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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第捌幕【力】
31/57

肆ノ其

「クイズ…ですか」

 会議室から出た後で、茜は古澤の下を尋ねた。

 加賀から出された問題の内、地形の事は兎も角として京都から東京への遷都に関しては何らかの情報を持ってやしないかと期待しての事だった。

「アーキアラジーの方で、遷都と『守護スル者』に関係する情報は何か掴んでいませんか?」

 その言葉に、古澤は茜に待つ様促すとデータベースから明治新政府時代の情報を引き出し始めた。

「…残念ですけど、それらしい情報は全く記載されてはいないですね」

『守護スル者』の存在は、古くは平安京時代にはその存在が確認されていた。実際、過去における大戦の裏では『守護スル者』が暗躍していたものもあるといった記載もある。

 しかし、茜が加賀から問われたという“帝が京都から東京へ移り変わった理由”に関しては、その記述はアーキアラジーには存在しなかった。果たして、それは加賀が茜を混乱させる為のフェイクにしか過ぎないのか、あるいはアーキアラジーには存在しない真意が何処かに隠されているのか古澤には皆目検討もつかなかった。

「東京があんな内側に入り込んだ形になった理由も問題として出されたんですけど、それって遷都と何か関連性があるんでしょうか?」

「それに関しては…ごめんなさい、地質学は専門外なので私にはさっぱり」

 古澤の悔しそうな溜息に、茜は諦めるしかないかと一緒になって溜息を吐いてしまう。

「失礼します」

 そんな中、石川も古澤を尋ねて解析部のドアを開けた。

「あれ、曲木さんもこちらにいらしたんですか」

 古澤は基本的に一人でいる事の方が多いタイプと知っていた石川には、茜とはいえ別客がいた事が驚きだった。しかし、彼女から古澤の下を尋ねた理由を聞かされると、

「東京湾か…それ、何となくですが答えに結びつきそうな話知ってます」

 今の日本の形があるのは、伊能忠敬が寛政12年(1800年)から文化13年(1816年)迄足かけ17年をかけて日本全国を測量して大日本沿海輿地全図を完成させた功績にある。ただ、一説に寄ればまだその頃の日本は現在の様な地形ではなく、大日本沿海輿地全図は伊能が作ったものではない説や、何かの隠蔽工作の為に無理矢理伊能に作成させた説、伊能に書かせた図面の通りに幕府が大掛かりな工事で今の日本の形にしたという突拍子もない説もある。

「もし、東京湾が『天人』と何らかの関係があって幕府がそれに関っていたら、“無理矢理作成説”もあながち有り得なくないと思えるんですよね」

「幕府と『天人』が? 『守護スル者』じゃなくて?」

 茜が目を丸くさせると、石川は彼女に対して肩をすくめた後古澤に向って、

「実は、古澤さんにお訊きしたい事とにてるんですよね、それ」

「私にどんな事を?」

「『守護スル者』は、一度『天人』に大敗してますよね──関が原で」

 石川が一人調べた中で、慶長5年(1600年)美濃国不破郡関ヶ原(現在の岐阜県不破郡関ケ原町)における関ヶ原合戦にて『守護スル者』は石田光成率いる西軍に、『天人』は徳川家康率いる東軍についていた事が判明した。その結果東軍が勝利し江戸幕府が樹立された訳だが、当然その裏では『天人』に『守護スル者』が大敗を喫した事になる。何故その様な形を成したのか迄は彼にも調べられず、その事について古澤の見解を訊こうとした所今に至るとなった。

「もしかしたらなんですけど、関が原の大敗とそれ以降の江戸幕府が何らかの関係性を持っているとは考えられないでしょうか?」

 全てが解明した訳ではないが、加賀の問題とやらが『天人』と絡んでいる事であれば、恐らくもって幕府は『天人』と関っている筈だろう。

「確かに、日本地図の件もそうだけど、帝に『守護スル者』が残った状態で幕府の『天人』に勝ったのなら遷都の件も有り得ないとは言い切れないわね」

 石川の仮説に、古澤も加賀の問題を改めて振り返って相槌を打った。倒幕の陰で『天人』と『守護スル者』が暗躍し『守護スル者』が勝利していたのであれば、明治政府樹立以降も彼等が皇族や政府との繋がりがあるのも頷ける。そうは言っても東京湾の件に関しては記述がない以上何の答えも出せず仕舞いなのだが。

「所で、曲木さん。この話は総司令に?」

「それが、加賀さんが絡む話なので躊躇ってしまって…」

 その言葉に石川は「いえ、それでいいでしょう」と返してきた。

「総司令には申し訳ないですけど、この件は僕が独自に調査しますから…古澤さんも内密にお願い出来ますね?」

「判ったわ」

 石川の様な立場であれば、本来ならば上層部、特に総司令である大和の指示を仰ぐのが絶対ではある。しかし、彼にはここ近日の大和に対しいくつかの不満と疑問があり、千葉が大怪我を負っている今だからこそ自分がしっかりすべきだという想いから動ける内に自分の思った通りに行動してみようという結論に至っていた。

『下に嫌われる事』をそっくりそのまま総司令である貴方にぶつけてやりますよ。下が上に噛み付くとどうなるか、しっかり見届けてもらおうじゃありませんか。

 石川の心の内に秘められた炎が大きく蠢いていた。

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