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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第捌幕【力】
32/57

伍ノ其

 東京都江東区清澄──深夜。


「Type‐O・N・Iの内一体が公園から逃亡! 中村学園通りを中学校方面に向けて逃走中!」

 清澄公園の一角で、正義と茜の二人は江戸風時計塔を背にエソラム達と戦いを繰り広げていた。

「草薙君、ここは私が抑えてるから貴方はそっちを!」

「了解! ミツルギ、逃亡したEsを追跡します!」

 深夜帯とはいえ付近は住宅が密集している場所での戦闘だ。もし、万が一民間人がいようものなら大惨事に繋がってしまう。たかがエソラム一匹であろうと誰一人傷付けさせたりはしたくない。

 逃走したType‐O・N・Iを捕まえ破砕はしたものの、先日のミツルギであろう声とのやり取りが原因で正義の中には若干の焦りが広がっていた。

 今持ち合わせている力が及ばなければ、今以上の敵が目の前に現れたら、果たして今の自分に相対する力はあるのだろうか──

 そんな焦りが的中したのか、近くの警ら隊の警笛が響いた。

「ここは一般人の立ち入りを禁──うわぁぁっ!」

 しかし、警ら隊員は逆に打ちのめされた様な絶叫をあげた。驚いた正義が声の方を振り向くと、

「…加賀…さん」

 正義の目の前に加賀が立っていた。その後ろには、代々木で敗北を喫した『天人』達が加賀に仕える様に立っている。

「草薙さん、今もしかしてX‐001がいるんですか?」

 スピーカーから石川の声が聞こえてくる。戦闘管理官としてあえてコードナンバーを口にしているのが、逆に正義には辛く感じた。

「曲木さん、そちらの戦闘が終わり次第──」

「いえ、こっちは俺一人で大丈夫です」

 下手に戦闘に入るより前に、何としてでも加賀の真意を聞き出したかった。恐らく、ここにミツルギもミタマも揃えば否が応でも戦いが始まってしまうのは判り切っていた。それだから、正義は単独に持ち込む形にした。

「『何でここにいる?』って顔してるな」

 そんな正義の気持ちを知ってか知らずか、冷静、というより無表情の彼は、正義を見据えながら言葉を紡ぐ。

「どうせ、お前には訊いた所で俺の部下になんてなる訳ないだろうから」

 正義から目を逸らす事なく右手で髪をかき上げると、そのまま腕を頭上に持ち上げた。そして、

「殺される瞬間を見にきてやったよ」

 加賀は口元に笑みを浮かべるとその手を手を振り下ろす。それが合図となってか、大型『天人』が正義に向って突き進んできた。これでは流石に戦闘を避ける訳にいかなくなった正義はすかさず臨戦態勢に入る。

 体躯の割に素早い動きをするのはすでに体感済みだが、三宿戦同様力任せに腕を振るってくる様は行動パターンを掴めず初手から苦戦してしまう。振り下ろされた巨腕は幹線道路のアスファルトを簡単に粉砕し、寸での所で回避したミツルギの体にその破片がいくつも当たる。

「加賀さん! 何で!?」

「神になろうとしてるのに、何でも糞もねぇだろよ」

 確かに『天人』を手駒にしている段階で神に匹敵する力を得ているのかもしれない。しかし、そんな姿を目の当たりにしながらも正義には未だ加賀の考えが信じ難かった。それだけではない、いくら上層部からの命令とはいえ一度は共に戦った仲間を排除しろなんて指示に従うのも無理だと感じていた。

「グルァァッァァァァッァァッァァッ!!」

 そんな考えが戦闘中に意識を集中させていなかったせいで、大型『天神』の拳がもろに正義の腹部を直撃した。

「ぐはぁっ!」

 数メートル吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。そのままバウンドして勢いがなくなるが、ダメージの大きさが呼吸困難に繋がり立ち上がる力が出ない。

「おいおい、タケミカヅチを殺ったヒーロー様がタケミナカタ程度にボコられるとはお笑い草だな」

 若干朦朧とした頭に、加賀のにやついた声が聞こえてきた。だが、正義が加賀の顔を見る前に『天人』が腹部に蹴りを入れる。その勢いで宙に浮くと、タケミナカタが大きく振り下ろしてきた右拳が彼を再び地面に叩き付けた。

「ぐっ…!」

 苦しみながらも何とか次の攻撃を避ける為に、地面を蹴って大型『天人』と距離を取る。がくつく足に無理矢理力を入れて立ち上がり、戦意を失っていない証拠を見せる為にその場でファイティングポーズを取る。半面、油断していい様に弄ばれた自分を呪った。

「データ照合確認、[コードNo.T‐0268:タケミナカタ]で間違いありません! 曲木さん、応援をお願いします!」

「草薙君、無理しないで! こっちの戦闘が終わったらすぐ向かうから!」

 スピーカーから石川の、茜の声が次々と聞こえてくる。

 自分の油断がこうも周囲に迷惑をかけてしまっていると感じ、段々と自分に怒りすら感じてきた。

《汝、(チカラ)ヲ求ム者ナリヤ?》

 そんな中、突如ミツルギが例の言葉を再び投げつけてきた。

 何度も何度も言われ、いい加減苛立つなぞかけ言葉。欲しいと思っても魂がどうのといい、いざ自分が苦悩すると再び訊いてくる。 ああ、自分の力量不足は一番自分が判ってるんだ。それを補うだけの力を提供する意思があるんだったらどうこう言う前に何度も訊いてこないで最初からその力とやらを差し出せ。

《汝、(ちから)ヲ求ム者ナリヤ?》

「いいからその力をよこせってんだよ馬鹿野郎!!」

 怒りに任せて遮二無二右腕をタケミナカタに向けて突き出すと、彼の体に異変が起きた。

 ドクン、と心臓が、全身が唸りを上げた感覚に襲われたかと思うと、ミツルギの右腕の装甲が大きく変化し手甲部位のブレードがそれ迄一本だったのに対してまるで三枚おろしにされた様に三本の剣となってタケミナカタの左腕を貫いた。

「──!」

 それに驚いたのは正義もそうであったが、一番は加賀が驚いていた。

 自分にとって草薙正義という男は単なる一般大学生で、守護者としての能力は極端に低いと高をくくっていた。それが、わずかな日数でこうも力を得る迄に至ったのか──

「うらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 そんな加賀とは裏腹に、正義はタケミナカタに攻撃が当たった事が好機と感じたのか一気に反撃に転じた。

 タケミナカタが右腕を振り下ろそうとするのを左腕で受け止めると、そのまま右腕のブレードを次々とその巨躯に突き付けた。

「これがミツルギの…これならいける!」

 魂の叫びとやらが果たして届いたのかどうかなんて判らないし知る由もない。されど、そんな事は今はどうだっていい。

 今はただ、新たに手に入れた力で目の前にいる敵を倒す事、それだけだ。

 地面を蹴って一旦距離を取ると、目を閉じて深く息を吐いた。そして、目を見開くと同時に地面を蹴ってタケミナカタの懐に一気に入り込むと右拳を容赦なくその腹部に叩き込んだ。

 その威力に飛ばされかけたタケミナカタは、何とか態勢を整え今度は力任せに腕を振り回そうとするが、次の瞬間にはミツルギが腕を跳ね除けて拳撃を次々と叩き込んでいく。

 攻撃を受け止め、避け、そして反撃に踊り出る。その勢いは、タケミナカタの外装を徐々に削り取っていき、今や鬼神と化した正義にとってタケミナカタは最早敵ではなかった。

「これで!」

 だが、とどめを刺そうとした刹那、ミカガミを纏った加賀に一撃を受け止められてしまった。

「加賀さん!?」

 反撃を恐れその場から離れ態勢を整えるが、加賀はその場に立ち止まったまま微動だにしない。代わりに静かな口調で、

「コイツにはまだ利用価値があるから、ぶっ壊されちゃ堪らないんだよ」

 加賀はその場に歪界域を発生させると、半壊したタケミナカタを半ば押し込むような形で転送させた。

「どうやら、テメェを殺すのは俺の役目になったっぽいな」

「加賀さん…」

 その言葉には、明らかに怒りや憎しみに近しいものを感じた。口調が変わらない分、尚更そう感じてしまうのだろうか。

 正義は、いつでも加賀が襲い掛かってきてもいい様に、今度は油断する事なく臨戦態勢の構えを取った。しかし、

「ただ、今日は必要な物も手に入ったし大人しく撤収してやるよ」

 加賀は、両手を広げると攻撃に転じる所か撤退宣言を口にした。

「認めたくはないが、今回は敗北を認めてやる。その代わり、次に会った時は死を覚悟しておけや」

「何でですか! 何で、俺等が敵対していがみ合わなきゃならないんですか!?」

 正義の投げかけた質問に、加賀はたった一言「嫌いだからだよ」と返してきた。

「コインデックも大和の(じじい)も…何よりもテメェが嫌いだから敵になったっていい加減気付けよ」

 そう言うと、彼はその足元に歪界域を発生させ溶け込む様に消えていき、取り残される形となった正義の下に静寂が訪れる。その静寂は、彼を安堵で包む訳ではなく逆に悲しみと悔しさを生み出す形となった。

「何で…何でなんですかぁっ!!」

 正義の叫び声は明け始めた空に虚しく響くだけだった。

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