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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第玖幕【変】
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陸ノ其

 フロア中に激しい金属音が鳴り響いた。 

 ミツルギの攻撃に対して瞬時にミカガミへと姿を変えた加賀は、突然の出来事に「貴様は馬鹿か!」と思わず叫んでしまう。

 実力、経験共に明らかな力量差があるであろう事は互いに判り切っている筈なのに、草薙正義は迷うことなく殴り込んできた。それが、加賀にとっては全く理解出来ずにいた。

 それは、加賀だけではなく千葉や石川達も一緒で、あれだけ大和に釘を刺されていた正義の行動に驚愕すると同時に釘を刺していた大和が何も言わない事に不安を感じていた。

「司令、好きにさせていいんですか?」

 千葉の疑念に対し、大和は一言だけ「ああ」と返す。

「こうなるだろう事は、むしろ私が望んでいたといってもいいよ」

 どんな事を口にされようと、いざという時は誰よりも真っ先に動き出す。それがどういう結果を結ぶかなんて関係なく、目の前で苦しんでいる人々がいる限り守りたい一心で行動する青年──それが草薙正義というイレギュラーなんだ、と大和は感じていた。

 それだから彼の行動は密かに嬉しくもあり、誰よりも大和自身が密かに願ってやまない姿であった。

 そして、それは茜も同じだった。

 草薙君は私達を守る為に単身特攻する、それならば私は私の出来る範囲で彼をサポートするだけだ。

 ミカガミの飛び道具は自分が抑えさえすれば、ここから先はミツルギ対ミカガミの一騎打ちの場にさせられる。そうすれば彼は遠慮なく戦える筈だ──と、茜は正義が我先に突撃したのを確認した瞬間ミタマへと姿を変え、念動磁場を周囲に展開させ彼の行動制限解除を行う事でその全てを支持していた。

「加賀さん、もうこんな事は止めて下さい!」

 ミカガミの光弾をかわしながら、正義は何とか掴みかかろうと必死に近付こうとする。それに対して加賀は怒りをあらわにした口調で「貴様が俺に指図すんじゃねぇよ!」と、次々と光弾を撃ち込んでくる。

 地面を蹴ったミツルギがミカガミの動きを抑え込むのに拳を叩き込もうとし、それを跳ね除けたミカガミがイレディミラーを照射する。寸での所でミツルギがそれをかわすと、ミタマの念動磁場がイレディミラーの光を吸収し相殺させる。

 その光景が幾度となく続いた頃、正義は加賀から一度距離を置くと、

「…どうしても止めないんですね?」

「当たり前だろが」

 その一言に、正義はそれ迄躊躇っていたブレードを展開させて加賀に対して身構えた。

「だったら…俺があんたを倒す!」

 本当ならしたくはなかった敵対意思の表明。

 だが、加賀が本心からコインデックの、自分達の敵に回るというのであればこうするしか他に方法はなかった。

「そうかよ…それなら、こっちも本気を見せてやるさ」

 所が、加賀はその姿を待っていたとばかりに余裕の笑みを見せると、ミカガミを解除させ生身の姿に戻った。

 加賀が言う本気の意味が判らず構えを解けずにいる正義を前に、再び「神鎧装纏」とミカガミに変化する彼だったが、次の瞬間、

「──神化!」

 その言葉にミカガミは大きく形状を変え、その場にいた全員が見た事もない姿を纏った。

「何だ、ありゃ…」

 驚愕の余り、千葉はぽつりと呟く。それを聞いた加賀は、ニヤリと笑うと左手を振り上げると高らかに、

「我が名はアマテラス! 天津神の頂点に立つ者なり!」

「アマテラスですって?」

 変貌した姿だけではなく、その名称に茜が驚きの声を上げる。それは、茜だけでなくその場にいた全員がざわつくには十分な材料だった。

 天照大神。

 日本神話においては主神とされ、皇祖神(こうそしん)にして日本国民の総氏神(そううじがみ)である神の御名。

 その名を、それ迄ミカガミの守護者であった加賀が高らかに宣言している。

「加賀ぁっ! てめぇ、舐めた事抜かしてんじゃねーぞ!」

 突然の宣言に怒りを向ける千葉に、加賀は右手の人差し指を向けると指先から小さな光弾を発射した。それは、茜が展開させている磁場を簡単に貫き千葉の足元に穴を開けた。

「なっ…」

「神を怒らせたら、こんなもんじゃ済まないけどねぇ?」

 厭らしい笑い声を響かせた加賀は、その人差し指を今度はホノカグツチに向けた。しかし、そのままミツルギへと指を向けなおすと「ホノカグツチなんて、この際どうでもいいわ」と彼に向けて放った。

「神に歯向かった事、後悔させてやるから…こいよ」

 掌を反転させ、人差し指を曲げて挑発する加賀に、正義は一度両腕を開くと地面を蹴って加賀に向かって突き進んだ。

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 右手甲のブレードを払って加賀の動きを牽制しつつ、左手甲のブレードを突き付ける。しかし、それは寸での所で加賀にかわされ光弾を数発叩き込まれる。その勢いで地面に押し戻されるが、次の瞬間には立ち上がると再びアマテラスに向かって特攻した。

 手甲のブレードを三枚に広げ、数メートル離れた位置から突き伸ばす。それすらも簡単にかわされ、頭上から光弾の雨が降り注ぐ。正義もそれを薙ぎ払う事で辛うじてかわし、態勢を立て直すと再び地面を蹴ってアマテラスに近付こうとする。

 だが、念動磁場を貫いた程の勢いのない光弾は、加賀が明らかに手加減している事を表していた。それに気付いていない正義は、一気に距離を詰められた事で打ち勝つチャンスを手に入れたと勘違いしてしまっていた。

「…甘いな」

 至近距離迄ミツルギが近付くと、タイミングを見計らったかの如く両肩のイレディミラーを一気に照射させた。それはミツルギを見事に捉え、直撃の威力で派手な音と共に正義は地面に叩き付けられてしまう。

「ぐはぁっ!」

 数度バウンドして地面に転がる様に倒れた正義の下に加賀が静かに近付くと、そのままミツルギの頭部を右脚で思い切り踏みつけた。

「どうだ、降伏するなら今の内だぞ?」

 上半身を折り曲げ、わざとらしく顔を近付けると無表情に近い口調で加賀は正義に問い質した。

「そんなの…誰がッ!!」

「改めて聞く、貴様は馬鹿か?」

 右足を浮かせると、加賀は思い切りミツルギの頭部を蹴り飛ばした。そのまま、至近距離で光弾を掌から何発もミツルギに叩き込むと、その内攻撃する事に飽きたのか右腕を思い切り振り払い目の前に複数の歪界域を発生させる。

 本来なら揺らぎが起こってから歪界域が発生しそこからエソラムや『天人』が出るであろう状態だったのだが、アマテラスと化した加賀にとっては造作もない事だったのだろう、瞬時に発生させた歪界域から、

「五柱神!?」

 千葉達が身構える事もままならず、目の前に五体の『天人』が再び姿を現した。

「帰したんじゃなかったのか!?」

「駒を隠し持つのは将として当然の行動範囲だろうが」

 その言葉に、誰もが固唾を飲んだ。

 加賀は本気でコインデックを潰しにかかっている。ここ迄くれば、もうお遊びでは済まされない。

「最後通告だ、鍵を寄越すかこの馬鹿を殺すかどっちか選びな」

 そういうと、加賀はミツルギを思い切り蹴飛ばし大和の下に転がした。恐らく、言葉次第では次の瞬間には五柱神に命じてミツルギの、草薙正義の魂は消し飛ばされるだろう。

「…わかった、今回は大人しく従おう」

 右手に握っていたカードを加賀に投げ飛ばそうとした刹那、大和の左足首を掴む者がいた。

「…駄目…ですよ…渡し…ちゃ…」

 ふらつきながらもゆっくりと上体を起こす正義は、そのまま膝に手をあてふらふらと立ち上がった。

「はっ、いよいよもって俺に殺される覚悟が出来たってか」

 その姿は、すでに意識を失いかけていたのだが、その眼は真っ直ぐ加賀を見据えている。それでも、

「言っただろ…俺が…あんたを…」

 両腕を静かに広げると、頭上で両掌は拳を力一杯握り締める。

 そのまま、勢いよく腰元迄腕を振り下ろすと、

「俺があんたを倒すってなぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァッ!」

 咆哮に近い叫び声と共に、ミツルギは光を帯びた。同時に、

《汝、(チカラ)ヲ求ム者ナリヤ?》

「ああ、魂だろうと血肉だろうと好きなだけくれてやるから、今すぐ力をよこしやがれッ!!」

 その言葉に反応するかの如く、光は更なる輝きを見せた。

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