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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第玖幕【変】
36/57

弐ノ其

 深夜のトレーニングルームに、激しい金属音が交差する。

 ミツルギの攻撃をミタマがかわし、ミタマの反撃をミツルギが受け止めつつ反撃に出るといったものだったが、

「少し焦りすぎじゃない?」

 いくつものパターンを繰り返し一時休息に入ろうとする際、茜が息を切らした状態で正義に投げ掛けた。恐らく、大和に言われた言葉が引っ掛かっているのだろう事は判るが、それにしても正義の動きにキレがないのではないかと茜は思っていた。

「…こんなんじゃ駄目なんです」

 GMを解除した正義は、眉間に皺を寄せながら悔し気な顔をしている。それは、大和の言葉以上に加賀の一言が心の奥で引っ掛かっていたからに他ならなかった。

『どうやら、テメェを殺すのは俺の役目になったっぽいな』

 若干ではあるがミツルギもパワーアップが出来た。しかし、それが逆鱗に触れたのか加賀は正義にはっきりと「殺す」という言葉をぶつけてきた。

 自分の中で何とかなるんじゃないかという、密かに思い描いていた淡い期待は完全に無意味なものになった。そうなると、自分が鬼になりきらないと加賀に勝てる可能性は果てしなく低い。

「ねぇ、草薙君」

 そんな正義を見た茜は、いつもの様な優しい表情を見せる事なく「私は、そんなに頼りない?」と、きっぱりと彼に向って少しばかりの怒りをぶつけた。

「え?」

 今迄見た事のない茜の表情に、正義は思わず目を丸くさせてしまう。

「いや、曲木さんは凄く頼りになるパートナーで──」

「だったら、何で一人で抱えているの?」

 いつもそうだった。

 イレギュラーである自分を払拭させる為だったのかもしれないが、他のメンバーに極力頼ろうとはせず、何とか自分で解決出来そうな物事は自分で補おうとする男が草薙正義だった。

 それは決して悪い事ではないのかもしれない。

 だが、それが彼自身の重圧として彼自身を苦しめ痛めつけている事を、他でもない彼自身が気付いていなかったのも又事実だ。

「私が女性だから、とかいう下らない理由で躊躇するなら馬鹿にしないで」

 きっと貴方は、男たるプライドで『女性は守るべきもの』と無意識に働きかけている可能性がある。それだとしたら、それはパートナーとして非常に迷惑な事だ。

 守護者が二人しかいない今、心の奥底で思い描いているあらゆる感情をぶつけ合って理解し合う事が今の自分達に必要じゃないのか、と茜は正義に告げた。

「…参ったなぁ!」

 一番痛い所を突かれまくった正義は、頭を掻くと大袈裟なくらいの音量で叫んだ。その表情は怒りも悔しさもなく、純粋にしてやられたといった苦笑いのものだった。

「曲木さんにはやっぱり敵わないや。そういう所が怖いから躊躇ってたんですよ」

 先輩守護者であり、凛とした姿勢で『天人』と立ち向かう女性、曲木茜。

 そんな茜に憧れと少しばかりの恐怖を感じていた正義は、加賀同様茜の事も自分が超えるべき壁の一つだと密かに感じていた。しかし、それはどうやら敵いそうにない、否、敵う訳がないと気付かされた彼は両手を上げて茜に降伏するしかなかった。

「俺に、今必要なのは兎に角力なんです」

 大和に言われた事に対する悔しさ、ミツルギが語り掛けてきた謎かけへの怒り、加賀に「殺す」と言われた事への悲しみ、それは全て自分に力が足りないから起こってしまったであろう不安を包み隠さず彼女に語った。

「その力は、半分私が請け負うよ」

 正義の言葉を最後迄聞いていた茜は、彼の肩にそっと手を置くと普段の優しい表情で呟いた。

 一度に色々な物事が彼を襲って、それが重圧となって身動きを取れなくさせているのなら少しでもそれを解放させる事もパートナーとしての役割だ。

 それならば、自分も彼と同じ立ち位置にいるべきだと茜は悟った。

「だから、貴方は貴方のやりたい様に動いちゃって。その責任とフォローは私も引っ被る」

「それは」と言いかける正義の肩を、今度は力一杯握り締める。

 痛みで悶える正義を見て大笑いした茜は、彼の肩から手を離すと、

後輩(おとうと)先輩(おねえさん)に甘えなさい。こういう時こそ周りを振り回すくらいの勢いでなきゃね」

「弟…って、そこ迄俺は頼りない男じゃないっすよ?」

「ほら、そうやって『男たるもの』みたいな言い方しちゃってさ。それだから、何でも独りで抱える頭でっかちになるんだよ?」

 そう言ってニヤリと笑う茜を見て、正義は加賀や大和以上にこの人を敵に回さない方がいいのではないかと頭を掻いた。

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