参ノ其
「やはり、まだ精査が必要か」
加賀が見詰めているモニターの先には、東京のマップとそこに点在する赤い光がいくつもあった。その光は”鍵”を示すものだったが、残りひとつというのに複数の光があちらこちらと点在していた。
千葉大の一件もあるので範囲を広げてみると、更に埼玉や静岡にもその光はあった。
「虱潰して探していく、というのもいい加減疲れてきたな」
彼はモニタールームから一旦離れると、別の大部屋へと向かった。
そこには大量のエソラムが製造されており、移動式レーンから吊るされているエソラムは次々と外装をあてがわれひとつの物体へと完成していく。
しかし、それ迄のそれとは違うのは内部にタマハガネが入っていない事だった。
アマテラスの特殊能力で、エソラムはタマハガネなしでも動かせる様になった。それだから大量生産が可能となったのだ。
それでも、加賀は満足していない。前回の戦いで六十体のType‐O・N・Iを失った。いくら神化した二人と、恐らく特戦部隊上がりだろう六人が相手だからって、流石に数は減り過ぎだ。このまま『天人』とエソラムを素直にぶつけた所で敗北は必須だ。それだから、早急に残り一本の鍵を探す必要がある。
大量に流れてくるエソラムを眺めながら、彼はぽつりと「行ってみるか」と呟いた。
歪界域を発生させ、瞬時に目的地へ向かう。一瞬にして乗り込まないと、又あいつ等に邪魔をされてしまうからな。
東京都豊島区高田──早朝。
金乗院に辿り着いた加賀は、瞬時に歪界域を消し痕跡を残さない様に努めた。
何となくハズレな気がしなくもないが、一応モニターに表記された場所だ。探すだけの価値はある。今回はエソラムに頼らずたった独りできたのは単なる気まぐれだったが、流石にこうも小さな寺院で戦闘なんて愚かしいにも程がある。
そう考えると、彼はアマテラスへと神化しその瞳のセンサーで鍵を探した。
ぐるりと一瞥してみるも、それらしき反応はない。更に奥へ進んできると六十六部廻国供養塔に反応があった。しかし、彼はその石像を破壊する事なく更にセンサーの精度を上げて石像の足元を観察した。
そこには鍵を模したプレートは存在したものの、鈍色に光るそれは完全に紛い物だと一瞬で判る代物だった。
「やはりブラフだったか」
最初からハズレだと判っていただけに、別段落胆とかはなかった。だが、ある意味落胆させたのは、
「見つけた!」
草薙正義と曲木茜の存在だった。確かに金乗院は新宿御苑からそう遠くない。にしても、来るのが早すぎるというか邪魔者の登場はウンザリだ。
「一人って事は、又何か企んでるの?」
「曲木、お前は馬鹿か? こんな小さな寺院でどうやって戦闘すんだよ」
そう言われて言葉を失う正義と茜だったが、すかさず正義が「でも、何か企んでるのは事実じゃないんですか」と聞き返してきた時には呆れて溜息を漏らしてしまった。
「御苑から車で二十分かかるかどうかの場所を選んだ俺が馬鹿だったよ。鍵探しが悪巧みのひとつだってんなら、俺の行動は全部悪巧みになっちまう」
そう言うと、加賀はその場で歪界域を発生させる。案の定、草薙の奴はこの姿を見て「逃げるのか⁉」と言ってきやがった。ここ迄くると馬鹿の一つ覚えだな。そう心の中で思いながら彼は歪界域の中へと沈んでいった。
再び高天原へ戻った加賀は、モニターの赤い光から金乗院を消した。
それでも、点在する赤い光は十二もある。やはり、虱潰しに探すしか方法はないのか?
しかし、赤い光を眺めていてふと気付いた事があった。静岡や埼玉は無視したとして、東京に点在する赤い光をいくつか線引きしてみると、それは六芒星の形になった。
「…まさか、な」
ただ、問題はそれが二つある事。そのどちらかに鍵があるのかもしれないし、重要拠点と見せかけたブラフかもしれない。しかも、二つの内一つは仏閣とは何も関係ない大きな公園だ。そんな所にあるとは到底考え難い。だが、タケミカヅチは仏閣とは関係ない千葉大学に現れた。その頃から鍵探しをしていたとも思えないが、それでも仏閣云々はもしかしたら無関係なのかもしれない。
「…待てよ」
偶然六芒星を見出したが、それだからとてその中心点が鍵の在処とは限らない。手持ちの鍵の内、玄武門と白虎門は乱雑に点在した光から見つけ出した物だ。これ迄通り赤い光から見付かるかもしれない。
《何ヲ思イオ悩ミデ》
「オモイカネか」
アマテラスに神化してからは、生身姿でも他の『天人』とも会話する事が出来る様になった。それは大いなる利点で、指示を出すにもきちんと命令に従っている事が判るのは有難かった。
「なぁ、オモイカネ。お前は鍵について何か心当たりはないのか?」
《鍵ハ『守護スル者』ガ管理シテイタモノデアリ、我等『天人』ニハ遠キ存在ナルモノ》
そういえばそうだった。正直玄武門と白虎門は偶発的に入手出来たもので、本来は『天人』とは無関係の代物に近しい存在だったな。それならば、今迄通りやっていくしかないか。
《古キニ拘ル必要ハナイカト。時ト場所ハ何モ『守護スル者』ガ埋メタトハ限ラズ》
そう言われて、加賀ははっとした。そうか、何も時代云々に拘る必要性はないのか。しかし、そうなると余計に探すのが難しくならないか?
彼が何気に目にしたモニターには、六芒星の中心にある大きな公園が煌々と映し出されていた。




