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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第玖幕【変】
39/57

伍ノ其

 東京都新宿区内藤町──地下。


 新宿御苑の地下深くにあるコインデックの全施設、そのメインフロアともいえる大広間の中央に大きなうねりを見せながら蠢く巨大なタマハガネはあった。

 その名はホノカグツチ。

 古くは『守護スル者』が天子と共に『天人』討伐していた頃に託され、今やコインデックの全エネルギーを担うだけの力を持つそれは、火迦具土神の名に相応しい程の紅い煌めきを放っていた。

 しかし、そのホノカグツチの下に正義達が急ぎ到着した時には、幾人もの防衛部隊員が打倒され大和とそのSPが加賀達と対峙している場面が広がっていた。

「ほぉ、もう少し時間がかかると思ってたが意外と早かったんだな」

 加賀の横にはオモイカネが、そしてその背後に見慣れぬ『天人』が五体。

 その姿を見た突撃部隊の各班が部隊展開しようとした所を「やめておけ」と千葉は制した。恐らく、今の状態で下手に戦闘状態になったとしてもミツルギとミタマ以外はオモイカネの精神攻撃にやられ、残った二人が加賀と六体の『天人』を相手に立ち向かうのは無謀極まりないだけだ、と千葉は瞬時に悟った。

「てめぇ、元々はこっち側の人間だった割によくこんな仕打ちが出来たな」

 怒りの表情で睨み付ける千葉を見た加賀は、わざとらしく肩をすくませると「仕方ないじゃないですか」と寒々しい口調で返した。 

「『統括司令殿とサシで話がしたい』と言ったのにこんな人数で歯向かわれたら、こっちだって防衛するしかないでしょう? あー、怖い怖い」

 大袈裟な立ち振る舞いで挑発するかの如く千葉を煽ると、次の瞬間には冷徹な面構えで、

「…で、話を聞いて貰える気にはなったのかよ?」

「だったら、一体何の目的でこんな手の込んだ真似事をしたのか聞きたい所だがね?」

 大和も負けじと冷徹な対応で、加賀を相手に怯まずにいる。その姿を見た加賀は、鼻で笑うと「“鍵”を貰いにきたんだよ」と、きっぱりと口にした。

「大和の爺さんよ、あんたが持つ鍵とホノカグツチは交換条件って所だ。周囲一帯がどっかーん! よりはマシな話だと思うけどな」

 確かに、ホノカグツチのエネルギー量で換算すれば、下手に爆発しようものなら半径七キロメートルは陥没し業火に巻かれる危険性がある。当然、その中には皇居や赤坂御所も含まれている。

「司令、早急にGPを──」

「いや、今回は出鼻を挫かれた。残念だが、今更出した所で無意味だろう」

 千葉が小声で囁くも、大和はそれを制した。今、新たな戦力を投下した所で『天人』側の動きを活発にさせるだけで悪循環だと大和自身が悟っていた。

「それで、鍵はいくつ集めた?」

「あんたの鍵を含めたら三つ。残りひとつはゆっくり探すさ」

 余程自分の実力に自信があったのだろう、加賀は誤魔化す事なく素直な情報を落とした。それを聞いて、大和の表情に一瞬陰りが浮かぶ。

 しかし、次の瞬間には普段の飄々とした表情に戻ると、

「何処迄本気か判らない以上は、そう簡単に渡す訳にはいかないな」

 加賀がどうホノカグツチを破壊するか判らない以上、大和もハッタリをかますしかなかった。それに対し、加賀は「ほぉ」とニヤリと笑う。

「ああ、せっかくだからコイツ等の紹介もしておくか」

 加賀の後ろで全く動じずにいる五体の『天人』を指差すと、

宇気比(うけい)の五柱神と言えば、石川くらいなら判るんじゃねぇか?」

「宇気比の五柱神だって!?」

 宇気比とは、天照大神と素戔嗚尊との間に交わされた誓約で、素戔嗚尊が天照大神の持つ勾玉を噛み砕いた際に生み出された天忍穂耳尊(アメノオシホミミ)天之菩卑能命(アメノホヒ)天津日子根命(アマツヒコネ)活津日子根命(イクツヒコネ)熊野久須毘命(クマノクスビ)の五人をして宇気比の五柱神とした。

 それが目の前にいるとなると明らかに戦力は加賀の方が有利ではないか、と石川は体を震わせてしまう。

「まぁ、コイツ等は勿体ないから犠牲にするとしたらオモイカネだけどな」

 それだとしても。

 オモイカネの精神攻撃はGMでないと防げない。そうなれば、今ここで対オモイカネ戦が起こってもこちらが不利になるのは明白だと誰しもが思っていた。

「総司令、残念ですが向こうは本気の態勢で挑んでいます」

 宇気比の五柱神だと知った石川は、現状での力量差を大和に告げる。それは彼自身も薄々気付いていたであろう事は眉間に皺の寄った表情で判った。

 しかし、次の瞬間には大和は普段の飄々とした表情に戻り、スーツの胸ポケットから一枚のカード状の物体を取り出すと「お前が欲しいのはこれだろう?」と、それを加賀の前でちらつかせた。

「これを渡したとして、ホノカグツチを破壊しないという保証は?」

「そういうでかい態度を取られる度に、破壊したくて堪らなくなるんだけどな」

 その一言に、毒気を抜かれていた千葉達は一斉に戦闘態勢の構えを取る。しかし、その姿は加賀にとって余程滑稽に見えたのだろう、大声で笑うと「正気か?」と投げつけた。

「まさか、こんな状態で俺等と戦おうって?」

「てめぇに好き放題言われて黙っていられるかよ」

 しかし、そんな彼等に対して大和は右腕を上げて制する。そこには、焦りも恐怖もない余裕の姿があった。

「まずは『天人』を退かせてもらおうか」

 大和のその一言に、加賀は一瞬動きを止める。だが、首をもたげると小馬鹿にした様な口調で、

「俺に命令出来る立場だとでも?」

「これを破壊したらお前の目的は果たせなくなるが、それでも構わないのだね?」

 大和と加賀のやり取りに、その場にいた全員の空気が凍る。

 緊迫した状態で無言が続き、何処からともなく誰かの唾の飲み込む音だけが聴こえてくる。

「…判った」

 圧倒した空気に負けたのか、最初に口火を切ったのは加賀の方だった。

「神をも前にたじろがないあんたに免じて、こいつ等は帰らせるよ」

 目の前に複数の歪界域を発生させると、オモイカネと宇気比の五柱神はそれぞれ沈み込む様に歪界域の中に消えていった。それを確認すると、大和はその場にいた全員に武器を下す様首を振った。

「さて、これで対等なやり取りが出来ると思うんだがな」

 加賀の言葉に、大和はニヤリと笑って返す。

「そうしたいのは山々だが、消したくても消えない種火が残っていてね」

 何かを察したのか、それ迄上げていた右手を大和が下すと、

「うおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 それが合図と言わんばかりに、地面を蹴った正義が加賀に向かって突き進んだ。

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