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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第拾壱幕【動】
49/57

弐ノ其

 東京都江戸川区西葛西──深夜。


 荒川と中川を挟んだ河川敷に歪界域が発生し、葛西前通りと清砂大橋通りを急ピッチで通行止めにさせる事となった。

「まぁ、規制は大した被害じゃないからいいけど、何でこんな辺鄙(へんぴ)な場所なんだ?」

 千葉はバンの中で咥え煙草のまま首を捻った。

「それは判りませんが、発現迄二時間ってのが不思議なんですよね。しかも、たった一体だけ」

「まさかとは思うが超大型の『天人』とか言わないだろうな。五メートルとか十メートルとかの」

 その言葉に、石川は「やめて下さいよ」と返した。そんな超大型が現れようものなら、いくら神化した二人でも苦戦は必須だ。

「別に俺は構いませんよ。曲木さんだっているし、何たって今はスサノオ自身が疼いてますから」

 正義が会話に割り込んできた。スサノオになれた事が余程自信に繋がっているのだろう、声に張り合いが出ている。

「そう言っていられるのも今の内かもしれんぞ。間もなく歪界域から何かが出てくるからな」

 歪界域が微妙に揺らいでる。発現時間的にももうそろそろだ。

「何かは判りませんが、出ます! 二人共用心して下さい」

 石川の言葉に反応するかの様に歪界域が光った。同時に何らかのシルエットが浮かんできたのが判る。

 そのシルエットの正体は──加賀がたった独りで立っていた。

「規制の事を鑑みて二時間って時間設定したけど、もしかして待ちくたびれたか?」

 まるでアメコミ風に右手をかざす彼の姿は、明らかに挑発した態度だった。その姿に、正義と茜の二人は拳を前に突き出し戦闘態勢を取る。二時間も待たせて加賀が一人な訳がない。何らかの隠し玉を用意しているだろうと、二人は咄嗟に判断したのだった。

「なんだよ、せっかく三人揃うのも珍しいんだから世間話くらいする時間用意したっていいじゃないか」

「舐めないで。どうせ貴方の事だから何処かにEs(エス)を待機させてるんでしょ?」

 茜が反論すると、加賀はふんと鼻を鳴らし「つまんねーの」と返した。

「そう性急に事を進めなくたっていいじゃねーか…ま、大正解なんだがな」

 加賀と正義達の立ち位置の中間程に巨大な歪界域が広がると、そこから大量のType‐O・N・Iが出現した。その数は五十も六十もいそうな、わらわらという言葉が似合う状態だった。

「言っただろ? 次はどうなるか楽しみにしておけって」

「それにしては悪趣味すぎない?」

 半ば呆れる茜の横で、正義は目を爛々(らんらん)と輝かせていた。それもその筈、彼にとっては自力でスサノオとなって初の戦闘だったからだ。

「曲木さん、俺はいつでも行けます! なぁ、スサノオ」

《応!》

 スサノオも、個人的に戦闘を楽しみにしているらしい。そんな姿を見て、流石に唖然とした茜だったが、

「草薙君がその気なら、私だって負けてられないわね。それじゃ、いっちょ()りますか」

 そう言うと、どちらが合図した訳でもなく同時に地面を蹴って敵陣に突入していった。

「合戦を行い易くするのに河川敷をえらんだって事か、なる程ね」

 状況を察した千葉は、咥え煙草のまま後方に待機しているバンに連絡をとる。

「長野、富山、山口、福井、香川、宮崎、全員出れるか?」

「いつでも出撃可能です。むしろ、この時を待っていましたから」

「よし、思い切って暴れてこい。サポートなんて考えないで、Esをぶっ潰すくらいの勢いでいけ」

「ガーゴイル隊、了解!」

 後方のバンが開くと六名のガーゴイル・プロくテクターに身を包んだ人物が勢いよく戦場に向かって行った。

「曲木、兄さん、今増援を送った」

 何体ものエソラムを撃破していた二人の動きが一瞬止まる。

「遂にGP投入っすか!」

 GPが完成していたのは津久井から聞かされていた。しかし、実践投入させる為のテストが長引いて実際に動かすのは大分先になるだろと言われていただけに、遂にきたかと正義の胸の鼓動は高鳴った。

「言っとくけど、特戦部隊から精鋭六人選んだからな。GPがGMの劣化版だと思うと痛い目にあうからな」

 千葉が言っている先から、一人がType‐O・N・Iを一体仕留めていた。

「香川、Es一体撃破!」

 その姿を見て、正義は負けてられないとますます闘志を燃やしエソラムの集団に突っ込んでいった。

 四方八方から飛び掛かってくるエソラムに対して、スサノオの体中からブレードが飛び出し全てのエソラムを貫いた。そのままエソラムを振り回すと、勢いよく別のエソラムに向けて射出した。その内の何体かは別のエソラムに直撃し、怯んだ所を狙い澄ましたかの如くガーゴイル隊のメンバーが斬り付けた。

「富山、Es三体撃破!」

「え、もう三体もやっつけたんすか⁉」

「特戦部隊を舐めてもらっては困りますね。もしかしたらGMよりも強いかもしれませんよ?」

 富山と名乗る男は、ニヤリと笑うと優しい口調で正義に軽口を叩いた。そう言われたら正義も負けてはいられない。

「判りました、こっちだってガーゴイル隊の皆さんに『参った』と言わせてやりますよ」

「私も同様です。スサノオとツクヨミの凄さを、これでもかってくらい見せつけてやりますよ」

 会話に割り込んできた茜は軽口を叩くと、念動宝玉(テレジェム)を全開放させ台風の勢いが如く周囲のType‐O・N・Iに叩き付け、その外装を次々と削り落としていく。

「流石はGMだ。これは我々も負けていられませんね」

 リーダーの長野が茜の動きを見て感嘆する。だが、それでも特戦部隊上がりだけあって手持ちの電磁ブレードを容赦なくエソラムに斬りこんでいく。

「長野、Es五体撃破!」

 その数を聞いて茜は驚いた。正直、ガーゴイル・プロテクターはどうしてもガーディアン・メイルより性能は劣ると高を括っていた。しかし、GMを装着している自分達と同等か、下手をすればそれ以上の能力を持ち合わせている。”特戦部隊の精鋭”という言葉は伊達ではなかったという事か。

「…」

 正義達八名の戦いを遠巻きに眺めていた加賀は、まさか余計な“駒”がコインデック側に出来たとは、と下唇を噛んだ。

 気が付けば、Type‐O・N・Iも半数以下に減っている。正直最初から勝とうとは思ってもみなかったが、こうも奴等が優勢になると何となくだが癪に障る。

「連敗、って訳にはいかないよな」

 そう呟くと、加賀はアマテラスへと神化し迷わず正義の元へ突っ込んだ。

「草薙ぃぃぃぃっ‼」

「──加賀さん⁉」

 掌の光弾を何発も射出させ、スサノオの体に当てる。しかし、怯みはするものの致命傷にはなっていない。

「全体の士気を下げるには、やはりお前を殺すのが一番手っ取り早いからな!」

 再び光弾を何発も当て、戦闘態勢を取らせない様にする。一発一発は弱くても、何発も当たっていればダメージは蓄積される筈。姑息でもいい、弱らせた所を一気に叩くだけだ。

「舐めてんじゃねーよ!」

 しかし、スサノオから伸びたブレードがアマテラスの脇をかすめていく。

「なっ」

「そんな弱っちい攻撃でスサノオを倒そうなんて、馬鹿にすんのもいい加減にしろ!」

 加賀の考えとは裏腹に、正義は既に戦闘態勢を取っていた。よく見ると、怒りの余り握り締めた右拳がプルプルと震えているのが判る。

「Esの集団で襲ってこようが負けるスサノオなんかじゃねぇ! どうせだったら『天人』勢揃いでくるくらいの戦い方できやがれ!!」

「…言ってくれるじゃねぇか」

 そう言うと、加賀は牽制の意味も込めてわざとスサノオの足元にイレディミラーを照射させた。

「貴様がそう言うなら、次はご希望通り『天人』オールスターズできてやろうじゃねぇか。後悔しても遅いって事を厭という程教えてやるよ」

 アマテラスの足元に歪界域が広がる。

「逃げるのかよ⁉」

「馬鹿か。“オールスターズの選抜”に帰るだけだ」

 正義の怒りが却って加賀を冷静にさせ、この場にいる意味がない事を知らしめた。

 これを敗北だと思うなら勝手に思わせておけばいい。危うく本来の目的を見失う所だった。

“オールスターズ”の響きに惑わせておけばいい。その間に俺はやるべき事をやるだけだ。

 静かに歪界域に沈んでゆくアマテラスに「待て!」と声を荒げる正義だったが、遠くから、

「福井、Es撃破! これにて全勢力殲滅完了!!」

 その一言に、正義も加賀を追うのを止めた。

 勝ちこそしたものの、何かがしっくりこない。否、果たしてこれは本当に勝利と言っていいのか?

 皆が歓声を上げる中、正義だけは一人じっと掌を見詰めていた。

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