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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第拾壱幕【動】
48/57

壱ノ其

 正義がスサノオになれた事で、コインデックの会議室はまるで祭りの様な騒ぎになっていた。それもその筈、茜本人には言えないが彼女だけでは負担が大きすぎるのでは、というのが皆の見解だった。しかし、ここで正義が神化した事で形勢逆転に結び付くだろうと誰しもが思っていた。

「後は歪界域のコントロールだけっすね」

 正義の言葉に皆が賛同する。歪界域を自在に操る事が出来れば、もう後手に回る事もなければ、大きな話高天原に突入する事だって可能になるだろう。

 まずは石川がエソラム側との歪界域を差別化させるのに、マーキングカラーの変更を行った。

「よし、これで二人の所在地が判る様になりました」

 後は、二人の覚悟だけだった。

 GMのままだと大騒ぎになる危険性を考え、危険だとは思うものの生身の姿で歪界域に突入する事に決定した。最初は正義だけで行うつもりだったが、ここにきて茜が自分も実験に参加すると言い出したのには誰もが驚いた。

「私が女だからとか、そんな余計な心配は却って迷惑です。私だって神化した一人なんですから、この実験に参加する資格は十分あると思いますが?」

と、誰もが反論出来ない意見で実験の権利を掴み取った。

「じゃぁ、改めて説明するが目的地は近場で新宿駅西口。西口についたら一度報告してそのまま帰還、いいな?」

 正義と茜はこくりと頷く。そして、自分達の足元に歪界域を生成させると無言のまま歪界域に沈んでいく。

 しばしの沈黙が部屋に広がる。

 三分後、最初に報告してきたのは茜だった。

「曲木、只今新宿駅西口到着。付近に人影なし、歪界域の存在知られる事なく成功」

 会議室では歓声が上がった。まさか、こうも簡単に成功するとは思ってもみなかったから、言葉に出来ない嬉しさがあった。

「曲木、兄さんからまだ連絡がないからそのまま待機で」

「了解」

 これで正義から連絡が来て二人揃って帰還すれば勝利は確定したといっても過言ではない──と思っていたのだが。

「草薙です。えーっとですね…ここは何処なんでしょう…?」

 茜から連絡があった二分後、正義から連絡が入った。

「『ここは?』って、新宿じゃないのか?」

「それがですね…あ、表示板見っけた。えー…現在、新橋六丁目にいるみたいです」

 その場にいた全員が肩透かしを喰らった。

「何で、そんな訳の判らん所に出たんだよ⁉」

「それはこっちが訊きたいっすよ。俺は確かに新宿駅西口を目指してたんすから」

「あー、もう判った。二人共今すぐ戻ってこい」

 千葉は、半ば諦めながら二人に命令した。歪界域は意外と厄介なんだな、運が絡むとは思えないが予定通り行かないとなると何らかの要素が絡んでくるのか?

 しかし、茜がすぐに戻ってこれたのに対して、正義は次々と明後日の方向に歪界域展開させてしまっていた。最終的に歌舞伎町に展開させた所でタクシーに乗って帰ってくる羽目になってしまった。

「何で、俺だけ滅茶苦茶な場所に飛ばされるんだ?」

 思い通りにいかない事に首を捻る正義に、茜が近付いてくる。

「草薙君、明確なヴィジョン浮かべて移動してる?」

「『明確なヴィジョン』?」

「そう、明確なヴィジョン。迷いなく一点集中させてヴィジョンを生成させるの。目的地が曖昧だと、今回みたいにあちこちに飛ばされる羽目になるんじゃないかしら」

 一点集中か。

 たしか、千葉さんも明鏡なんたらとかいう中国の諺で似た様な事を言ってたっけ。

「だったら、ちょっとやってみるか」

 そう呟くと、彼は瞳を閉じ俯いて脳裏に一か所特定のヴィジョンを生み出そうと必死になった。最初は曖昧だった光景がやがて曇りなく浮かび上がり、ヴィジョンが完全に脳裏と一体化すると自然と歪界域が足元に生成された。

「行ってらっしゃい」

 何処へ向かうのかは判らないが、きっと草薙君はヴィジョンを見出したんだろう。そう思った茜は正義に一言だけ声をかけた。

「行ってきます」

 瞳を閉じたまま茜に返答すると、正義はそのまま歪界域に吸い込まれていった。


 東京都世田谷区用賀──夕刻。


 アカンサスの葉がそよ風にたなびいてカサカサと音を立てていた。何処からともなく、子供達の「ばいばーい!」という声も聞こえてくる。

 (きぬた)公園。

 正義が初めてミツルギとなった場所。

 あの戦いが、そもそもの始まりだった。茜や加賀と出会い、一民間人が戦闘員へと変化するきっかけの場所に彼は立つと、静かにい大きく息を吸って吐いた。

 正直、何が正しいのか判らないでいる自分もいる。でも、今は自分の正義に忠実に従おうと彼は心から思った。

 加賀未来、あんたが何を考えていようが俺は俺なりの戦い方であんたを止めてみせる。今後、どんな死闘が待ち構えていても俺には曲木さんも、スサノオもいる。絶対に負けられない、いや、絶対に勝ってみせる。

 彼が此処を選んだのは、改めて自分に喝を入れたかったからだ。

 最初の頃は恨みの場所になっていたのに、気が付いたら自分自身と向き合う場所になっていたなんてな。

 クスリと笑うと、タマハガネを握り締め、

「なぁ、スサノオ。お前はアマテラスに勝てるのか?」

と、何の気なしに声をかけてみた。しかし、ここでスサノオから思いもよらない言葉が投げ付けられた。

《力求ム者ヨ、我ハ汝ガオラヌト(チカラ)ガ出セヌ》

「それは器としてだろ?」

《ソレモアル。シカシ、我モ考エタ》

「何を?」

《汝ハ我ニ思イモヨラヌ解答(コタエ)を出シテキタ。ナラバ、我ニ必要ナモノハ何カト考エタ時、何故カ汝ノ信念ガ浮カンデキタ》

「…」

《今ノ我ハ、汝ガ生ミ出シタト言ッテモ過言デハナイ。汝ニ我ガ必要ナ様ニ、我ニモ汝ガ必要ト見ウケタ》

 まさか、スサノオから自分を必要としていると聞かされると思わなかった正義は、思わず口をあんぐりとさせてしまった。

 てっきり《我ヲ誰ト心得ル。天下無双の荒神ナルゾ》とか威勢のいい言葉が返ってくると予想していただけに、スサノオから弱音に近しい言葉が飛んでくるなんて。

 でも、これで判った事がある。今迄、神化する事で後は自分が好き勝手にスサノオを操るものだと思っていた。しかし、どうやら神化になってもスサノオの意志は残っている様だ。

 だったら上下関係はどうなる? そんなのは最初から存在しない。自分がスサノオを必要とする様に、スサノオも自分を必要としてくれていると言っていた。つまりは、同等の立場にいる事になる。

「じゃぁ、俺等はバディって事か」

《‘’バディ‘’トハ何ゾ?》

「相棒って事だよ。俺とスサノオ、この二人はこれから先も共に戦うバディって事に、お互い今気付いたって事さ」

 そう伝えると、スサノオは正義の言葉に押し黙ってしまった。かと思うと、何かを思い出したかの様に、

(チカラ)求ム者ヨ、改メテ汝ノ名前ヲ訊キタク》

「そういやそうだな。俺は草薙正義、改めてよろしくなスサノオ」

《マサヨシカ。ナラバ改メテ、スサノオノ名ニオイテマサヨシノバディ(・・・)ニナラン》

 早速慣れないバディって言葉使ってるよ、何か可愛く思えてきた。

 正義はクスクスと笑うと、気を取り直して前をじっと見据えた。

 加賀さん、いや、アマテラス。

 俺等は更なる力を得た。これで、あんたを恐れる事は何もなくなった。きっと俺に吠え面をかかせたいんだろうが、逆に俺が吠え面をかかせてやるから覚悟しておくんだな。

 笑顔でいる正義だったが、その瞳の奥は怒りの炎でメラメラと燃えていた。

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