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MITSURUGI  作者: 島田祥介
最終幕【着】
52/57

壱ノ其

 東京都新宿区市谷本村町──夕刻。


 市ヶ谷駐屯地の敷地内で、正義達の前に無数のエソラムとアマテラスが隊列をなして立ちはだかっている。

「鬼五十体と狐五十匹、計百体相手に果たして何処迄勝てるか勝負してみせよ! 勝ち進んだ者には、褒美としてアマテラス自らが引導を下してやろう!」

 声高らかに叫ぶ加賀のそれは、戦国時代の武将といった感じだった。大軍を率いて奮い立つ加賀は、これ迄以上に如何に兵力を持ち合わせているかを見せ付けている様だ。

「本当に悪趣味」

 茜がポツリと呟くと、ガーゴイル隊の宮崎も「全くです」と同意した。

 本来は自衛隊の協力も仰ぎたい所だったが、防衛省長官の刑部からNOを突き付けられた。

「慣れない敵に挑んで大怪我をされても困るからな。それなら、慣れた者で挑む方が合理的ではないのかね?」

と、余程GPの存在が気に入らなかったのか、嫌味満載な返しをされてしまってはどうする事も出来なかった。だが、刑部の言い分もあながち間違いではないだけに、コインデック側は八名で挑む他なかった。

「我々はType‐Kyu・Biとの戦闘は行っていないので、若干不利になりそうです。Type‐O・N・Iはこちらで何とかするので、Kyu・Biはお二方にお任せしても?」

 リーダーの長野が、正義と茜に提案する。確かに、二人はタケミカヅチ戦の際にType‐Kyu・Biと戦闘しているだけに、ガーゴイル隊にはType‐O・N・Iに専念してもらって自分達でType‐Kyu・Biを仕留めた方が無難だと思った。しかし、二人で五十体は厳しいものがある。

「しゃーない、いっちょ()りますか」

 正義はその場で背伸びをすると、下した両腕の手甲からブレードを突き出した。

「そうね、戦るしか他に方法がないんじゃ仕方ないものね」

 茜も正義に倣って背伸びをすると、念動宝玉を全開放させた。

「ガーゴイル隊、戦闘準備!」

 長野の号令で、ガーゴイル隊の残り五名は戦闘の構えを取る。その姿を見て、正義も拳を前に突き出して戦いに備えた。

「全軍、突撃!」

「全隊、出撃!」

 加賀と長野の声が同時に響くと、アマテラスを除く全ての”者”が一斉に動き出した。

 出来るだけガーゴイル隊の方に狐が行かない様に、茜はテレジェムを広範囲に展開するとType‐Kyu・Biに向けて攻撃を仕掛けた。そのどれもが次々と狐を射抜き、かろうじて攻撃を逃れた狐は、今度はスサノオのブレードの前に斬り落とされてしまう。それ処かスサノオ自身が咆哮を上げ、怯んだType‐Kyu・Biに次々と斬り込んでいく。

 タケミカヅチ戦の時は、まだミツルギとミタマだった。それがスサノオとツクヨミになった今、最早エソラムは敵ではなかった。

 ガーゴイル隊も又、Type‐O・N・Iを次々と撃破していった。香川が鬼に圧されるとみると福井が背後に回り電磁ブレードで鬼の背中を切り裂いていく。山口が鬼を軽く斬り付け一旦下がると、宮崎が突進して電磁ブレードを深々と突き刺す。富山が一度鬼を振り払いその場にしゃがむと、長野が富山の肩を蹴って宙に舞い鬼を一刀両断する。連携は完璧だった。

 どれだけの時間が流れただろう。エソラムの数も半数近く減った。だが、それは八名を疲弊させるには十分だった。

「さて、そろそろか」

 加賀はニヤリと笑うと、歪界域を二つ生成させた。そこから二体の『天人』が現れる。

「なっ⁉」

 最初に気付いて驚いたのは正義だった。スサノオが向く方を振り向く茜も、その二体に驚きを隠せないでいた。

「”百対八の戦い”はどうなっている! ここで『天人』を出すなんて卑怯だぞ!」

 長野の投げかけに加賀はふんと鼻で笑うと「馬鹿か」と返した。

「卑怯で結構。相手を叩き潰すのに手段なんて選んでられねーよ」

 そう言うと、加賀は右手を前にかざした。それが合図となって、二体の『天人』は戦場へと突撃をかました。

「くそっ、どうすればいい?」

「草薙君はガーゴイル隊に向かってる奴を何とかして! こっちに向かってるのはどうやら飛び道具持ちっぽいから!」

 確かによく見ると、その『天人』の左腕には畳まれた弓の様な物が付属している。対してもう一人の『天人』は、流線型のデザインこそ神に似つかわしくないが多少大き目なくらいで飛び道具らしきものはなさそうだ。だが、

「ここは我々に任せて下さい! お二人はそちらの『天人』と狐を!」

 長野が無謀な発言をした。確かにガーゴイル隊を二分してスサノオとツクヨミのバックアップに回ってもらうにしても、片方は狐と交戦しなければいけない分不利ではある。しかし、ガーゴイル隊が果たして『天人』相手に戦えるのかどうか不安でもある。

「GPのデータ収集の為にも『天人』と戦う必要性もありますしね。それより、我々ガーゴイル隊が何処迄通用するのか確かめる絶好の機会でもありますし、是非やらせて下さい」

 そう言われては返す言葉がない。それならば、その言葉に甘えて自分達は早急に目の前の敵を葬る事に専念する。そして、その後もしガーゴイル隊が苦戦している様であればバックアップに回ればいい。

「判りました。そちらの『天人』は皆さんに預けます。どうかご武運を!」

 正義と茜は無言で頷くと、茜は『天人』へ、正義はType‐Kyu・Biの群れへと特攻をかました。

 案の定、茜が狙う『天人』はその左腕を伸ばすと弓を展開させ炎の矢を飛ばしてきた。それは既に判り切っている事だったので、茜はテレジェムでその矢を簡単に叩き落す。正義は狐の砲撃を物ともせず、素早い動きで次々と獲物を仕留めていく。

 ふとガーゴイル隊が気になって一瞥すると、二人が鬼の討伐に動き回り、残り四人が『天人』相手に戦っていた。若干苦戦を強いられている様にも見えるが、今の所急ぎバックアップに参戦する必要もなさそうだ。

 ならば、自分は自分に課せられた責務を果たすだけの事。狐も、残り二十もいないだろう。

「させないよ」

 突如、アマテラスが正義目がけて突進してきた。掌のE-ガンで牽制をかけてきたのは以前の戦いと同じだったが、スサノオが態勢を立て直す前に今度はイレディミラーを容赦なく照射させた。それは、スサノオの咄嗟の判断で分断されたが、その隙をついてアマテラスの右拳がスサノオの腹部に見事に入った。

「ぐはっ」

 ミカガミの時は後方支援系だと思っていただけに、まさか肉弾戦でくるとは思ってもみなかった正義は完全に油断していた。それだから、態勢を崩したスサノオはE-ガンの集中砲打を容赦なく浴びてしまう。それでも、怯みこそするもののE-ガンの威力ではスサノオに傷ひとつ付けられず、

《サセンッ!》

 スサノオの突進に今度はアマテラスが怯んでしまう。

 ツクヨミは『天人』と狐の両方を相手する羽目になりとてもではないが合流する事も出来ず、最早スサノオとアマテラスの一進一退に賭けるしかなかった。

 しかし、ここで大誤算が起きた。

「『天人』討伐成功!」

 何と、ガーゴイル隊が『天人』を打ち破ったのだ。これは、加賀も驚きを隠せずにいた。

「そんな馬鹿な!」

 精鋭部隊とはいえ、一兵卒如きが『天人』を打ち倒しただと? 神化してもいない雑兵が神に勝っただと?

「そんなの有り得ない…何かの間違いだ」

「間違いなんかじゃねぇよ。俺達を散々見くびっていたいた結果だ!」

「くっ!…草薙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 動揺と怒りが入り混じった感情の加賀は、スサノオに向かってイレディミラーを連射した。だが、集中力に欠けた状態ではスサノオを捉える事は出来ず、次々と避けられてしまう。それが駄目なら、と今度は突進をかけその鋭利な鉤爪(かぎづめ)を突き刺そうと次々と手刀を見舞った。それすらも、スサノオが次々と薙ぎ払い、この時点である意味アマテラスの敗北を意味していた。

「よっしゃ、こっちも『天人』撃破! 後は狐狩りに専念するのみですが?」

 茜が加賀に向かってニヤリと投げかけた。それを聞いた加賀は、自分が冷静でない事に今更ながらに気付かされた。この敗北は自分が蒔いた種だ、大人しく撤退しよう。

「残念だが、今回も俺の負けだ。せめて撤退するくらいの慈悲をくれ」

 そう言うと、足元に歪界域を展開させる。その姿を、八名全員がただ黙って見守っていた。やがて、アマテラスが静かに消えていくと、誰からともなく歓声が上がった。

「やった! アマテラスを追い払えたぞ!」

「ガーゴイル隊の実力を見たか! もう怖いものはなしだ!」

 ガーゴイル隊の喜びの叫びを聞きながら、茜は正義の元へ向かった。

「どう? これからもアマテラスうと互角に戦えそう?」

 その言葉に、正義は首を横に振った。

「多分、冷静な加賀さん相手ではスサノオでも不利でしょうね。それでも、いずれは決着をつけなきゃならない相手です」

 それを聞いた茜は、何処となく近い内にスサノオとアマテラス、どちらかに終止符が打たれるのではないかと不安を抱いた。

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