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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第拾壱幕【動】
51/57

肆ノ其

 東京都江戸川区平井──深夜。


 燈明寺を前に正義は新たな『天神』と戦っていた。

 体中に顔があるそれは、スサノオとほぼ互角に渡る戦い方をしていた。スサノオがブレードを叩きこもうとすれば手の甲にある顔の口からブレードが飛び出て攻撃を防ぎ、胸にある顔の口から炎の球をスサノオに向けて吹き飛ばすも今度はスサノオが軽くそれをいなす。正に一進一退の攻防戦だった。

「ったく、何だあの気持ち悪い『天人』は」

「五柱神の中で多面神といえば、多分ですが活津日子根命(いくつひこね)でしょうね」

 データ不足のせいで詳しい情報が掴めない千葉と石川は半ば苛ついていた。エソラムの集団はガーゴイル隊が曲木と共に捌いてくれているからいいとして、問題は加賀が五柱神を平気で出している事だ。もしかしたら、加賀側も駒が残り少ないのかもしれない。だからとて、動きが読めない以上作策を講じる事も難しい。

「石川さん、ちょっと検証してほしい事があるんですけど」

 そんな考えとは逆に、正義はまるで戦いを楽しむかの様に動き回っていた。

「検証ですか、どんな事です?」

「いやね、コイツの顔全部が武器だと思うんですけど、どの顔が何を出すのかなぁって」

「何か戦闘に支障でも?」

 胸顔の炎の球をよけながら、正義は続けて説明をする。

「どうも戦い辛いんですよ。さっきも、どこかからか矢が飛んできたりして距離が詰め難くて」

「了解しました。じゃぁ、草薙さんは思い切って突っ込んで下さい」

「距離が掴み難いって言ってる傍から…スサノオ、いきます!」

 そう言うと、正義は地面を蹴って『天人』に向かって特攻をかけた。両手でブレードを展開させて振りかざそうにも、『天人』も同じく手甲の顔からブレードを展開させてスサノオの攻撃を防ぐ。

『天人』も負けじと胸顔から炎の球を連続して吐き出すも正義は右へ左へと球をかわす。しかし、ここで謎の矢が十数本スサノオを狙って飛んできた

《サセヌワ!》

 正義よりも先にスサノオが動き、全ブレードを展開させて矢を弾き飛ばす。そのまま『天人』に向かって突っ込むと、『天人』は今度は右膝の顔から(ランス)を突き出してスサノオの攻撃を防いだ。

「草薙さん、背中の顔に注意して下さい」

 突如、石川が正義に声をかける。

「恐らく肩の顔は単なる武装のそれに過ぎないと思います。問題は背中の顔から追跡矢(ホーミングアロー)が狙ってます」

 背中がキモだったか。

「了解、先に背中を潰します!」

 正義は注意深く敵の攻撃をかわしつつ、徐々に背中に回った。完全に背中に回ると、大きな口を開けている顔から再び追跡矢が射出された。だが、事前に予測されたそれはブレードで軽く薙ぎ払われてしまう。残るは、その大口にブレードを突き付けるだけだ。

 そう思った刹那。

 三面ある頭部の正顔が勢いよく回転したかと思うと、それぞれの口からレーザーの様な光源がスサノオを襲った。

「何っ⁉」

 慌てて両腕を交差させてレーザー光を受け止めると、その威力で弾き飛ばされてしまう。

 受け止めた個所も溶解せず白い煙を上げていた程度だが、その威力は凄まじいものだと思い知らされるには十分すぎた。あれが回転ではなく、集中して照射されれば万が一貫通する可能性もあるんじゃないかと正義には感じられた。

『天人』は自分に後がないと感じたのか、それとも本気を出して敵を葬ろうと感じたのか、スサノオに対し全ての飛び道具で攻めてきた。

 これでは防戦一方で前に進めない、何か手はないか──

 突如、念動宝玉(テレジェム)の一基が雷光を纏いながら『天人』に直撃した。それは『天人』の動きを止めるには十分で、雷光の影響か痺れている様子も伺える。

「お困りの様じゃないの」

 背後に人影を感じ振り返ると、そこにはテレジェムを全開放させたツクヨミが立っていた。

「曲木さん!」

「Esはガーゴイル隊がほとんど片付けてくれたから手伝いにきたら、大分苦戦してるみたいじゃない」

 ニヤリと笑う茜は、そのままテレジェムを全基『天人』に向けて射出させた。

 体制を立て直した『天人』は飛び道具をもってして念動宝玉を狙うも、どれもひょいと避けられるとその全てが叩き付けられた。

「これで形勢逆転?」

「はい、非常に助かりました」

 正義は体制を立て直すと、手甲のブレードを展開させて臨戦態勢を取る。

「曲木さん、無茶苦茶な要求していいですか?」

「無茶苦茶なのはいやだなぁ…それで?」

「テレジェムを操作しながらジェムウィップで奴の腕を拘束してほしいんですけど」

「それ、凄く面倒臭いよ?」

 そう言いつつもニヤリと笑う茜は念動宝玉を展開させ、主に頭部と背中を集中的に攻撃した。

 テレジェムを狙うレーザー光は次々と避けられ、隙を突いて攻撃してくる宝玉にたじろんでいた。背中の追跡矢もバリア展開させたテレジェムの中を通過する事で、電磁力の影響か威力を落としてぽとりぽとりと次々と地面に落ちていく。

「残りは腕ね、っと」

 左右四対の勾玉連珠(ジェムウィップ)を勢いよく突き出し『天人』の腕目掛けて投擲(とうてき)する。そのうちの二本は手甲の顔から突き出たブレードに弾かれるが、残りは見事にその腕に絡みついた。

「これでどう?」

「ナイスフォロー助かります!」

 ふと横を見ると正義がいない。よく見ると、彼は攻撃の隙を突いて『天人』の左横に立っていた。

「これならいける!」

 正義は右腕を振り上げると、そのまま勢いよく『天人』の左腕に斬り込んだ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 斬り付けたブレードは、徐々にその腕を『天人』の本体から切り離していく。やがてスサノオのブレードが貫通すると『天人』の腕は鈍い音を立てて地面に落ちた。それを見届けた正義は、そのまま胸顔の前をすり抜け今度は右腕に切りかかった。『天人』も負けじと抵抗するが、勾玉連珠が邪魔をして身動きが取れずにいる。案の定、その右腕も斬り落とされ『天人』はその両腕を失った。

「後は飛び道具を何とかするだけか」

「それなんだけど、ちょっと遊んでもいい?」

 そう言うと、茜は一基のテレジェムを超高速回転させ『天人』の胸顔目がけて射出した。胸顔から連射される炎球はその宝玉の回転に次々と弾き飛ばされ、宝玉は見事に──胸顔の口にすっぽりと収まった。

 テレジェムが邪魔をしている事で、胸顔は炎球を飛ばしたくとも僅かな隙間から炎を噴出させるだけに留まってしまい、三面顔も周囲の宝玉を叩き落とすのに必死になっている。つまり、正面はがら空きになってしまっているのだ。

「後は草薙君の好きな様にやっちゃって」

 その一言に、正義は俄然やる気を出した。

 正面突破は彼の得意分野だ。ブレードを少し長めに突き出し、一気に『天人』へと特攻をかける。そして、右腕を胸元に構えそのまま勢いよく突っ込むと──首を撥ね飛ばした。

「え?」

 茜はてっきり胸元から切り刻んでいくと予想していただけに、まさか三面顔を仕留めるとは思ってもみなかった。しかし、あのレーザー光は厄介な代物だっただけに、確かに首を撥ねるのは合理的だ。

『天人』は全てを失ったと言ってもいい。膝蹴りをスサノオに喰らわそうとするも両腕を失っているせいかバランスを崩しその場に倒れてしまう。

 同時に、それを見逃す正義ではなかった。馬乗りになって次々とブレードを突き刺してその外装を徐々に削り取っていく。やがて、その奥からタマハガネが見えると彼はそれを思い切り握り締め外装から引き千切る。

「曲木さん!」

『天人』から取り出したタマハガネを茜に投げ付けると「それは研究材料用に取っておいて下さい!」と一言投げつけ、地面に転がっている三面顔をなます切りにし、留目(とどめ)と言わんばかりに胸顔にブレードを突き付けた。それが『天人』にとっては最期だったのだろう、炎も消え、力なく動かなくなった。

「よっしゃぁっ! 『天人』撃破!」

 スサノオになって初めての勝利に、正義は思い切り声を上げた。


「イクツヒコネでも駄目だったか」

 人知れず遠巻きに戦闘を眺めていた加賀は、顎に手をあてぽつりと呟いた。

 やはり神化した二人が揃うと至極厄介だということは厭でも判った。

 それならばどうする? 上野の時みたいに戦力を分断させるか? それとも草薙の言う”『天人』のオールスターズ”でいくか?

 しかし、ここで加賀にとって大誤算があった。

『天人』と呼べる存在は五柱神の残り三体とオモイカネしかいないのだ。オールスターズも何もあったものではない。エソラムは大量にいるが、それではいずれ敗北を喫するのは十分すぎるくらい理解出来てしまう。

「ま、ここで考えててもしゃーない。帰って茶でもすすりながら考えるか」

 そう言うと、足元に歪界域を生み出し静かに消えていった。

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