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MITSURUGI  作者: 島田祥介
最終幕【着】
54/57

参ノ其

「北に玄武門、東に青龍門、南に朱雀門、西に白虎門…っと」

 加賀は、モニター操作パネルの中央に位置付けられた丸球の周囲に窪む様に開いていたスロットに、それぞれの鍵を差した。その四枚は吸い込まれる様にスロットの中へと消えていくも、全てが消えてなくなった時点では周囲は静まり返っているだけだった。

「んん? …もしや、ブラフが一枚混じっていたか?」

 彼がそう感じた刹那、激しい振動と共にフロア全体がガタガタと大きく揺れ出した。

「よし、遂にきたか」

 パネル中央の丸球を見ると輝きを放っている。そっと右手を置くと熱を帯びて熱くなっている。その熱は徐々に加賀の体全体を包むかの様に伝わってくるのが判る。

「これは、俺自身がキーになるって事か」

 静かに深呼吸をすると、彼は右手に力を込め「高天原、起動!」と大きく叫んだ。それが合図となって高天原は上昇を開始し、東京湾の最大水深七百メートルより深く沈んでいたそれは自分を覆っていた砂岩を粉々に砕いていく。それが震源となり、川崎や浦安、千葉に微弱ではあるが地震を引き起こした。

 だが、それを単なる地震と感じていなかった者達がいた──そう、コインデックの面々だ。

「管制室より伝達! 震源地は東京湾最深海部。震度はマグニチュード三・五!」

「恐らく高天原が動き出したかと思われます! 現在、空挺部隊を送っている最中です!」

 管制室は半ば混乱状態にあった。それもその筈、高天原と名前は知っていてもその存在自体は全く不明だった物体だ。それが動き出したとなると、混乱しても致し方ない。

「くそっ、加賀に先手を打たれたか!」

 千葉が壁に拳を叩き付ける。ただでさえツクヨミがか使い物にならなくなった事で戦力がガタ落ちした現在、いくらガーゴイル隊の存在があったとしてもスサノオ──草薙正義ただ一人の力じゃどうする事も出来やしない。

「くそったれ! 曲木、もう一回そのタマハガネをよこしやがれ!」

 千葉の怒声に、茜は恐る恐るツクヨミだったタマハガネを手渡す。

「おい、ツクヨミ! 何、こんな時に限って造反しやがったんだっ!!」

 千葉がタマハガネに向かって怒鳴り散らすも、それは全く無意味だった。タマハガネは何も変動なく、ただ静かに千葉の手の中で静まり返っていた。

「高天原浮上を確認! モニター映します!」

 管制室の全てのモニターに東京湾が映し出される徐々に浮かび上がってくるそれは、やがて全貌を(あらわ)にすると直径で一キロメートルはあるであろう巨大な”島”だった。

「想像していたのとは違う大きさだ…」

 石川が思わず言葉を漏らす。東京湾に沈んでいるという時点で、彼にしてみれば精々東京ドーム程度の大きさだと勝手に想像していた。それが、遥かに上回る大きさだけあって動揺せずにはいられなかった。

 そんな中、急に全モニターから映像が途絶え、ノイズまみれになった。

「一体何が起きてるの? 映像班、急ぎ復旧を!」

 姫城が慌てる余り大声を上げる。しかし、次の瞬間にはモニターが復活したかと思うと見慣れぬ不気味な空間に立つ加賀の姿が映し出された。

「くそっ、ジャックしやがったか!」

「千葉さん、相変わらず声が大きいねぇ」

 薄ら笑いを浮かべながら、加賀は千葉に皮肉を言う。

「コインデックの諸君、久し振りだね。どうだい、高天原の出現にさぞかし驚いてるんじゃないか?」

 皆が、加賀がわざわざ映像をジャックした事に黙って様子を見ていると、彼は続けて話を進めた。

「『天人』が全滅してしまったのは手痛い状況だが、こっちにはまだエソラムが大量にいてね」

「それがどうしたってんだ!」

 痺れを切らした千葉が加賀に喰ってかかる。それに対して、加賀は「まぁ、慌てなさんなって」と軽くあしらった。

「で、そのエソラムをこれから東京中にばら撒こうと思っててね」

「何っ⁉」

「どうしよっかなぁ…最初は原宿辺りにでもばら撒こうかな」

 その言葉に管制室にいた全員が動揺してうろたえる。

「いや、やっぱり東京といえば東京駅からがマストだな。東京駅を起点に山手線沿いに、五分おきにエソラムを出すってのは面白いと思わないかい?」

 その言葉に姫城は、千葉に対して特戦部隊と突撃部隊をすべて山手線の駅に部隊配備をする様指示を出す。それに合わせて石川は全部隊員を山手線全三十駅にどう配備させるか計算していた。

 もう、こうなったら報道規制も何も言っていられない。加賀は本気で考えているだろうから。

「さて、まず東京駅にエソラムを何体だそうかな」

「加賀、テメェいい加減にしろ! 一般人を巻き込むんじゃねぇよっ!!」

「千葉さんさぁ、SNS見た方がいいよ? もう高天原の存在が一般人を巻き込んでるんだから」 

 その言葉に、管制室のモニターの一台をSNSにスイッチさせると一般人が遠巻きに撮影したであろう高天原の画像や疑問の声が次々と映し出された。

「何じゃ、こりゃ…?」

「高天原を近影したいが為にボートを出して海上保安庁に捕縛されている一般人も複数いる様です」

「何だって? そんな馬鹿もいるのか?」

 そんな皆が動揺してあれこれと騒ぐ中、正義だけは妙に冷静な態度でいた。

「千葉さん、石川さん。ガーゴイル隊もEs討伐の方に向かわせて下さい」

「はぁ? お前、何言ってんだ?」

 正義は、加賀の映し出されているモニターを指差し、あのビジョンなら自分は高天原の内部に侵入出来るかもしれないと口にした。

「それなら、尚更ガーゴイル隊を一緒に連れて行った方がいいだろうよ」

 千葉の言葉に、正義は首を横に振った。それには彼なりの理由があったからだ。

 一つ目は、ガーゴイル隊をエソラム討伐に向かわせた方が効率的にもいい事。二つ目は、自分の歪界域で複数人を運搬するのは恐らく難しいだろう事。そして、最後の一つは、

「恐らく『天人』失き今、加賀さんは俺との一騎打ちを望んでる筈です。これは飽く迄も俺の我儘ですが、その勝負に俺も乗りたいんです」

 スサノオ対アマテラス、否、草薙正義対加賀未来。

 その戦いがどういうものになろうと、いずれは決着させなきゃならない。それが、高天原出現の今だというのが皮肉な話だが、これも又決着に向けての布石だったのだろう。

「草薙君」

 茜が正義の元に近付いてきた。今にも泣きそうな顔をしている彼女を見て「大丈夫ですよ」と声をかけた。

「加賀さんの強さは判ってるつもりです。でも、ここで俺が逃げる訳にはいかないんです」

「…覚悟は決まってるのね?」

「はい。申し訳ないとは思うんだけど、これはコインデック無関係の感情なもんで」

 正義が苦笑いすると、茜も又ツクヨミを失った事にいつ迄もウジウジしていられないと気付いたのだろう、思い切り正義の背中を掌で叩いた。

「痛ってぇぇぇっ!」

「草薙正義! アマテラスに敗北するなんて絶対に許さないからね!」

「お熱い所申し訳ないんだが、今迄のやり取り全部こっちに筒抜けだったんだが?」

 突如、加賀が割って入る。確かにモニターに加賀が移っている時点で管制室の会話は厭でも彼の耳に入ってくるだろう。それでも、正義は臆することなく「一騎打ち、乗ってくれますね?」と返した。

「いいだろう。今度こそアマテラスの実力でテメェを容赦なく潰してやるよ」

 その言葉を最後に加賀の映像が消え、同時にモニターは再び高天原を映し出した。

「兄さん、本当に──うぉっと」

 千葉が声をかけようとしたより前にスサノオへと神化した。

「…本気なんだな」

「はい」

 スサノオは地面に歪界域を展開させると、

「草薙正義、これより高天原内部への侵入を突貫します!」

 その言葉に、姫城を始めとした管制室にいる全員が立ち上がりスサノオに向かって敬礼をする。

「行ってらっしゃい」

 あの時も口にしたっけと茜は思ってしまったが、正義も又「行ってきます」と同じ返答を茜に向けて発し歪界域の中へと沈んでいった。

「頼むぞ兄さん。必ず帰ってこいよ」

 千葉の発した言葉が、静かに管制室に流れた。

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