は手刀で対抗しようとして──アマテラスの外装がぱっくりと割れた。

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